アメリカで活躍した著述家ジョセフ・マーフィーは、世界的ベストセラー『成功の哲学』の中で、次のような言葉を記しています。
幸福な人生を歩んでいる人は、言葉の使い方を知っています。言葉は選んで使いなさい。言葉の選択一つで、人生は明るくも暗くもなるのです。
ビジネスシーンにおいても、これは十分に当てはまります。普段何気なく使う言葉によって、一緒に働く人のあなたに対する印象が大きく変わるからです。賢い人だ、仕事ができる人だ、相手のことを思いやれる人だと思われたら、仕事の評価も上がり、自然と出世もできるでしょう。一方で、周囲の人に不信感を抱かせる言葉ばかりをこぼしていては、出世が遠のくどころか年々あなたの評価が下がることもありえます。ビジネスは人と人がつながって進められるものですから、言葉の選択はとても大切です。
では、出世している人たちは、どのような言葉をよく使っているのでしょうか? 4つの例を説明しましょう。
仕事を頼むとき、出世する人は「~しろ!」ではなく「~してくれると嬉しい」と言う
出世しようと思ったら、自分のスキルを磨くだけではなく、部下とのコミュニケーションをいかに風通しよく行なうかも重要です。ときには部下が思うように動いてくれず、ヤキモキすることもあるでしょう。そんなときに「何度言ったらわかるんだ! 早く~しろって言っているだろう」と怒鳴り散らしている人は、たいてい出世できません。
コミュニケーション総合研究所代表理事の松橋良紀氏は、人を動かすときには “ユーメッセージ” ではなく、“アイメッセージ” を使うべきだとしています。ユーメッセージとは「(あなたは)~をしなさい」というようにユー(YOU)を主体としたメッセージのことです。こうしたメッセージはビジネスシーンでよく耳にしますが、命令形としての要素が強く、相手に反感を抱かせやすいものです。
一方で出世する人がよく使うアイメッセージとは、「~してくれると私は嬉しい、助かる」といったアイ(I)を主体としたメッセージです。この言葉遣いだと命令されたという感じがしないため、相手に対する印象も良くなるのだそう。
この言い方だと、あくまで自分の気持ちや感情を述べているに過ぎません。相手を責めることもありません。相手にしてみれば、命令されているわけではないので、選択権が残されています。そのまま、書類を放っといてもいいし、片付けてもいいし、相手次第です。でも多くの人は、命令されたわけではないのに、片付けようという気が起きます。
(引用元:リクナビNEXTジャーナル|人を動かしたいなら、「アイメッセージ」を使いこなせ ※太字は筆者が施した)
『好かれる技術』など数々の著書を出している西松子氏によると、アイメッセージは感謝の気持ちを伝えるときにも有効とのこと。単純に「ありがとう」というのではなく、「嬉しい」という一言も添えましょう。
優秀な人ほど、相手の期待に応えるため、相手がどう思っているのかを探る努力をしています。そこで「うれしい」という感情を伝えることは、強い印象を与えることになります。そもそも、多くの人は、誰かの幸せや喜びに貢献できることを誇りに思うもの。口数が少なくても、「うれしい」というひと言で好感度を上げられます。
(引用元:THE21オンライン|「出世する人」が身につけている「ワンランク上のマナー」 ※太字は筆者が施した)
会議で行き詰まったとき、出世する人は「イエス・ノー」で答えず「そもそも」と切り出す
会議が長引くと、話が行き詰まったり、論点を見失ったりしがちです。こんなときにイエス・ノーによる賛否や手段論に終始せず、「そもそもこのプロジェクトは何なのか」というように、「そもそも」という言葉で前提を見直す人は仕事ができると、『新・独学術』の著者・侍留啓介氏は述べます。
「そもそも」という言葉で前提を見直すことを、マッキンゼーでは “ステップバックする” と言うのだそう。そして、このステップバックができる人は存在価値が高いとみなされるそうです。
そもそもという言葉で前提を見直すと、新たな視点や気付きを与えることができます。任天堂とDeNAがスマホ向けのゲームアプリを作る業務提携を結び、ネット上で賛否両論の意見が飛び交った際、堀江貴文氏はこんな風に前提を見直したそうです。
「そもそも任天堂がスマホをつくってしまえばいいのでは。コンテンツもあるし、それなりに技術もあるんだから、スマホくらい簡単につくれるでしょう」といった趣旨の発言をしていました。これもまた「そもそも」が前提をひっくり返してしまった一例です。この一言だけで、その後の議論のレベルが一段上がったように感じました。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|仕事ができる人の口癖は「そもそも」と「○○」)
ただしこの言葉は、ここぞというときに使うのが効果的とのこと。奇抜な意見で前提を覆せばよいというわけではないので、使うタイミングには注意しましょう。
同僚との日常会話で、出世する人は「できない」ではなく「大丈夫」と言う
人事ジャーナリスト・吉田典史氏によると、大企業の社長を務めた人のように出世した人は、前向きな思考を持っている傾向が強いのだそう。また、その前向きな気持ちを周囲に向ける姿勢があるのだと述べます。仕事ができない人、すなわち出世できない人は、自信のなさからか、周囲の気持ちも落ち込ませる言葉ばかりを投げかけます。「できやしない」「あなたには無理だ」といった言葉でフラストレーションを満たしているのです。これでは周囲に敵を作るだけですね。
一方で、出世する人は相手の考えに寄り添い、「大丈夫ですよ」「何とかなりますよ」と肯定の言葉を返すのだそう。吉田氏は次のように述べます。
会社員たるもの、上司をはじめ、周囲から認められない限り、決して浮かばれることはない。いかに味方を作って、チームで生産性を上げて、業績を拡大するかを考えて行動するかを念頭に置かなければ、成功することは難しい。そのためにも、同じ部署などにいる周囲の人を励ます力が必要になる。
(引用元:@DIME|仕事のデキる人がよく口にする「口癖」は)
こうした姿勢がやがて企業を大きくして、あなたを社内になくてはならない存在にするのです。
愚痴話をされたとき、出世する人は「そうですね」ではなく「でも」と言う
仕事上の付き合いにおいて、相手の愚痴を聞くことになるケースは少なくありません。たいていの人は、「そうですよね、わかります」と同調するのではないでしょうか。相手もただ話を聞いてもらいたいだけなので、これはこれで間違った対応ではありません。
しかし、ワンランク上の付き合いをしている人は「でも」という言葉を巧みに使い、相手との会話をよりいっそう弾ませているのだそう。テレビディレクターとして活躍する吉田照幸氏によると、上司とこんな会話のやり取りができる人は職場で愛されるのだそうです。
「何かと電話をかけてくるお客さんがひとりいて、大変だ」
「でも、それだけ頼りにされているってことじゃないですか」
「昨日なんて2回も電話がかかってきて、ほかの仕事ができないよ」
「でも、課長は仕事が早いから大丈夫ですよ」
「それに、急に部長から呼び出されてさ」
「でも、それも部長からの信頼があってのことですよね」
(引用元:東洋経済オンライン|「職場で愛される人」は会話にコツがある!)
このように、相手の立場を考え、そのうえで相手の存在価値の高さを実感させられる言葉を送れる人は、自分自身の評価も高くなります。ただし、愚痴に対する「でも」という言葉は劇薬です。的外れなことを言ってしまうと、あなたの評価が落とされる原因となるので気をつけましょう。
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出世する人がよく使う言葉に共通しているのは、一緒に働く人を思いやっていることです。しかし、こうした心遣いは、付け焼き刃でできるものではありません。上辺だけのものはすぐに見透かされます。根本に一緒に働く人への感謝、企業に対する感謝を持つことが大切になることでしょう。
文 / かのえかな
(参考)
リクナビNEXTジャーナル|人を動かしたいなら、「アイメッセージ」を使いこなせ
THE21オンライン|「出世する人」が身につけている「ワンランク上のマナー」
ダイヤモンド・オンライン|仕事ができる人の口癖は「そもそも」と「○○」
@DIME|仕事のデキる人がよく口にする「口癖」は
東洋経済オンライン|「職場で愛される人」は会話にコツがある!