「すべて覚えておく」だと脳は疲れる。新しい学びのためには『忘却力』も必要だ。

優秀な人ほど心が疲れやすいといいます。それは、脳の性質がそうさせているのかも……。うまく忘れるようにしていけば、もっと脳の負担を軽くしてあげられるはず。あらゆる研究や識者の言葉をもとに、「記憶力」と「忘却力」、そして「脳の学習能力にある制約」について検証します。

記憶能力が高いと意図的忘却ができない

日本心理学会第72回大会(2008)で発表された研究『記憶力と意図的忘却力の関係』によると、記憶能力が高い人ほど、覚えたことを意図的に忘れることができない可能性があるとのこと。

「そんなの当たり前じゃないか」といわれてしまいそうですが、これは、過去の研究から導き出された「よく記憶できる人ほど、よく忘れることができるはず」という仮説にもとづいて行われた研究なのです。記憶の学習速度を指標に、大学生54名を「高群・中群・低群(学習速度が速いほど高)」のグループに分けテストを行い、記憶力と意図的忘却力の関係を明らかにしようとしました。

ところが、中群と低群に関しては「忘却力の高低」が「記憶力の高低」に対応していましたが、高群はもっとも忘却力が低いという結果が出たそう。したがって、記憶能力が高すぎると、意図的忘却では、記銘したことを消し去れないと示唆されたわけです。

「記憶能力が高くて、忘れないなら、それでいいじゃないの」と、またもや突っ込まれそうですが、少し問題があります。

人の心を元気にするのは「忘却力」

アメリカの心理学の研究によると、私たちは1日におよそ6万個の物事を考えているのだとか。おまけに、ほとんどの人が95%昨日と同じことを考えていて、なおかつ、そのうち80%はネガティブなことなのだそうです。

それほど人間の記憶力が優れていて、「ネガティブ思考=いざというときに対処可能な危機管理能力が備わっている」ということですが、なおさら記憶能力が高ければ、それを意図的に忘却することもできないわけです。そうしたことから、記憶力のいい人ほどネガティブ思考になってしまうのだとか。

また、EAP総研株式会社所長の川西由美子氏は、「優秀な人ほど、その処理能力の高さから過度な期待をかけられるため、それがストレスとなり心や体を壊してしまう」といいます。加えて、さらに気になる研究を見つけました。

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脳は古い学習内容をベースにしている

カーネギーメロン大学とピッツバーグ大学の研究者たちが、脳内で起こる変化を確実に捉えるというBCI(脳コンピュータインターフェース)を使い調査したところ、脳は何かを学ぼうとするとき、学習済みの内容をリサイクルすると発見したのだそう。

言葉にすると効率的なのかと勘違いしそうですが、ゼロからニューロン(神経細胞)のつながりを再構築せず、既にあるニューロンのレパートリーを活用するため非効率とのこと。新しい企画書をつくるために、過去の企画書を参考にするだけならいいですが、過去の企画書自体を物理的に切り貼りしてリサイクルなんてしたら、効率が悪いですものね。

しかも、古い学習内容をベースにしているので、たとえ新しいことを学んでも、古い学習内容の影響を受けてしまうということです。このように非効率な働きをニューロンがしているにもかかわらず、優秀な人はどんどん新しいことをインプットできてしまい、なおかつ忘却することもできません。これでは脳が疲れてしまいますよね。

忘却力を鍛えてみよう

発行部数100万部を突破した『思考の整理学』の著者、外山滋比古氏は、「頭をよく働かせるには“忘れる”ことがきわめて大切」だといいます。では、どうしたら忘却力を鍛えられるでしょう?

それは「情報をどこかに置いておくこと」です。

たとえばメモに残すという行為。メモに残してしまえば、「もう書いたから覚えておかなくていいや」と脳が判断し、忘れることができるそう。つまり、脳のメモリに空き容量をつくってあげるということ。もちろん忘れるといっても、メモを見ればすぐにシナプス(神経細胞間などの接合部分)のつながり度合いが強まり、記憶を取り出せるはず。この目的は、脳の負担を軽くすることなのです。

ちなみに、脳科学者の茂木健一郎氏は、脳の記憶回路の負担を減らすため、情報はパソコンやネットですぐ検索して取り出せるようにしておくそう。同氏の場合はそれが自身のブログであったり、信頼できるネット上の情報であったりするとのこと。また、細かい情報はサッサと破棄して、脳の活動のほとんどを「思考」や「創造」にあてるといいます。

そして、もうひとつ重要なのはしっかり「睡眠をとること

東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループによれば、私たちが睡眠をとる目的のひとつは、脳の海馬の神経回路をクールダウンするためなのだとか。そうしないと、海馬が飽和状態になってしまうからです。

海馬から発生する脳波が、睡眠中にシナプスのつながり度合いを弱めてくれます。ただし、就寝前の学習にかかわるニューロン群に対しては影響しないとのこと。必要な情報はしっかりと保持して、不要な部分はシナプスのつながりを弱め、脳のキャパシティを確保してくれるのです。短すぎず長すぎず、自分が「心地よい」と感じるだけの睡眠時間は、毎日必ずとってくださいね。

*** 学習したことはいったんどこかに置いて、しっかり睡眠をとり、脳のメモリを軽くして、ついでにネガティブな思考も減らしてしまいましょう!

(参考) シンクロのシティ 堀内貴之 MIO - TOKYO FM 80.0MHz -|ミライのシティ|人間は1日6万回考えてる!? ダイヤモンド・オンライン|優秀な人ほどうつになりやすい Study Hacker|脳には「クールダウン」が必要だ。快眠を確保するための “自分ルール” を決めよ。 堀田千絵・川口潤(2008),「記憶力と意図的忘却力の関係」(研究発表論文),記憶1EV096,日心第72回大会,p.848. 茂木健一郎著(2008),『脳を活かす仕事術』,PHP研究所.

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