テレビを観たり、新聞を読んでいると支持率や経済成長率、会社では売上やアンケートに来場者数など、私たちはたくさんの数字に取り囲まれています。
皆さんは、そんな数字を正しく読めている自信はありますか? マスコミやメディアで報道される数字だけを見て、事実を誤って認識している可能性はないでしょうか?
そうした誤解は、印象操作に騙されたり、ビジネスでも誤った選択をすることに繋がりかねません。そこで今回は、数字を読む上で、簡単に騙されないためのコツを紹介します。
1.隠された軸からも数字を確認する
まず、さまざまな軸から数字を読み取ることが大事です。
ニュースは、事実のある側面だけを印象的に切り取ったものである場合が多く、他の視点や数字から見ると隠された真実が浮かび上がることもあります。
近年、若者の「ビール・アルコール離れ」と騒がれることが多いです。 国税庁の「酒のしおり」によると、実際にビール系飲料の販売数量は2004年からの10年間で約30%低下しました。厚生労働省の調査では、2003年から2011年における20代の「飲酒習慣者」の割合は25%程度低下しています。
しかし、本当にこの数字だけが全てなのでしょうか?
もしかしたら、他に報じられない、隠された数字があるのかもしれません。例えば、他の年代の飲酒習慣者の割合や、ビール以外のアルコール市場の推移です。
こうした数字を読んでいくと、ほぼすべての年代でも割合は低下していることがわかります。つまりビール離れは、若者だけに特別発生している現象ではないということです。
さらに、2004年から2014年にかけて、果実酒とウイスキーの販売数量は、1.4倍前後に増加していることを踏まえると、若者を含めて日本全体としてビールの消費量は減っていますね。その分、他のアルコール類へと嗜好が移っているとも考えられます。
このように、「若者の○○離れ」といった特定の市場の縮小が報じられるとき、複数の数字やデータから世の中の実態を読み取ることでビジネスチャンスに繋げられるのではないでしょうか?
2.調査方法・対象を確かめる
ある結果が出た際の算出方法、対象を調べることも真実を見抜くコツです。
予想外の数字は、メディアが印象操作を行うために算出方法を工夫したり、偏った層に調査を行った結果である可能性があります。
例えば、2013年に損保ジャパン・ディー・アイ・ワイ保険が「主婦のへそくりアンケート」を実施しました。この結果、へそくり(夫に内緒の資産額)の平均所持額は416万円となったのですが、少し多すぎると思いませんか?
実はこの金額は、へそくりがあると回答した6割の人の平均です。へそくりがない人を含めて計算し直すと、平均は173万円まで下がってしまいます。
しかも、この調査では1000万円以上へそくりがある富裕層が10%いたため、平均額が大きく押し上げられていました。実際にそんな貯金のある主婦が10人に1人もいるでしょうか?
つまり、主婦のへそくり416万円は本当ですが、へそくりのある主婦は半分以下であり、そんなリッチな主婦は滅多にいないというのが現実でしょう。
あまりに生活実感とかけ離れた数字が出た場合は、算出方法や対象者に注目して確かめてください。
3.偏見やイメージは数字で確かめる
特定の対象に偏見やイメージを持ってしまいそうな時は、一度数字で確かめてみましょう。なぜなら、世論が貼りがちなレッテルと事実は食い違っていることも多いからです。
例えば、ワイドショーで「重大な少年非行」が増加していると取り上げたとします。しかし警察庁のデータでは、2006年から2015年の間に少年犯罪は3分の1程度まで減少しているのです。また、少年犯罪のうち、凶悪犯罪(殺人、強盗、放火、強姦)の件数も半分になりました。
つまり、スマートフォンやインターネットによる少年非行の助長や精神的教育の必要性が叫ばれる一方で、若者の犯罪自体は年々減っているのです。果たして必要なのはスマートフォン規制と教育なのか、疑問に思えますよね。
このように、レッテルと事実は異なることも多々あります。自分が社会の偏見やイメージに囚われそうだと感じた時は、数字を使って真実かどうか確かめてみましょう。
*** メディアは、珍しいことや意外なことを報じたがります。社会人として真実を見極めるために、まず数字の読み取り方を意識してみてはいかがでしょうか? きっと真実が見えてくるはずですよ。
参考文献 小林直樹著(2016),『だから数字にダマされる』,日経BP社 竹内薫著(2014),『統計の9割はウソ』,徳間書店 東洋経済オンライン|「数字に弱い人」は人生でだいたい損している WEDGE Infinity|統計使いに騙されることなかれ|http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7036 厚生労働省|アルコール情報ページ 損保ジャパン・ディー・アイ・ワイ生命保険株式会社|サラリーマン世帯の主婦500名に聞く「2013年冬のボーナスと家計実態調査」<Part2> R&D|若者の○○離れ? 警察庁|少年非行情勢(平成27年1~12月) 国税庁|酒のしおり 平成28年3月