「同じ課題をこなしているのに、どうして“あの人”は誰よりも処理能力が速くて正確なんだろう」 「問題解決に向けて議論しているとき、的確な解決法を提案するのはいつも同じ“あの人”」 このような人たちは『地頭が良い』と言われているはずです。
一般的に、『地頭が良い』と聞いてイメージするのは、頭の回転が速くて機転が利く人なのではないでしょうか。そのような人たちは、普段どういう視点で物事を観察し、情報を取捨選択し、人生の経験値を増やす努力をしているのでしょう。今回は、地頭力の向上につながる「情報処理能力」「問題解決能力」「思考力」が高い人の行動習慣について、詳しくお伝えします。
赤羽雄二氏は情報の取捨選択を心がけている
情報処理能力を上げるには、闇雲に情報を仕入れるだけでは意味がありません。世の中に溢れるさまざまな情報に対して、すばやく「これは重要かどうか」と判断できる能力を鍛える必要があります。
判断力を鍛えるためには、元マッキンゼーの赤羽雄二氏が編み出した『ゼロ秒思考』を取り入れましょう。『ゼロ秒思考』とは、「瞬時に現状の認識をし、瞬時に課題を整理し、瞬時に解決策を考え、瞬時にどう動くべきか意思決定できること」を意味します。つまり、迷っている時間はゼロ・思い悩んでいる時間はゼロとなり、即断即決・即実行が可能になるというわけです。
ゼロ秒思考を鍛えるには、自分が気づいたことや頭の中に散らばっている情報をA4用紙に書きつける、というシンプルな方法を取り入れます。「各項目20~30字でまとめる」「1枚につき1分以内で書き上げる」「毎日10枚書く」と簡単な決まりごとはあるものの、慣れてしまえば物事を決断するスピードが上がり、情報処理にかける時間は大幅に削減されるはずです。
このゼロ秒思考をベースに、日頃から情報の整理を意識するようにしましょう。「もったいない」「いつか使うかもしれない」と思ってとっておいた物が役に立つことはほとんどありません。むしろ、無駄なスペースを占領することで、本当に必要なものまでも埋もれてしまう危険性があるのです。頭の中をスッキリと整理整頓するためにも、無駄を省く潔さと勇気を手に入れたいですね。
内田和成氏は右脳と左脳を使い分けている
たとえば仕事の相手先から突然、「取引をしばらく中断したい」と言われたとします。もちろん驚き、戸惑い、落ち込みますが、そこで「しょうがない」という結論に達してしまうとしたら、残念ながら問題解決能力が高いとは言えません。
問題解決のプロフェッショナルとして知られる内田和成氏は、「相手の言葉の裏に潜む「Why」を理解することができれば、こちらの返答の内容(What)も変わり、適切な言い方(How)を選ぶことができる」と述べます。この場合、相手が「しばらく取引を中断したい」のは、ただ単純に予算の問題なのか、それとも他に良い条件を提案してきたライバルが現れたのか、何かしらの理由があるはずです。そこをしっかりと突き詰めて、最適な解決法を導き出すためにはどうしたらいいのでしょうか。
ビジネスのコミュニケーションも基本は同じだ。Whatは左脳の領域だが、WhyやHowは右脳の領域である。仕事は左脳だけで片付くと思い違いしている人も多いが、同時に右脳を働かせることで、はじめて相手を納得させる提案ができるのである。
(引用元:プレジデントオンライン|会議で企画が通らないーボスコン流問題解決【5】)
「解決策に説得力を持たせるためには、自分の頭の中に情報の仮想データベースをつくっておくことが重要」と説明する内田氏は、“リーダーシップ”や“競争戦略”といった引き出しをつくり、それぞれに印象的なエピソードを収納しています。
たとえば、「プレゼンテーション」の引き出しの中に入れるエピソードとして、次のような事例が考えられます。
- 同期のAのプレゼンは専門用語やカタカナ語を多用していてわかりにくかった。できるだけ誰でも知っている言葉を使うことが大事だと思った。
- B先輩は要点を3つに絞って重要な部分だけを強調していた。他の余計な情報が入ってこなかったため、しっかりと印象に残った。
引き出しの中身を充実させるためにも、情報に触れるときは常に問題意識をもっておきましょう。慣れてくると、その情報が使えるものか使う機会がなさそうかは、自動的に「右脳」つまり「自分の勘」が判断してくれるようになります。
佐藤優氏は読書で代理体験をしている
元外務省分析官で作家の佐藤優氏は、物事に対して理性を用いて合理的に理解し、考え、知識や情報を扱う力、すなわち『論理的思考力』を身につける必要性を説いています。それはビジネスシーンにおいて必要不可欠な力であり、ビジネススキル以前にしっかりと身につけなければなりません。
ただし、ここでお伝えしたいのは、論理的思考力を前提とした、「論理だけでは説明がつかない事象」に対する理解を深めることの重要性です。それはたとえば、人の心の機微についてや、世界の不条理についてです。佐藤氏は、論理が通用しない事象に対する備えとして、「小説を読むこと」をすすめています。
小説は、ただの娯楽として読むことも楽しみ方のひとつですが、それ以上に「代理体験」を得るという目的をもって読んでみると、さらに深い思考力へとつながります。歴史小説でも企業犯罪がテーマの小説でも、そこに広がるのは、論理だけでは推し量ることができない世界です。読書を通してその世界を体感することで、現実社会の厳しさや、人間の本質に触れることが可能になります。
たとえば、事件や裁判など、普通に生活していたら経験しないような出来事も、小説の世界では自分の人生の一部のようにリアルに味わうことができます。そして実際に、今自分が置かれている状況と比較したり、類比に基づいて理解し、行動に移すときの参考にしたりすることで、代理体験としての読書が活かされるのです。もし「自分には縁がない」「興味がない」という理由だけで、特定のジャンルの本を避けていたらもったいないと思いませんか?
読書で得た疑似体験は、無意識のうちに経験値として刻み込まれます。これまで蓄積された知識や情報が活きる瞬間は必ず訪れるので、あらゆるジャンルの文化に触れてみるといいでしょう。
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情報は常に整理して、余計なものは思い切って捨てること。新しい情報に触れるときは、問題意識をもって向き合うこと。さまざまなジャンルの本を読み、未知の世界を代理体験すること。たくさんの知識や情報を蓄積しつつブラッシュアップし続けることが、地頭力を高める秘訣です。
(参考)
Study Hacker|医学生が教える「地頭力」を鍛える3
ダイヤモンド・オンライン|即断即決、即実行を妨げる心理的ブロックと解決法
プレジデントオンライン|会議で企画が通らないーボスコン流問題解決【5】
東洋経済ONLINE|スキルを学ぶ前に、論理的に考える力を磨け