日々さまざまな読書術を実践していくなかで、「読んでいる最中」のテクニックや「読後」のアウトプットに工夫をしている人は多いと思います。では「読書前」に工夫をしている人はというと、意外と少ないのではないでしょうか?
じつは、一流の読書家と呼ばれる人たちは、読書前の工夫によって読書効果をより高めているのです。みなさんも、せっかく読書中や読書後の工夫をしているのであれば、一流が読書前に実践していることもプラスしてみませんか? きっと、読書効果のさらなるアップにつながるはずですよ。
そこで今回は、普段なかなかスポットの当たらない「読書前の工夫」についてまとめてみました。どれも簡単に実行できて効果が上がるものなので、ぜひ取り入れてみてくださいね。
立花隆氏は「締め切り」を決めて読む→読むスピードが上がる!
忙しくてなかなか本を読む時間が確保できない方におすすめしたいのが、「知の巨人」のニックネームを持つジャーナリスト・評論家の立花隆氏が実践する、「締め切り」を設定して読むという方法です。
立花氏は、特定の人物に取材をする際、その人について書かれた本を読みます。5冊でも10冊でも、書かれたものすべてを読まなければ良い取材ができません。だから、どんなに取材日が近くても取材当日までに必ずすべて読み終える、という経験を繰り返してきました。それにより、読むスピードのアップにつながったそうです。
こうした経験から立花氏は、普段から本を読む前に「意識的に締め切りを作る」ようにしています。「この本をいつまでに読み切る」と自分の中で決めると、忙しいときでも本がスピーディーに読めるそうです。
立花氏のように、仕事のために必ず読まなくてはならないという状況でなくてもかまいません。締め切りを設ける「だけ」でも、かなり有効。スタンフォード大学教授であった心理学者エイモス・トベルスキー氏(1937~1996)が行なった実験により、「締め切りを設けることで目標達成度が上がる」ということが立証されているのです。これを「締め切り効果」と呼びます。
トベルスキー氏は、学生を2つのグループに分けてレポートの提出を求めました。片方のグループには無期限で提出を受け付け、もう片方のグループには期限付きで提出を受け付けました。すると、期限なしのグループは25%の学生しか提出しなかったのに対し、期限付きのグループではなんと66%もの学生がレポートを提出しました。
「仕事やプライベートの予定で忙しくて、なかなか本を読み進められない」とお悩みならば、本を読む前に意識的に締め切りを作るようにしてみましょう。たとえば、プレゼンの予定されている日や、顧客訪問の日、企画会議の日、のように仕事の期日と絡めておくと、本の中から意識的にそれに役立つ情報を拾い上げることもできるので、良いかもしれません。
印南敦史氏は「読書の場所」を工夫する→読んだ内容を忘れない!
本を読んでも内容を忘れてしまうという人は、読書する場所をいつもと少し変えてみるのが有効です。
書評家、音楽評論家、作家として多くのメディアで連載を持つ印南敦史氏が、著書『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』の中で述べているのが「シチュエーション読書術」です。これは、本を読む場所を工夫することで、本の内容とそのときの現実のシチュエーションとを結び付けて記憶に残すというという方法です。
印南氏が述べている例を紹介しましょう。電車で本を読んでいて印象的な部分を見つけたとき、たまたま目の前に座っている人が大きなクシャミをしたとします。その場合、その本の印象的な部分とクシャミの記憶が連動して、より強く記憶に残るそうです。このように実際の情景と本の内容が結び付けば、自分がクシャミをしたときでさえも、ふとその本の内容が思い出され、内容を新鮮に思い出す機会となるのです。
印南氏によると、読書に適しているようには思えない、そもそもそこで読書をしようとは思わないような場所を選んだほうが、より効果があるとのこと。ここがとても重要なポイントです。なぜなら、読書と容易には結び付かないシチュエーションほど、インパクトがあってより強く記憶に残せる材料がたくさんあるからです。
実際に印南氏がよく選ぶ場所のひとつが「駅の(ホームの)ベンチ」だそうです。適度に周りが騒がしく、座り続けている人も自分以外にほとんどいないという状況のため、情景が次々と変わり、本の印象的な部分との紐づけがたくさんできるのだとか。
例えば、本を読むシチュエーションのひとつとして、仕事帰りの「居酒屋」などを選んではどうでしょうか? 場合によっては騒がしすぎて読書に集中できない可能性もありますが、ほどよい騒がしさの場所ならば、本の中身とひもづけしやすい情景がたくさん転がっているかもしれません。仕事用の本であれ勉強用の本であれ、本の内容を記憶に残したいなら、時にはいつもと違う場所を選び、周りの景色を変えて読んでみましょう。
松本幸夫氏は「儀式」をしてから読む→読書モードに入りやすい!
いざ本を読もうと思っても、スマートフォンもインターネットも気になってなかなか読書モードに入れない。そんな人は読書前の「儀式」を持ってみるのが良いかもしれません。
研修や講演の活動を展開するヒューマンラーニング株式会社代表取締役で、400冊超の著書を持つ松本幸夫氏は、『あたりまえだけどなかなかできない 読書習慣のルール』のなかで、本を読む前に「儀式」を行なうと読書モードに切り替えしやすくなると述べています。
松本氏のいう儀式とは、いくつかの簡単なアクションを用意したり、あるいはこれがあるとやる気が出ると思えるものを身に着けたりすることです。松本氏が行なっているのは、リビングのソファの左側に座って、お気に入りのお店の豆で挽いたコーヒーを淹れることだそうです。それを口にすると、コーヒーの香りとともに、読む気が高まっていくそうですよ。
読書モードへの切り替えスイッチとして、たとえば松本氏のように、コーヒーや紅茶などの飲み物を用意してみてはどうでしょう。オフィスや自宅でも簡単に実行できるはずです。通勤の行き帰りの電車内などでは、こうした行動を伴う儀式は難しいと思います。そのような場合は、好きな色のアクセサリーを身に着けてみるのもいいかもしれません。
また、場所をあまり選ばず簡単に実行できる儀式としておすすめなのが、深呼吸です。医療法人東海理事長の医学博士・丸山浩然氏によると、腹式呼吸にはセロトニンという脳内物質を分泌させる効果があるそうです。このセロトニンには、やる気や興味を湧かせる作用があります。腹式呼吸は、読書モードへの切り替えにぴったりですよ。
保坂和志氏は「本を解体」してから読む→読書へのハードルが下がる!
本を読まなくてはいけないのだけど、分厚くてハードルが高そう。読む気になれない。というときは、思い切って本を解体してみてはいかがでしょうか?
小説家の保坂和志氏は、本はどういう形でも読むのが大事で、読みやすいように読めればいいという考え方から、ハードカバーの重い本などを読む前に、カバーと本体をナイフで切り離して、本体だけを持ち歩いているそうです。またそれでも重い場合はページも読むぶんだけ切り分けて持つとか。これにより、片手で持って折り曲げられるようになるため、持ち運びも便利になり、どこでも読みたいときに読めるそうです。
速読や記憶術、勉強法に関する著書を多数持つ、トレスペクト研究所代表の宇都出雅巳氏も、同様の方法をすすめています。宇都出氏が以前STUDY HACKERのインタビュー「読書にも勉強にも! “高速大量回転” のやり方とは?——「高速大量回転法」生みの親・宇都出雅巳さん特別インタビュー【第2回】」で語ったところによると、立派な本や分厚い本は、手に取るだけで頑張ってしまい、ウィルパワー(脳の前頭葉にある、思考や感情をコントロールする力)が消費されてしまうそうです。その点、本を解体してしまえば、時間もウィルパワーも無駄にすることなく、読もうと思った瞬間にすっと読み始めることができます。
ハードルの高いビジネス書や専門書に取り組むときに、まずはカバーを外してみてはいかがでしょうか。通勤中が主な読書時間になっている方の場合、持ち運びがネックで必然的に文庫や新書しか選べなくなってしまいがちですよね。ですが、思い切って本を解体するというテクニックを取り入れると、ハードカバーの本も厚い本も、読み進めることができますよ。
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意外と見落としがちな読書前の工夫。一流たちの興味深い読書法を参考に、普段の読書習慣にひとさじ加えて、ぜひより充実した読書を実現してみてくださいね。
(参考)
立花隆(2003),『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』, 文藝春秋.
日刊Sumai|期限がないと片付けは絶対にしない!心理学を応用した片付け習慣・その6
印南敦史(2018),『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』, 講談社.
松本幸夫(2012),『あたりまえだけどなかなかできない 読書習慣のルール』, 明日香出版社.
幻冬舎ゴールドオンライン|「腹式呼吸」が身体におよぼすメリットとは?
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STUDY HACKER|読書にも勉強にも! “高速大量回転” のやり方とは?——「高速大量回転法」生みの親・宇都出雅巳さん特別インタビュー【第2回】
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。