1986年の設立当初から『トイ・ストーリー』や、『ファインディング・ニモ』など、人気アニメを作り続けるピクサー。2006年にディズニーに買収されてからも、ピクサーは数多くの人気作を世に生み出しています。2015年の『インサイド・ヘッド』、そして2016年3月公開の『アーロと少年』が話題ですね。
そんなクリエイティブな作品を次々生み出すピクサーのオフィス。さぞかしユニークなものなのだろう……と思いませんか?
ご想像の通り、ピクサーのオフィスは、普通の会社とは一線を画す独創的なもの。スティーブ・ジョブズ氏が設計に関わったというオフィスには、創造性をはぐくむ要素がたくさん盛り込まれています。しかし、それらの要素自体は、ピクサーだけの特別なものではないのです。
今回は、ピクサー流の独創的なオフィス環境から、自分自身の仕事にも簡単に取り入れられるクリエイティブ要素をご紹介します。
自由な発想を促す、開放的な空間
ピクサーでは、個人のスペースとして自由に使える5m×5m程度の空間が与えられます。社員たちはその空間を自由にカスタマイズすることで、リラックスでき、かつ集中できる空間を作り上げているのです。
また、エントランスは広く開放的なホールになっていて、その一角にはカフェが営業しています。このホールには、昼休みにバスケをして遊ぶ社員や、キックボードやスケボーで動き回っている社員もいるのだそう。
実は、この広く開放的な空間が、創造性にかかわっているのです。
トロント大学のVartanian氏らは、人間は天井が高い空間にいると、自由な発想が促されると述べています。
天井が高く空間がたっぷりあることによって視覚的自由、ひいては自由な発想が促される。人が天井の高い部屋を好むというのは、本能ではないか
(引用元:IRORIO|天井が高く開放的な部屋に住むとクリエイティブになれるとの研究結果)
確かに、天井の高い美術館や図書館のホールのような広い空間にいると、少し頭がさえるような感じがしますね。
自身の仕事環境に天井の高い空間を作ることは難しいかもしれませんが、自分から広い空間に出ていくことは可能です。アイデアが浮かばなくなったり、仕事に行き詰まったりしたら、一度、広い空間に出てみてはいかがでしょう。
盛んなコミュニケーションでアイデアを創出する空間
ピクサーのとにかく広いホールには、もう1つ設計理由があります。それは、「社員が頻繁に顔を合わせ、コミュニケーションを取れるようにしたい」というもの。また、先ほど紹介した5m四方の空間は社員一人一人がカスタマイズした家のようになっていて、この家がいくつも集まるスペースはまるで町のように機能し、社員同士がコミュニケーションをとっているのだそう。このように、ピクサーでは社員同士の自由なコミュニケーションが重視されているのです。
コミュニケーションを重視する姿勢は、オフィスづくりにだけ表れているわけではありません。例えば、「ブレイントラスト」という制作会議。この会議では上下関係を気にせず率直にコミュニケーションをとりながら意見を述べることが求められます。
日本では、自動車メーカーホンダの「ワイガヤ」という考え方が有名です。誰でも自由に意見を述べ合うワイガヤ形式が重視されているのは、コミュニケーションをすることによって新しい閃きが生まれやすくなるから。ワイガヤの生みの親である本田宗一郎氏には、ワイガヤの効果を次のように語っています。
自分のできないことを人がやって、人の得意でないものは自分が得意だったらやる。
(引用元:logmi|学者100人並べて「じ」「ぢ」の違いを決めている… 本田宗一郎氏が呆れる、行政が”鈍重”なワケ)
私たちはみな、得意も不得意も異なります。そのため、浮かぶアイデアも、気付く問題点も違ってくるのです。他人と率直に話し合うことで、自分にはない違った視点を得ることができれば、アイデアはもっと洗練されたものになるでしょう。クリエイティブであるために、ぜひコミュニケーションを積極的に取ってみてください。
アイデアの量産につながる知識をインプットする場
ビルの中だけでなく、外にも創造性をはぐくむ要素があります。ピクサーのオフィスビルの外にある広大な庭には、「ピクサー・ユニバーシティ」という小さな建物が建っています。その中では社員たちが、週2時間、アニメ制作やパントマイム、演技など、自分の映画作成業務には関係ないことについて勉強しているのだそう。なぜ彼らは、自分の仕事に直接関係のないことまで勉強しているのでしょうか。
それは、アイデアが知識の組み合わせによって生まれるからです。『アイデアのつくり方』の著者であるジェームズ.W.ヤング氏によると、
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」
(引用元:もこもコラム|アイデア・発想力をつける為の基本がこれ→「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」)
のだそう。確かに、身近にあるもののほとんどは、何かと何かの組み合わせで生まれていますね。例えば、スマホはネットと携帯電話を組み合わせたものですし、携帯電話も電話と持ち運ぶことを組み合わせてできています。
一見、自分の業務とは何の関係もなさそうな分野も、勉強してみれば、新しいアイデアの源泉となるかもしれません。この可能性を増やすために勉強することは大切なのですね。
「ピクサー・ユニバーシティ」のような仕組みがなくとも、興味の赴くまま、色々な本を読んだり人に会ったりして、知識を吸収してみてはいかがでしょうか。
*** 環境は人をつくります。ピクサーがクリエイティブでいられるのは、この素晴らしい環境のおかげなのかもしれません。 みなさんも、創造性が必要な時は環境に気を配り、自ら動いてみてはいかがでしょう。きっと良いアイデアが浮かぶはずです。ぜひ試してみてくださいね。
(参考) 映画関係論 - 映画製作現場の裏側|ピクサー 2/3 [映画会社] ニューヨークの遊び方|なぜ人間は高い天井や吹き抜けの空間が好きなのか? IRORIO|天井が高く開放的な部屋に住むとクリエイティブになれるとの研究結果 logmi|学者100人並べて「じ」「ぢ」の違いを決めている… 本田宗一郎氏が呆れる、行政が”鈍重”なワケ もこもコラム|アイデア・発想力をつける為の基本がこれ→「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」 Wikipedia|ピクサー・アニメーション・スタジオ