2018年は京都大学・本庶佑特別教授のノーベル生理学・医学賞受賞が話題になりましたが、2017年の同賞は、体内時計のメカニズム解明に功績を残した3人の米研究者に授与されました。この受賞で、体内時計の重要性が広く知られるようになったといいます。
しかし、海外出張による時差ボケや、時差出勤、転職による勤務時間の変化、シフト勤務に、休日の朝寝坊など、ビジネスパーソンの体内時計を狂わせる要因はあらゆる場所にあふれています。そのたびに体調を崩し、仕事のパフォーマンスを低下させている方も少なくないでしょう。
ところが、最近の研究で、「運動」が体内時計のシフトに役立つ可能性が示されました。その詳細と、体内時計シフトのアイデアを紹介します。
体内時計について
――「時計を持つものが生き残れる?」
「体内時計」はわたしたちの生命活動に欠かせません。30年以上にわたりこの分野を研究している早稲田大学の柴田重信先生は、「なぜ、体内時計が生まれたのか?」という疑問についてこう語ります。
地球の自転に合わせて生物が獲得した適応現象であり、時計を持った方が生き残る上で有利だったのだろう
(引用元:株式会社 林原 食品素材事業サイト|林原 知識ライブラリー|第5回 体内時計を正しく動かして、24時間の健康リズムを)
一日の時を刻む「体内時計」とは、わたしたちの時計遺伝子が制御する概日リズム(サーカディアンリズム)のこと。その中枢を担うのが脳の視床下部にある「視交叉上核」で、親時計とも呼ばれています。子時計は全身の臓器や末梢組織にあり、役割に応じてそれぞれ働いています。
親時計は朝起きてすぐ活動できるよう、目覚める前にホルモンの分泌を促し血糖値を上げたり、身体活動を高める交感神経系に働くよう指令を出したりします。夜には睡眠ホルモンのメラトニンを分泌させ、睡眠へと導きます。また、たとえば腎臓の子時計は、夜間にあまりトイレに行く必要がないよう、老廃物等を精製して尿をつくる機能を制御しているそうです。
こうして脳や体じゅうにある体内時計が時を刻み、睡眠や食事を含む多くの生理学的プロセスを調節しているからこそ、わたしたちは毎日を健やかに過ごせるわけです。
――「体内時計が乱れるとどうなる?」
では、一日の活動に合わせ、わたしたちの体温や血圧、ホルモン分泌などのリズムをつくってくれる体内時計が乱れたらどうなるでしょう。
程度の差こそあれ、当然体調を崩してしまいます。親時計と子時計がバラバラに動くため、仕事や勉強のほか、運動や日常生活のあらゆる動作のパフォーマンスを下げてしまうとのこと。もちろん、睡眠ホルモンなどもうまく分泌されなくなるので、眠りにも悪い影響を与えます。
つまり、体内時計を乱す危険性が常にあるビジネスパーソンは、知らず知らずのうちに、本来の力を発揮できていないかもしれないのです。
運動で体内時計をシフト? :米研究
そんななか、カリフォルニア大学サンディエゴ校やアリゾナ州立大学の研究者らが、運動によって体内時計をシフトし、スケジュールの変化に順応することを助けてくれると、2019年2月19日付で『The Journal of Physiology』に発表しました。
101人の参加者を対象に、運動後の体内時計を最長5日半にわたって検査したところ、以下の結果が出たそうです。
・「AM7時」または「PM1時~PM4時のあいだ」の運動は体内時計を早めに進める ・「PM7時~PM10時のあいだ」に運動すると体内時計が遅くなる ・「AM1時~AM4時のあいだ」及び「AM10時」の運動は体内時計にほとんど影響を与えず ・「年齢や性別による効果の違い」は無し
以前から、運動は体内時計を変化させることが知られていたそう。しかし、これは「体内時計に対する運動の効果を比較する最初の研究」であり、「時差ボケやシフト勤務などの悪影響に対抗するために、運動を活用できるという可能性を開く」と研究者は伝えています。
ただし、参加者が平均よりも身体的に活動的であったため、結果は平均的な人に変換されない可能性もあるとのこと。まだまだ、さらなる研究が必要ではありますが、運動が体内時計を「遅らせる時間帯」と「進ませる時間帯」を明らかにできたわけです。
これを活用しない手はありません!
運動で体内時計をシフトするコツ
もしも、あなたが、海外出張による時差ボケや、時差出勤、転職による勤務時間の変化、シフト勤務に、休日の朝寝坊などで、体内時計が乱れることを防ぎたい場合、状況に応じ、以下のコツで体内時計をシフトしてみてはいかがでしょう。
体内時計シフトを早めたい!
たとえば週末に海外出張から戻ったとき、あるいは休み明けから仕事の開始時間が早まる場合は、休日のあいだ「AM7時」または「PM1時~PM4時のあいだ」に、ジムへ行くかジョギングやウォーキングなどを行い、体内時計を早めに進める。
出勤しながら体内時計を早めていきたい場合は、「AM7時」あたりを目途に出勤前のウォーキングかジョギングを行う。あるいは早めに家を出て、出勤時の電車やバス1~2駅ぶんを歩いたり、意識的にエスカレーターやエレベーターを使わず階段を上り下りして体に負荷をかけたりする。
朝に運動できなかった場合は、「PM1時~PM4時のあいだ」を目途に、社内の移動に階段を使ったり、社内チャットではなく直接対話したりなどして、とにかく活動的に過ごす。
体内時計シフトを遅くしたい!
体内時計を乱してせっかくの休日を台無しにしたくない場合、休日前の「PM7時~PM10時のあいだ」を目途に、ジムに行くかウォーキングやジョギング、筋トレなどを行い、体内時計を遅くする。
今後は仕事のシフトが遅い時間になる、という場合は、1週間程度「PM7時~PM10時のあいだ」に運動して体内時計を遅らせておく。
*** 運動で体内時計をシフトできる可能性を示した研究と、その活用法のアイデアを紹介しました。無理がない程度に取り入れ、本来のパフォーマンスを発揮してくださいね!
(参考) 株式会社 林原 食品素材事業サイト|林原 知識ライブラリー|第5回 体内時計を正しく動かして、24時間の健康リズムを Physiological Society|Exercise in morning or afternoon to shift your body clock forward