「プレゼンに失敗しそう」「後輩に嫌われているかも」「絶対に会議でうまく発言できない」――こんな風にネガティブな感情が心を覆ってしまうことは誰にでもあります。ネガティブ思考はデメリットばかりではありませんが、ビジネスにおいてはマイナス要素になることが多いのは確か。
でも大丈夫ですよ。前頭前野を鍛えれば、ネガティブな感情を抑えることが可能です!
そもそも人間の脳はネガティブに傾く
「自分はネガティブ思考だからダメなんだ……」なんて落ち込んでいるならば、その必要はありません。人間はみなネガティブに傾きやすいのです。
不安や恐怖、緊張や怒りといった感情は、脳の中心部にある大脳辺縁系の中の扁桃体が深く関わっています。名古屋大学大学院心理学講座教授の大平英樹氏は、「扁桃体は、何かを見たり聞いたりしたとき、それが生存に関わる重大なものであるかを一瞬のうちに評価する」と話します。
例えば、リアルな毒グモや毒ヘビのオモチャを見た私たちは、通常であれば「ギャッ!」と叫び体を退けるでしょう。そして、あとからオモチャだと分かり安心するはず。でも、もしもそれが本物の危険生物であったとしたら、その過敏な反応こそが自分の命を守ったわけです。このようにして、扁桃体は危険を察知したら瞬時に興奮して、無意識のうちに体を反応させます。
それに、我々の祖先は危険な動物から子供を守る必要があったため、常に危険を察知する思考回路が備わってきました。それを私たちも、しっかりと受け継いでいます。
また、シカゴ大学の心理学者ジョン・カシオッポ氏は脳機能の測定により、「ポジティブなものより、ネガティブなもののほうが、人間の脳に強烈なインパクトを与える」と発見しています。このように人間が物事を否定的にとらえやすい傾向を、心理学用語で「ネガティブ(ネガティビティ)・バイアス」(否定的偏向)というのだとか。
だから人間はみな、基本的にはネガティブ思考。自分だけではありませんよ、気を楽にして取り組んでいきましょう。
ネガティブな感情がビジネスに及ぼす影響
では、ネガティブな感情は、どうビジネスに影響するのでしょう。
全米屈指のコンサルタント、クリスティ・ヘッジス氏は、著書のなかで「ネガティブになればなるほど、平静を失っていく」「負の連鎖は意図を破壊する」と述べています。
実のところ、ネガティブな感情は決してマイナスばかりではありません。危機管理能力に長けているといっても良いでしょう。しかし、クリスティ・ヘッジス氏がいうように、物事をマイナスにとらえ始めると、ことを起こす前から「きっと失敗する」などといった考えを呼びこんでしまいます。そうなると、“こうしよう”と考えていたことに自信が持てなくなり、逐一ストッパーが働くようになります。これでは、まるで「石橋を叩いても渡らない」。行動の制御とともに思考まで停止してしまいます。ビジネスにおいて、これほど致命的なことはありません。
その行き詰った状態に対し、徐々にヒトはストレスを感じ始めることでしょう。そして、そのストレスが、感情や衝動を抑制している前頭前野の支配力を弱めてしまうのです。だからこそ、ストレスを軽減し、なおかつ前頭前野を鍛える必要があります。
前頭前野の働きによってできること
前頭葉は人間やサルのみが発達した部分ですが、前頭前野はそのもっとも前にあります。この前頭前野は、集中力を高めて作業に専念させる役割を果たすとともに、ワーキングメモリー(何か作業をする場合に情報を一時的に集めて記憶すること)として働きます。
また、状況にそぐわない感情的な思考や行動も抑制してくれます。もちろん、それにはネガティブな感情も含まれます。このような前頭前野の働きによって集中、洞察、計画、意思決定、判断、想起などができるというわけです。つまり、ビジネスパーソンにとって、前頭前野が円滑に働くことは非常に重要なこと。
そこで、次にご紹介する「前頭前野の働きを高める方法」が役立ちます。
前頭前野の働きを高める方法
前頭前野の働きを高めるためには、最大の敵であるストレスを軽減すること、邪魔な思考を取り除くことがポイントです。
<癒し効果がある香り>
以下の香りは、ストレス緩和作用があるという研究結果が出ています。うまく活用しましょう。(ただし、ラベンダーは禁忌事項があるので必ずご確認ください)
・コーヒー豆 ・ラベンダー ・森林浴(アルファピネン) ・ウィスキー※
※ウィスキーはホワイトオークという樫の木の樽の中で貯蔵・熟成させるため、木材由来の香りが溶け込み森林浴と同じ効果がある
<マインドフルネス瞑想>
マインドフルネス瞑想はストレス反応を抑え、前頭前野の働きを高めてくれます。瞑想というと大層に感じる人も多いですが、実はとても簡単。適度な雑音がある(静か過ぎない)場所で寄りかからず椅子に座り、自分のペースでゆっくり呼吸をして、その呼吸にともなって変化するお腹や胸などの動きを感じるだけ。目は閉じても閉じなくてもOKです。
東海大学医学部の川田浩志教授によれば、「食事に集中して、かみ、味わい、のみ込む……、といった一連の行為を、一つひとつ意識しながら、ゆっくり食事をする」といったことや、絵を描いたりプラモデルをつくるのもマインドフルネス瞑想のひとつなのだとか。
つまり、ひとつのことに意識を集中することが、マインドフルネス瞑想なのです。趣味に没頭するのも、ある意味瞑想なのですね。
<2-BACK TASK>
「2-BACK TASK」とは、ひとつずつランダムに表示される数字を見ながら、2つ前に出た数字と同じ数字が出たら手を叩く、単純なゲームです。このゲームの目的は高得点をとることではなく、数字に注意を向けること。それによって前頭前野の余分なものを片付けて、使えるスペースを広げるのです。
NHKで2013年4月29日(月)放送の『テストの花道』で紹介されました。そのゲームはこちら『テストの花道 2-BACK TASK』で試せますよ。
*** 扁桃体は睡眠不足によっても過剰反応し、その活動を抑制する前頭前野の機能を低下させるそう。ストレスをため込まず、しっかり睡眠をとって、ご紹介した方法で前頭前野の働きを高めて、活力あるビジネスライフをお送りください。
(参考) NIKKEI STYLE||ヘルスUP|感情はどこから? 実は生存をかけて脳が下した判断 NIKKEI STYLE||ヘルスUP|マインドフルネスは食事でもできる 瞑想と同じ効果 PRESIDENT Online|キレる大人嫉妬・スマホ・睡眠の脳科学 東邦大学|ストレスと脳 生物学科 Barrel-バレル-|日々のイライラを緩和する、ウイスキーアロマ。ストレスを取り除く香りの秘密。 NHK テストの花道| - 過去の放送 -「集中力を支配する!」 テストの花道|2-BACK TASK クリスティ・ヘッジス著,松本裕訳(2013),『誰もがあなたに引きつけられる プレゼンスのつくり方』,CCCメディアハウス. マーシー・シャイモフ著,茂木健一郎訳(2008),『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』,三笠書房.