ディシジョンツリーとは? どんな悩みもスッキリ解決する方法

ディシジョンツリーの作り方

ディシジョンツリー(デシジョンツリー、決定木)とは、情報を整理・分析しながら作る樹形図で、意思決定に役立つツール。ディシジョン(decision)は英語で「決定」、ツリー(tree)は数学の場合分けなどに使う「樹形図」を意味しています。

ディシジョンツリーを作成するには、「ノード」と呼ばれる記号や、確率・期待値の計算などが必要なので、初めての人は少し戸惑うかもしれません。そこで本稿では、ディシジョンツリーの概要や作り方、具体例を詳しい図解つきで解説していきます。

ディシジョンツリーとは

ディシジョンツリーとは、現況をくまなく分析し、どの選択をすればどんなことが起きうるか、そしてどの選択が最も正しそうか論理的に判断するために役立つツールです。

ビジネスの現場には意思決定がつきもの。どの仕事を最優先に進めるべきか? 顧客のクレームにどう対処すべきか? 次はどんな新製品を開発するべきか? キャッチコピーはどの案を採用しようか? ーー日々の生活の中で、私たちは実にさまざまな意思決定を行なっています。

何かを決めなくてはいけなくなったとき、あなたはいつもどのように判断を下しているでしょうか。何のルールも思考ツールももたず「なんとなくこっちのほうが良さそうだな」という感覚的な決め方に頼っている方も多いのでは。

しかし、ビジネスに必要なのは、根拠のある客観的な判断です。そして、複数の選択肢を論理的に比較・検討するには、ディシジョンツリーがもってこいというわけ。

まずは、ディシジョンツリーの現物を見ていただきましょう。詳しいことは後述しますが、以下がディシジョンツリーの一例です。

「どんなアプリを開発すべきか」?というテーマのディシジョンツリー。「ゲームアプリ 開発費:100万円」「業務効率化アプリ 開発費:60万円」「既存のアプリを刷新 開発費:30万円」という3つの枝が、さらに「ヒット!」「ヒットせず」の2パターンに分かれ、合計で6つの結果が生まれた。

(画像は筆者が作成)

図の左端にある青い四角形が「どの種類のアプリを開発すべきか?」という問いで、出発点。そこから「ゲームアプリを開発した場合」「業務効率化アプリを開発した場合」「既存のアプリを刷新してリリースした場合」と3パターンに枝分かれし、さらに「アプリがヒットした場合」「ヒットしなかった場合」という2パターンの可能性に分かれています。

ディシジョンツリーを使うことによって、与えられている選択肢や、選択の結果として起こりうること、それぞれの選択における「期待値」などの情報が漏れなく洗い出されるため、比較検討したうえで最も勝算の高い選択を選べるのです。

ディシジョンツリーの作り方

ディシジョンツリーの作り方を具体的に解説していきます。「どの種類のアプリを開発すべきか?」をテーマに、上で挙げた図を完成させるまでの過程です。

1. 問いを書き込む

まずは、ディシジョンツリーの出発点(樹形図の根っこ)となる問いを書きます。紙の左端に正方形を書き、その脇に問いを書き入れましょう。

今回の場合は、「どの種類のアプリを開発すべきか?」です。そして、この青色の正方形が分岐点(ノード)となり、樹形図の起点になります。

ディシジョンツリーの書き始め。左端に青い正方形を描き、その上に「どんなアプリを開発すべきか?」と書く。

正方形は、「意思決定によりコントロール可能な分岐点」を示す印。「どの種類のアプリを開発するか」は自分の意思で決められるので、出発点は正方形のノードです。

正方形のほか、円形マークの分岐点もあとで登場します。円形は「コントロール不可能な分岐点」。つまり、事業の成功/失敗など、自分の意思では決められない分岐点を表すノードです。要するに「人事を尽くして天命を待つ」でいう“人事”の部分が正方形で、“天命”の部分が円形で示されているものと覚えておいてください。

2. 選択肢を書き込む

次に、選びうる選択肢をすべて書き出し、出発点につなげる形で表記します。今回の例では、選択肢は「ゲームアプリを開発する」「業務効率化アプリを開発する」「既存のアプリを刷新する」の3パターン。それぞれの選択肢を実行するためのコスト(開発費)も併せて表記しておきましょう。

青い正方形から「ゲームアプリ 開発費:100万円」「業務効率化アプリ 開発費:60万円」「既存のアプリを刷新 開発費:30万円」という3つの枝を伸ばす。

3. 選択後に起こりうることを想定し、さらに分岐させる

3パターンの選択肢は、その先で分岐します。開発したアプリが「ヒットした場合」と「ヒットしなかった場合」の2パターンが考えられるためです。

アプリがヒットするかどうかはリリースしてみなければわからないので、「コントロール不可能な分岐点」に該当します。円形のノードを描いて分岐させましょう。

3つの選択肢について、さらに「ヒット!」「ヒットせず」の可能性を考慮して枝を伸ばす。

4. 結果ごとに発生確率とリターンを書き込む

次は、それぞれの可能性に対して「発生確率」と「得られるリターン」を書き込みます。「ゲームアプリを開発し、そのゲームアプリがヒットする」確率は35%で、その場合の収益は3,000万円が見込まれる、という具合に、6パターンそれぞれの可能性がどのくらいなのか、どのくらいのリターンが得られるのか書き入れていきましょう。

計6つの可能性に対し、それぞれ「発生確率」と「得られる利益」と書き込む。この場合、上から【35%ー3,000万円】【65%ー1,000万円】【60%ー2,000万円】【40%ー800万円】【80%ー1,000万円】【20%ー500万円】。

確率やリターンは、過去のデータや資料などを参考に、なるべく正確な値を書くようにしてください。値が正確であればあるほど、ディシジョンツリーの信頼性も高くなります。

気をつけたいのは、同じ分岐点から伸びている出来事同士は、確率の合計が必ず100%になるようにすること。たとえば、「ゲームアプリがヒットした場合」と「ゲームアプリがヒットしなかった場合」は、1つの分岐点から派生しているので、両者の確率の合計はぴったり100%でなければなりません。成功確率が60%で失敗確率が80%というのは、論理的におかしいですよね。

5. 結果ごとの期待値を計算する

確率とリターンの値から、各結果の「期待値」を出します。期待値を求める式は「確率×リターン」。たとえば、「ゲームアプリがヒットする」確率は35%、リターンは3,000万円だったので、期待値は0.35×3,000万円=1,050万円ということになります。

ディシジョンツリーの完成。6つの結果に対する期待値は、上から1,050万円、650万円、1,200万円、320万円、800万円、100万円。

6. 選択肢ごとの期待値を計算し、比較する

結果ごとの期待値をもとに、「各選択肢ごと」の期待値を求めましょう。

たとえば、「ゲームアプリを開発する」という選択肢を選んだ場合の期待値は、そこから派生する2つの可能性(「ヒットする」場合と「ヒットしない」場合)の期待値を足し合わせ、開発費の100万円を差し引いた値になります。つまり、「ゲームアプリを開発する」を選んだ場合の期待値は、1,050万円+650万円-100万円=1,600万円です。

残り2つの選択肢(「業務効率化アプリ」「既存のアプリの刷新」)の期待値も、同様の手順で導きます。

3つの選択肢の「ヒット!」と「ヒットせず」の期待値を合計してコストを引く。「ゲームアプリ」では1,600万円、「業務効率化アプリ」では1,460万円、「既存のアプリを刷新」では870万円となった。

以上でディシジョンツリーは完成です。

結果をまとめると、「ゲームアプリを開発する」の期待値は1,600万円、「業務効率化アプリを開発する」の期待値は1,460万円、「既存のアプリをリニューアルする」の期待値は870万円なので、3つの中で最も期待値が高い「ゲームアプリを開発する」を選択するのが正しい意思決定である、ということになります。

覚えてしまえばとても簡単な工程なので、選択に悩んだときにはディシジョンツリーを作成し、どの選択が最も合理的なのか考える手がかりとして使ってみてくださいね。

ディシジョンツリーの活用例

ディシジョンツリーは、出来事の発生確率とリターンの値さえわかっていれば、どのような意思決定の場面にも適用することができます。ディシジョンツリーが活用できる例をほかに2つ、ご紹介しましょう。

日常編:傘をもっていくべきか考える

天気予報で「降水確率が50%」と出ている日には、傘をもっていけばいいのかどうか迷ってしまいますよね。そこで、ディシジョンツリーを使い、傘をもっていくべきかどうかの意思決定を行なってみましょう。

ディシジョンツリーを作るには「発生確率」と「リターン」という2つの情報が必要です。今回の場合、発生確率としては「降水確率50%」という値が使えます。

一方、アプリ開発の例のように「リターン」を金額で表すことはできません。そこで今回は、主観的な「不快感」を数値化し、リターンの値として用いることにします。仮に、傘をもたず雨に濡れてしまうことの不快感を70、傘をわざわざ持ち歩く不快感(面倒臭さ)を30としてみましょう。

「傘をもっていくかどうか?」というテーマのディシジョンツリー。「傘をもっていく」「傘をもっていかない」という2つの枝が、さらに「雨が降る」「雨が降らない」の2パターンに分かれ、合計で4つの結果が生まれた。

(画像は筆者が作成)

「傘をもっていく」場合は、雨が降っても降らなくても濡れることがないので、不快感の期待値は0。ただし、傘をもち歩く不快感30があるので、合計の期待値は30になります。

一方、「傘をもっていかない」場合は、傘をもち歩くことによる不快感はありませんが、その代わり雨が降ってしまった場合には、70の不快感を受けてしまいますね。降水確率は50%なので、期待値は70×0.50=35となります。

「傘をもっていく」場合の期待値は30、「傘をもっていかない」場合の期待値は35。したがって、より不快感の期待値が小さい「傘をもっていく」を選択するのが合理的な判断ということになります。不快感の値をいくつにするかによって結果は変わりますが、判断に迷った際の目安としては十分役立つでしょう。

このように、金額など数値的なリターンがあるわけでないケースでも、快・不快や善悪などを数値に置き換えることで、ディシジョンツリーを使えるようになるのです。

勉強編:テスト勉強の戦略を立てる

ディシジョンツリーは、試験勉強の戦略を立てるのにも応用できます。

たとえば、何か資格試験を受けることになったとしましょう。しかし、忙しくて勉強をする時間が十分に取れませんでした。さあ、いよいよ試験の1週間前。あなたの前には2つの選択肢があります。

  1. 浅く広く勉強する
  2. 試験範囲のヤマを張る

「浅く広く勉強する」を選んだ場合、良くても最高70点までしか取れませんが、どんなに悪くても60点は取ることができます。70点を取れる確率は80%、60点を取る確率は20%としておきましょう。

一方、「ヤマを張る」を選んだ場合は、ヤマが当たれば90点を狙うことができますが、ヤマが外れれば最悪、50点しか取れないリスクもはらんでいます。ヤマが当たる確率は半々(50%)としましょう。

テスト勉強において「浅く広くか、ヤマを張るか?」というテーマのディシジョンツリー。「浅く広く勉強する」「ヤマを張る」という2つの枝が、さらに「上手くいく」「上手くいかない」の2パターンに分かれ、合計で4つの結果が生まれた。

画像は筆者が作成

計算の結果、浅く広く勉強した場合の点数の期待値は68点。ヤマを張った場合の期待値は70点。なんと、ヤマを張る方が期待値が高いという結果になりました。

とはいえ、もちろんこれは「すべてのケースにおいてヤマを張った方が得」という意味ではありません。試験の種類や傾向、諸条件によりさまざまなケースが考えられるので注意してくださいね。

このように、ディシジョンツリーは日常の中のささいな迷いから、勉強やビジネスにおける重要な決定まで、幅広い場面で応用できる優れものなのです。

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合理的な意思決定を行ないたい人の強い味方、ディシジョンツリーについて解説しました。何か迷いが生じたとき、複雑な問題を前にしたときなどに、状況を整理するのに使える便利な思考ツールなので、ぜひ活用してみてくださいね。

(参考)
イノベーションマネジメント株式会社|第19回 デシジョンツリーとプロジェクト計画
JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト|ディシジョン・ツリー
ひらめきEX|確率と期待値を考慮して意思決定を行うための手法ディシジョンツリー【フレームワーク】
ITmedia エンタープライズ|ディシジョンツリー(でぃしじょんつりー)

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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