普段、なんとなく使っている「箇条書き」。でも、ビジネス文書において使うときには、箇条書きにも「よい箇条書き」と「よくない箇条書き」があります。年間1,000ページもの資料を作成するために膨大な数の箇条書きを目にしているリサーチャーの菅原大介(すがわら・だいすけ)さんに、「よい箇条書き」「よくない箇条書き」それぞれの特徴と、「よい箇条書き」をするために必要なことを教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
ビジネスにおける箇条書きには「相手」がいる
「箇条」とは、「いくつかに分けて挙げたひとつひとつの条項」という意味です。つまり「箇条書き」とは、「情報を文章としてまとめるのではなく、ひとつひとつの項目として列挙する書き方」を指します。
個人としては、備忘録として使ったり、資料の要点をまとめたり、読んだ本のなかから印象に残ったことを抜き出したりするような使い方が一般的になるでしょうか。「なんらかの物事をわかりやすく整理する」、さらにはそのことの「理解を深める」ことが箇条書きの大きな目的でありメリットです。
もちろん、ビジネスにおいても箇条書きは頻繁に使われるものです。ただ、そのときに「相手」がいるという意識が抜け落ちていることも多いように感じています。個人で使うときとは違って、なんらかの報告や連絡、提案といったビジネスの場面で箇条書きを使うときには、その先に必ず相手がいます。そのことを意識できていなければ、その箇条書きはよくない箇条書きとなるでしょう。
そんな、「相手に伝わらない箇条書き」の最大の特徴は、「長い文章を無理に区切ろうとして意味が通じなくなっている」ことだと私は見ています。これは、それなりの量がある文章で伝えることに慣れている反面、物事を整理してまとめることに慣れていない人がやりがちな失敗です。
そういう人の箇条書きも、見た目の形式としては箇条書きになっているように見えるかもしれません。でも、もともとの長い文章を無理やりぶつ切りにしたようなかたちになり、結局何を言いたいのかが相手には伝わらないために、物事をわかりやすく整理して相手の理解を深めるという箇条書きの目的を果たすことができていないのです。
よい箇条書きは「項目の長さがおおよそそろっている」
一方、箇条書きをうまく使えている人の場合には、「見た目として項目の長さがおおよそそろっている」という特徴が見られます。これは、リサーチャーという私の仕事柄、膨大な量の調査レポートやニュースリリースにおける箇条書きに目を通すことから実感していることです。
「見た目の問題じゃないだろう」と思う人もいるかもしれません。でも、箇条書きを使うのは、あるひとつのテーマについての項目を書き出すためであることがほとんどなので、その項目を構成する主語や述語、修飾語といった要素も基本的には共通したものになるはずなのです。では、簡単な例を挙げましょう。
【よい箇条書きの例】
見た目として一文の長さがおおよそそろっている!
■ 今月中にやるべきタスク
- 市場のリサーチ
- 予算の検討
- 企画案の作成
これは、わかりやすくお伝えするための簡単な例ではありますが、テーマの内容をきっちりと整理して相手に伝わりやすくまとめることができていれば、結果としてこの例のように項目の長さはおおよそそろってくるのです。
「箇条書き思考」により、おのずと箇条書きスキルはアップする
ではどうすれば、よい箇条書きをできるようになるのでしょうか。そのためには「文章術を高める」「『箇条書き思考』を身につける」というふたつのアプローチがあります。
ひとつめの「文章術を高める」とはそのままの意味で、日本語の運用能力を高めて箇条書きの見せ方を整えていこうというアプローチです。箇条書きは、基本的に項目の長さをできるだけ短くする作業ですので、「無駄な形容詞や副詞といった修飾語を削る」「定性的で曖昧な表現をやめて具体的で簡潔な数字に置き換える」といったことが大切になります。そういったテクニカルなアプローチについて解説している書籍はたくさんありますから、それらを参考にしてみるのがいいでしょう。
ただ、本当に大切になるのは、もうひとつの「『箇条書き思考』を身につける」というアプローチです。「箇条書き思考」とは、「箇条書きを使って、相手を動かす」ということになります。ビジネスにおいては、仕事で関わる人を動かせて初めてその仕事に意味が出てくるものだからです。
たとえば、報告や連絡で箇条書きを使う場合には、自分が伝えたいことや伝えるべきことを相手がしっかり理解して納得してくれることが大切です。それこそ、プレゼンのような提案をする場で箇条書きを使うときには、相手になんらかのアクションを起こさせることが最大の目的となります。
「物事をわかりやすく整理する」にとどまらず、その項目の連なりによって「相手を動かす」ことを考えれば、どんな項目が必要でどんな項目が不要なのか、そういったこともおのずと見えてくるはずです。そして、よりよい箇条書きができるようになると思います。
【菅原大介さん ほかのインタビュー記事はこちら】
あなたも絶対やっている「ダメな箇条書き」4パターン。直すには “これ” の扱い方に注意せよ
年1,000ページ資料をつくる “箇条書きのプロ” 直伝。相手を満足させる最強の項目数は〇個だ!
【プロフィール】
菅原大介(すがわら・だいすけ)
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。マーケティングリサーチのリーディングカンパニー・マクロミルで外資系コンサル・大手広告代理店・シンクタンクチームに所属し、月次500点以上のファクトデータを収集するリサーチ業務に携わる。現在は国内通信最大手のグループ企業にて中期経営計画・ブランド策定など会社の意思決定に関わるロジックデータを手がけ、企画立案のために作成する資料は年間1,000ページに及ぶ。数字と言葉を駆使するプロフェッショナル職として、箇条書きを駆使した情報収集・情報発信に定評があり、アンケート・データ分析・資料作成などをテーマとしたnoteや講習会が好評を得ている。著書に『新・箇条書き思考』(明日香出版社)、『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)、『ウェブ担当者のためのサイトユーザー図鑑』(マイナビ出版)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。