「なぜ?」は魔法の言葉。教える立場の全ての人が持つべき、相手の心を開く技術。

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あなたは誰かに「教える」立場になったことはありますか? 同級生と一緒に勉強する時、塾講師のアルバイト、職場での部下の育成、スポーツチームのコーチ。ありとあらゆる場面で、私たちは「教える」経験をしてきたはずです。

どんな事も、初めから理解している人はいないのだから「教える」のは当たり前。でも「当たり前のこと」「誰もが経験すること」だからこそ、難しいのかもしれません。

えてして、教えるという行為は「偉そうに」見えがちです。 なんだよ、あいつ偉そうに言いやがって……。 わかってることをベラベラと。いい加減にしてくれよ……。 誰かに教わっていて、そう感じたことはたくさんあるはず。そんな上司、先生、先輩になりたいですか?

今日は、教える立場にある、全ての人に考えてほしいことをご紹介します。

 

相手の話に耳を傾けよう

 

京大在学時代から家庭教師としてのキャリアを積み、独自の指導法から「東大合格請負人」の異名を持つ時田啓光氏は、著書の中でこんなことを述べています。

子どもは自分の話を聞いてほしい!(中略)挫折を経験していて、なにか発言するたびに「ダメじゃないか」「いいかげんにしなさい」「ちゃんとしなさい」と真顔でいわれる。だから大人なんて信用できないと考えるようになる。(中略)その解決策は、「対話」しかありません。一方的な命令をするのではなく、子どもと真摯に向き合って、子どもの発する言葉の奥底にある真意を読み取るところまでいって、はじめて対話が成り立ちます。

(引用元:時田啓光著(2015),『偏差値35の「野球バカ」でも東大なら受かる勉強法』,ワニブックス.)

これが通じるのは子どもだけじゃない、大人だって同じだ、筆者はそう考えました。そもそも教えるという行為は、いつだって危険性を秘めています。間違ったことを教えてしまうかもしれないし、教える側の偏見や常識を押し付けることになりかねないからです。

もちろん、教える側の影響を0にするのは不可能ですし、0にする必要もありません。熱意ある先生の、理念や価値観を否定するつもりは全くありません。

しかし、教えられる側にも考え方があり、価値観があり、理念があることは確かです。子どもでさえそうなのだから、大人ならなおさらでしょう。

よく「何か聞きたいことはあるか」「何か意見はあるか」と言うくせに、相手が喋り始めると「違う、そうじゃなくて……」「それは~だから……」と遮る人がいます。これでは、相手の信頼を得られるはずもありません。

その人の考え方、理念、価値観を知らずに「教える」のはただの自己満足、うるさいお説教でしかありません。ですから「教える」立場にいる人には、まず相手の話に耳を傾けてみてほしいのです。決して途中で遮らず、相手がどんな人間で、どんな生き方をしてきたのか、どんな価値観をもって仕事/勉強をしているのかを聞き出してほしいのです。

 

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「なぜ? 」を5回繰り返そう

 

しかし、相手から話を引き出すのは、そう簡単なことではありません。初対面の相手ともなれば、なおさらです。価値観や理念など、ペラペラしゃべれる方が稀でしょう。

ですから、もし誰かにものを教える時には、必ず始めに対話の時間を設けてほしいのです。その上で相手に「どうして勉強しているのか、どうしてこの職業についたのか、どうして◯◯になりたいのか」今教えようとしていることについて、目的や心構えを聞いてみてください。

塾講師のアルバイトなら、将来の夢や志望校を選んだ動機を聞いてみましょう。会社の部下に仕事を教えるなら入社の理由を、スポーツチームでプレー指導をするならどうしてそのスポーツを続けているのか、聞いてみてほしいのです。この時、単に「なぜ? 」と問うだけでは、本当の理由は明らかになりません。面接で答えるようなテンプレの回答しか帰ってこないはずです。

そんな時に応用したいのが、「なぜなぜ分析」。トヨタ元副社長の大野耐一氏の著書『トヨタ生産方式』で紹介されたこの方法は、もともとはトヨタ自社工場の内部監査のために用いられたもので、次のような流れで思考を進めていきます。

「なぜ機械は止まったか」→オーバーロードがかかってヒューズが切れたからだ   「なぜオーバーロードがかかったのか」→軸受部の潤滑が十分でないからだ   「なぜ十分に潤滑しないのか」→潤滑ポンプが十分汲み上げていないからだ   「なぜ十分に汲み上げないのか」→ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているからだ   「なぜ摩耗したのか」→濾過器がついていないので、切り粉が潤滑油に入ったからだ

(参考:大野耐一著(1978),『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』,ダイヤモンド社.)

最低でも5回「なぜ? 」を繰り返すことで、本当の理由を聞き出そうとするのがこの手法ですが、これを「教える」相手との対話にも生かしてほしいのです。

筆者は家庭教師のアルバイト経験がありますが、ある時、こんな子を受け持ちました。

看護師を目指すというその女の子は、受験科目を絞って私立単科大の単願にしたいと語っていました。しかし、その子との対話の中で粘り強く「なぜ? 」を繰り返したところ、どうやら「自分一人の力で生きていけるようになりたい、患者さんや医師、いろいろな人と話して、視野の広い人間になりたい、そのための資格として看護師を目指す」と考えているらしい。そうわかったのです。

筆者はその時、その考え方/理念を実現するのなら、受験科目を絞らず、総合大学を目指した方がいい。その方が、自分の視野を広げるチャンスはたくさんある。そのようにアドバイスしました。

もしその子に「なぜ? 」を繰り返さなかったら、どうなっていたでしょうか。果たしてあのまま受験を続けて、満足のいく選択ができていたかどうかは、わかりません。ひょっとしたら、その時のアドバイスさえ、筆者の自己満足なのかもしれません。しかし、相手のことを何も知らないまま、考え方や価値観を知らないまま「教える」よりは良い選択ができたはずです。

「教える」ことは、自分の価値観を人に押し付けてしまう危険性を秘めています。まずは相手を知ることから。それは「教える」立場のある人が常に意識すべきことでしょう。

 

*** 「教える」ことは、難しいものです。しかし、だからこそやりがいのあるものですし、教えた相手が成長していく様子を見るのは、非常に喜ばしいものです。

みなさんも、人に「教える」立場になった時には、ぜひ今日ご紹介したことを思い出してみてください。

 

(参考) 時田啓光著(2015),『偏差値35の「野球バカ」でも東大なら受かる勉強法』,ワニブックス. 大野耐一著(1978),『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』,ダイヤモンド社. Wikipedia|なぜなぜ分析

 


東京大学理科二類所属。県立浦和高等学校および駿台予備校出身。小さいころから自然や生き物に関心を持ち、高校時代に読んだ福岡伸一の「生物と無生物のあいだ」に刺激をうけ、分子生物学を志す。テニス歴6年。AKB48の大ファン。

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