組織には、さまざまなタイプの人間がいます。そのなかで思いがけずチームのリーダーを任されたら、たとえ少数であっても個々のタイプを把握し、それぞれに合った動機づけを行うことが大切です。また、見落としがちなことにも目を向けなければなりません。さっそく説明しましょう。

モチベーションの焦点

人は、モチベーションを高めるにあたって「促進焦点(promotion focus)」と、「予防焦点(prevention focus)」という、2種類の焦点を持っているそうです。誰でも両方の焦点を用いますが、どちらが優勢になりやすいかは個人差があります。社会心理学者のハイディ・グラント・ハルバーソン氏や、名古屋大学・大平英樹教授編集の『感情心理学・入門』によれば、それぞれの特徴は以下のとおり。

【促進焦点型】理想を追求しようとする。肯定的な出来事に対して敏感で、望ましい状況に近づこうとする。仕事や人生における目標を向上・成就・報酬獲得の機会と考える。目標を達成したとき手に入るものに目を向ける。そのため、目標を達成すると快活になり、達成できなければ落胆する。

【予防焦点型】安全が第一。否定的な出来事に対して敏感で、望ましくない状況を回避しようとする。義務感が強く、努力して得たものを失わないことが最重要。危険を避けて、責任を全うする。頼りにされること、物事をスムーズに進めることを重視。そのため、「あることを喪失するかもしれない」という状況で優勢になる。目標を達成すると静穏に、達成できないと動揺する。

これらの概念は、コロンビア大学教授のE・トーリー・ヒギンズ氏が提唱した「制御焦点理論」によるもの。ハーバード・ビジネス・スクールの心理学者エイミー・カディ氏によれば、「制御焦点理論」は現代心理学で注目されている理論のひとつなのだとか。

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促進焦点型・予防焦点型それぞれが得意なこと

ハルバーソン氏によれば、促進焦点型と予防焦点型の人が得意とすることは、それぞれ次のとおり。

【促進焦点型】リスクを恐れずチャンスをつかんで一歩先んじる傾向。創造性があり、革新的で創造力豊か。選択肢が多く、仕事も素早くこなす。しかし、そのぶんミスが多く、リスクをいとわず楽観的に物事をすすめてしまうので、トラブルを招くことも多い。

【予防焦点型】非常に綿密で、細部にも気を配るので仕事に不備がない。計画性があって思考も分析的、高い信頼性があり、危機管理に長けている。しかし、変化を嫌うためチャンスを逃すことが多い。正確さを重視するので、仕事は比較的遅く、頑固な面もあり。

ではチームリーダーとして、こういった特徴をもつメンバーがやる気を高めるには、どう指導したらよいでしょう。

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それぞれのタイプに合った動機づけ

促進焦点型の人は「利得を得ること」に動機づけされ、予防焦点型の人は「損失を回避すること」に動機づけられます。したがって、「サッカーのペナルティキックを5本蹴ってもらう」という状況を例にとると、それぞれ次のように指導することが望ましいといえます。

【促進焦点型】の人には、「少なくとも3点とることが、あなたの目標だ」
【予防焦点型】の人には、「2本より多く外さないことが、あなたの義務だ」

つまり、「促進焦点型」の人が「得たい利得」=ゴールを入れる、「予防焦点型」の人が「回避したい損失」=ゴールを外さない、ということです。「目標」と「義務」の言い換えもそれぞれの特徴に合うはず。そして、個々に合った動機づけ以外にも、大切なことがあります。

「予防焦点型」の功績は目立たない

仕事の現場では、一般的に「促進焦点型」の人が花形です。なぜならば、“目標達成でもたらされる利得を重視する”このタイプはチャンスをつかむ能力に長け、創造性に富んで革新的、しかもスピード感のある仕事ぶりなので、必然的にビジネスシーンでは評価され、称賛されやすいのです。映画やドラマでも、リスクを恐れず挑戦するビジネスパーソンは頼もしいヒーローですよね。

一方、“目標達成できなければ何を失うか”を重視する「予防焦点型」の人は、その損失を回避するためには労をいとわず慎重に、綿密に計画して細部まで確認を怠らず、予定どおりに物事がすすむよう黙々と働きますが、全く目立ちません。いつもどおりに物事がスムーズに運んでいればなおさら、スムーズであることが「ごく普通のこと」だからです。

つまり、起こったことは注目されますが、起こらなかったことは注目されないので、「予防焦点型」の人が最大限の労力を注ぎ大きな損失を回避したとしても、「よくやった!」とは称えられにくいのです。

陰で支えるヒーロー「予防焦点型」も称えよう

そんななか、社会心理学者のハルバーソン氏は、NASAが打ち上げたロボット宇宙探査機を例にだし、予防焦点型の人々をヒーローとして称えるようすすめています。

1998年の終わりに打ち上げられたロボット宇宙探査機「マーズ・クライメイト・オービター」は、周回軌道に乗るはずだった時点で行方不明になったそうです。それで失われた金額は、アメリカ国民の血税1億2500万ドル。するとその失敗の原因は、NASAのエンジニア・チームがメートル法で仕事をしていたのに対し、ロッキード・マーティン(航空機・宇宙船の開発製造会社)のエンジニアたちがイギリス式のヤード・ポンド法を使っていたからだったそう。

なぜ偉大なミッションでそのように凡庸なミスがあったのかと驚きますが、ハルバーソン氏いわく「NASAのラボでは予防的な考え方が十分に機能していない」とのこと。皮肉なことに、大きなミスが発覚してこそ、「物事がいつもどおりスムーズに運ぶよう、損失を最大限に回避するよう、綿密な計画と細やかなチェックを怠らない予防焦点型の人」の仕事が、いかに大切か明確になるというわけです。

チームを成功に導くには、促進焦点型の人の強みも、予防焦点型の人の強みも必要です。だからこそ、チームリーダーは、ぞれぞれを優位に持つ人の特徴を知り、動機づけを行い、なおかつ、称えるべき仕事を行った人には、見落とすことなく称えていくことが大切です。

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チームメンバーが、「促進焦点」と「予防焦点」どちらの焦点を優位に持っているかを把握するには、彼らの仕事ぶりをしっかりと見ながら、常にコミュニケーションを持つことも必要です。心理学者アドラーの考えを参考にすれば、リーダー(上の立場)としてではなく、横の関係(対等な立場)で接していくのがいいですよ。

(参考)
大平英樹編集(2010),『感情心理学・入門』,有斐閣.
エイミー カディ著,‎石垣賀子訳(2010),『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』,早川書房.
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