わたしたちの脳を構成しているのは、主に「ニューロン(神経細胞)」と「グリア細胞」です。長い間、脳の働きの中心はニューロンだと考えられていました。ところが近年では、脇役扱いだったグリア細胞も、ニューロン並みの働きをするとわかってきたのです。それに、誰もが知る天才理論物理学者・アルベルト・アインシュタインは、グリア細胞の数が桁外れに多かったと発見されています。
アインシュタインの脳とグリア細胞に迫り、脳の働きを高める習慣を探ります。
天才アインシュタインの「脳」
カリフォルニア大学バークレー校の著名な神経解剖学者、マリアン・ダイアモンド博士は、アインシュタインの脳を調べた人物として広く知られています。ダイアモンド博士は同僚らとともに、何日もかけてアインシュタインの脳細胞を計測・集計し、47歳から80歳までの男性から採取した脳の細胞データと比較したのだそう。
すると、驚いたことに、世紀の天才アインシュタインの脳と、一般人の脳のニューロンに関して、何ひとつ差異は見られなかったのだとか。しかし、神経細胞(ニューロン)ではない細胞の数、つまり神経“膠”細胞(非神経細胞)と呼ばれる「グリア細胞」が、脳の4領域すべてにおいて群を抜いて多かったのです。
グリア細胞とは?
グリア細胞は、長くその存在を軽視されてきました。ニューロンを固定し、栄養を運ぶ重要な手助けをしていることは明らかにされていましたが、あくまでも脳の主役はニューロンであり、グリア細胞は脇役だったのです。ところが近年は、グリア細胞も脳の高次機能を支え、コントロールしているのでないかとも考えられています。
特に記憶や学習能力に関わる脳の「海馬」には、グリア細胞が多く存在するのだとか。そして、グリア細胞との接触が強いものほど、シナプス(ニューロン同士の接合部分)が成熟し安定しているのだそう。それは、つまり、グリア細胞がよく働くと、脳の記憶力がよくなるということを示しています。
ちなみに、グリア細胞の数は、神経細胞の10~50倍と見積もられいるそうです。このグリア細胞の働きがよくわかっていなかったことから、「ヒトは脳の10%くらいしか使っていない」と考えられてきましたが、実際には想像以上の働きをしていたのです。
グリア細胞は増やすことができる?
「グリア細胞は増やすことができるか?」の答えは、YESです。グリア細胞は分裂・増殖する細胞とのこと。記憶量が増えるとグリア細胞も増え、脳の重量が増えるのだそう。
最近の研究では、大人になったら増えないといわれていたニューロンも、脳の海馬では増殖すると考えられるようになりました。海馬はグリア細胞が特に多い領域。これには相関関係があると想定することもできます。
しかし、脳の働きにおいて重要なのは、細胞の数だけではありません。結果的としてグリア細胞が増殖するにせよ、何よりも「つながり」が強くなければ意味がないのです。たとえ神経細胞が減っても、それに比例して思考力が衰えてしまうわけではないのだそう。なぜならば、神経細胞同士のつながりが、より深い思考を可能にしてくれるからです。
そのためには、シナプスを成熟させ安定させる、グリア細胞の働きをよくすることが大切です。
グリア細胞をよく働かせるには
くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長は、グリア細胞を活発化させるにあたり、アミノ酸やブドウ糖、マグロやカツオに多く含まれるナイアシン(ビタミンB3)など、脳に必要な栄養を摂取することや、ストレッチなどをすすめています。
また、社団法人認知症高齢者研究所によれば、グリア細胞は電気を出さずに物質だけを使って情報を伝達するため、知覚を刺激するのもグリア細胞を働かせるトレーニングとして有効なのだそう。料理や手先の運動のほか、硬いものを握ったり、「お湯」と「冷水」で交互に手を刺激してみたりするのもいいかもしれません。
ロンドン大学の神経学者エレノア・マグワイア博士の研究では、ロンドン市内の交通情報を完璧なまでに記憶することを求められるロンドンのタクシードライバーの脳の海馬が、一般人に比べて大きいことが発見されています。楽しみながら、お気に入りのスポットとともに路線を記憶するのも、いいトレーニングになるはずです。
もちろん、勉強や読書、会話や旅行、博物館に美術館など、知識や経験で記憶を増やしていくことも大切ですが、何よりも、重要なのは、自分が夢中になれるものに対し、頭を使い続けることです。興味が細胞のつながりを強め、グリア細胞を元気にして、思考力を高めてくれるでしょう。アインシュタインも、「私は頭がよいわけではない。ただ人よりも長い時間、問題と向き合うようにしているだけ」と話していたそうです。
*** 脳の細胞のつながりがよくなれば、自ずと細胞の数も増えていくはず。グリア細胞を元気にして、脳機能を高めてくださいね!
(参考) 看護roo![カンゴルー]|解剖生理をおもしろく学ぶ|脳を構成する神経細胞とグリア細胞 ブルーバックス 講談社(1-2)|天才アインシュタインの「脳」の秘密がわかった!(R・ダグラス・フィールズ) 認知症高齢者研究所|認知症と心の科学★認知症はグリア細胞が鍵になる★ 養命酒製造株式会社|元気通信|健康の雑学|脳の雑学 編集部(2010),『老人の通説を疑う』,サンデー毎日,毎日新聞出版, 第89巻第53号 pp 150-152. 立花隆著(2000),『脳を鍛える (東大講義 人間の現在1)』 ,新潮社.