ビジネス文書において頻繁に登場するのが「箇条書き」です。著書『新・箇条書き思考』(明日香出版社)で注目されているリサーチャーの菅原大介(すがわら・だいすけ)さんは、よりよい箇条書きをしていくためには「ファクト」に注意することが大切だと語ります。そもそも「ファクト」とはどんなもので、どんな点に注意すればいいのでしょうか。菅原さんは、「述語」「数量表現」「時間」の3つに注意することをポイントに挙げます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
ファクトを使った箇条書きにおける典型的な失敗例
ビジネスにおいて箇条書きをよりよく使うためには「ファクト」が大切だと、私は提唱しています。
ファクトとは、一般的には「事実情報」のことを指し、ビジネスシーンにおいては説得の裏づけのための数字などのこと。会議資料に使う販売データや市場データ、顧客の行動データといったものです。
こういった数字は客観的なものですから、使い方にいいも悪いもないように思うかもしれませんが、実際にはいい使い方とよくない使い方があるのです。ビジネスパーソンが箇条書きを使う際にしてしまいがちなファクトに関する失敗例を挙げてみましょう。
【箇条書きにおけるファクトに関する失敗例】
- 数字の報告がすべてになっていて、自分の意見がない
- どこまでがファクトでどこからが意見なのかがわかりづらい
- ひとつの項目に複数のトピックスが含まれている
- 並べる項目数が多すぎて、相手が読みきれない
1つめは「数字の報告がすべてになっていて、自分の意見がない」というもの。ファクト自体を押さえておくことはとても大事です。しかし、その結果としてどんな意見をもったのか、どうしたいのかが書かれていないというケースがこれに当たります。このような状態のままではただ数字を並べただけに過ぎず、ビジネスパーソンとしての意識に欠けていると言われても仕方ないでしょう。
「ファクトが大事だ」と考えすぎることも失敗につながる
続いて2つめです。自分の意見を入れるべきだとはいっても、ファクトと自分の意見をひとつの項目に混在させてしまっては、「どこまでがファクトでどこからが意見なのかがわかりづらい」ものになってしまいます。わかりやすい例を挙げれば、「いま大人気の『○○』というテレビドラマの視聴率は△%」といったもの。
数字をどう解釈するかは人それぞれです。「視聴率が△%だから、これは大人気だ」というのは書き手の主観に過ぎません。ですから、それらは項目を分けて展開するべきあり、この場合なら「『○○』というテレビドラマの視聴率は△%」までに留め、そのあとで「その結果、私は『○○』が大人気だと解釈している」と展開するべきです。
3つめは「ひとつの項目に複数のトピックスが含まれている」というもの。「ファクトが大事だ」と考えすぎるあまり、ひとつの項目のなかにデータなどの数字をいくつも入れ込もうとするために起こる失敗です。もちろん、同じトピックスにまつわる数字なら問題ない場合もありますが、まったく異なるトピックスに関する数字をひとつの項目に入れ込んでしまえば、相手にはわかりづらい内容となるでしょう。
最後の4つめは、「並べる項目数が多すぎて、相手が読みきれない」というもので、これも「ファクトが大事だ」と考えすぎるために起こる失敗例です。箇条書きの目的でありメリットは、「なんらかの物事をわかりやすく整理する」、さらにはそのことの「理解を深める」ことです(『長い文を区切るだけでは完全に無意味! 相手に伝わる「最高の箇条書き」の極意とは』参照)。
それなのに、あれもこれもと項目数を増やしてしまえば、箇条書きのメリットを自ら放棄しているようなもの。ありとあらゆるデータが並んでいればいいわけではありません。その箇条書きをもってして自分がどうしたいのか。そのことを強く意識し、必要な項目を絞り込んで相手にとってわかりやすくすることが大切です。
よりよい箇条書きにするための3つの注意点
では、それらの失敗をしないように気をつけつつ、さらによい箇条書きにしていくために、ファクトに関してどんなことに注意するべきでしょうか。その注意点はいくつもありますが、ここでは、「述語」「数量」「時間」の3つの表現に注意することをおすすめします。
■「述語」の表現に注意
述語に関しては、表記を統一していくことが大切です。これはたとえば、データを使って報告をするときなどに、なんらかの数字が◯%で「高い」と言うのか、それとも「大きい」「多い」と言うのかといったこと。それらが混在してしまうと、読むときの「リズム感」が損なわれてしまいます。物事を簡潔にまとめて理解度を高めるための手法である箇条書きにおいては、リズム感はとても大事なものです。
■「数量」の表現に注意
数字自体も大切ですが、「数字の意味合いが相手にきちんと伝わるか」ということも絶対に見落としてはいけないポイントです。なぜなら、箇条書きとは「なんらかの物事をわかりやすく整理する」ためのものであり、ビジネスで使うときには箇条書きを読む「相手」が必ず存在するからです。相手が理解できない箇条書きには意味がありません。
数量の表現は、商品やサービスの説明文にはつきものです。商品であるお皿のサイズを表現するときに、ただ「直径○cm」だけで済ませたとしたらどうでしょうか? 一般の消費者からすれば、数字だけでお皿のサイズ感をすぐにイメージできる人は少数派でしょう。ですから、数字とあわせて「メインディッシュに最適な大きめサイズ」「デザートやサラダの取り分け用」というようなことも書き添えるのです。そのように、相手の立場を想定したサービス精神が重要です。
■「時間」の表現に注意
最後は「時間」です。特にビジネスシーンにおいては、日時の数字はとても頻繁に使われます。それらを「昨日」とか「一昨年」というふうに表したとしたらどうですか? 当日時点では問題ないとしても、議事録などであとから見返す場合には「この『一昨年』とはいつのことだろうか」と調べ直す手間が発生してしまいますよね。多忙なビジネスパーソンにとっては無駄な時間と労力を費やすことはなるべく避けるべきです。
もちろん、ここで挙げた3つは、よりよい箇条書きをしていくために必要なことの一部です。それでも、この3つを意識することだけでも、みなさんの箇条書きは相手にとって確実にわかりやすくなると思います。
【菅原大介さん ほかのインタビュー記事はこちら】
長い文を区切るだけでは完全に無意味! 相手に伝わる「最高の箇条書き」の極意とは
年1,000ページ資料をつくる “箇条書きのプロ” 直伝。相手を満足させる最強の項目数は〇個だ!
【プロフィール】
菅原大介(すがわら・だいすけ)
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。マーケティングリサーチのリーディングカンパニー・マクロミルで外資系コンサル・大手広告代理店・シンクタンクチームに所属し、月次500点以上のファクトデータを収集するリサーチ業務に携わる。現在は国内通信最大手のグループ企業にて中期経営計画・ブランド策定など会社の意思決定に関わるロジックデータを手がけ、企画立案のために作成する資料は年間1,000ページに及ぶ。数字と言葉を駆使するプロフェッショナル職として、箇条書きを駆使した情報収集・情報発信に定評があり、アンケート・データ分析・資料作成などをテーマとしたnoteや講習会が好評を得ている。著書に『新・箇条書き思考』(明日香出版社)、『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)、『ウェブ担当者のためのサイトユーザー図鑑』(マイナビ出版)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。