「運動習慣」で年収が左右される科学的根拠。スクワットで成績も5割増しに!?

運動習慣で年収が左右される科学的理由01

失敗の原因ははっきりしていた。 走り込みの不足、走り込みの不足、走り込みの不足。 これに尽きる。

(引用元:村上春樹(2007),『走ることについて語るときに僕の語ること』, 文藝春秋.)

これは、世界的作家・村上春樹氏が「走ること」をテーマにして書いたエッセイ集の言葉です。作家と聞くとインドアな印象を受けてしまいますが、実は村上氏は大のランニング好き。といっても、単に趣味として楽しんでいるだけではありません。運動が頭脳労働に対してどれほど大きなメリットをもたらすかということを、村上氏は折に触れて語っています。

村上氏に限らず、一流の結果を残す人たちは、何らかの運動習慣を持っていることがほとんどです。たとえば、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏は、1日1時間ランニングマシンで走ることを日課にしているそう。また、グーグル本社の敷地内にはスポーツジムが設置されており、社員たちが日々汗を流しています。ビル・ゲイツ氏やグーグルの社員といった「一流の人々」は、運動が仕事によい影響を与えることを知っており、あえて運動を日々のルーティンに取り入れているのです。

トロント大学の研究からも、「運動習慣と年収には相関関係がある」ことがわかっています。運動をする頻度が高い人ほど年収も高い、という統計が出ているのです。年収750万円以上の層と300万円以下の層を比較すると、運動する回数の差はなんと2倍にも及びました

運動には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。3つに分けてご紹介します。漠然と「仕事がデキる人になりたい」「一流に近づきたい」と思っている人にとって、よいヒントになるはずです

運動習慣で年収が左右される科学的理由02

【運動のメリット1】脳を大きくする

近年の研究により、「運動をすると脳が大きくなる」ことが判明しています。

精神科医のアンダース・ハンセン氏が、被験者たちに激しい運動を1年間毎日行なわせたところ、脳の海馬(記憶を司る部位)の体積が、もとの2%ほど増えたことがわかりました。一方で、ほとんど運動しなかったグループの海馬は、1.4%縮んでいたそうです。

従来の常識だと、脳細胞の数は加齢とともに減っていくものと考えられていました。しかし研究が進むにつれ、運動などの外因により脳細胞を増やせることが知られてきたのです。

運動をすると「BDNF」というタンパク質が分泌されます。BDNFは神経細胞の成長因子だといわれており、脳細胞を再生したり細胞間のネットワークを強化したりといった働きを持っています。要するに、運動をすることで出る特殊な栄養分が脳を育ててくれるのです。

記憶や学習の効率も、運動によって向上します。メンタリストのDaiGo氏が紹介する別の実験によると、勉強の前に50回のスクワットをした被験者は、スクワットをしなかった被験者に比べてテストの成績が50%も上昇したそうです。スクワットによって成績が上がったのは、運動により発生した興奮物質「ドーパミン」が脳を活性化したことで、インプットの効率が向上したからだと考えられています。

運動と学習効果の関係を調査した研究は他にも数多く報告されています。運動が脳機能や記憶力を向上させることは、今や定説になりつつあるのです。

運動習慣で年収が左右される科学的理由03

【運動のメリット2】ストレスに強くなる

運動によりストレス耐性がアップすることもわかっています。

スウェーデンのカロリンスカ研究所によれば、運動をすると筋肉中に「PGC-1α1」という特殊なタンパク質が発生します。PGC-1α1はストレスホルモンを無害な物質へ変える働きを持っているのだそう。つまり、「身体を動かすとスッキリする」「汗を流すと気持ちよい」という感覚は気のせいではなく、事実として、運動によりストレスが減ったのです。

PGC-1α1は、筋肉の量に比例して多くなることがわかっています。つまり、継続的に運動をして筋肉量が増えるのにしたがい、ストレスに対する耐性が高まっていくということ。筋肉は、ストレスから身を守ってくれる鎧(よろい)のようなものなのですね。

運動習慣で年収が左右される科学的理由04

【運動のメリット3】成功体験が蓄積され、自信がつく

運動の習慣は、自信を高めてポジティブな気分をもたらしてくれます。人材マッチングサービス「ランサーズ」代表の秋好陽介氏は、筋力トレーニングを数年間継続している経験から以下のように語っています。

やったことに対する効果の確実性が高いところが精神衛生上とてもいいんです。ビジネスの場合は、イケると思った事業がうまくいかなかったり、投資が回収できなかったりと不確定要素が多い。筋トレはやればやるだけ確実に筋肉量が増え、体脂肪率などの数値が変わる。

(引用元:現代ビジネス|一流を目指す経営者は、なぜ筋トレに夢中になるのか ※太字は筆者が施した)

つまり、「運動を継続できている」「運動の効果が現れている」といった日々の達成感が、自信の源になるのです。

心理学には「自己効力感」という概念があります。自己効力感とは、「きっと自分ならできるはずだ」という自信のこと。そして自己効力感は、成功体験を得る、励ましを受けるなどの経験によって増進することがわかっています。産業科医の難波克行氏によると、自己効力感を得るには、簡単に達成できるほどの小さな目標を設定し、成功体験を積み上げていくことが大切なのだそうです。

まずは「腕立て伏せを20回だけやる」など簡単な目標を設定してみましょう。確実に達成できる目標であることが重要です。どんなにささいでも、積み重なれば自信になっていきます。簡単な目標を達成することを何日か続けていると「20回できるなら30回できるはず」「スクワットも加えてみよう」という具合に、自然に運動量が増えていくことでしょう。

運動は、正しくやったぶんだけ体重減少などの効果が現れやすく、不確定要素が少ないため、自己効力感を得るには最適な手段なのです。

運動習慣で年収が左右される科学的理由05

1日たった4分の「タバタ式」トレーニング

「今日から何か運動を始めたい!」という方のために、参考として「タバタ式トレーニング」をご紹介します。立命館大学スポーツ健康科学部の田畑泉教授が発案したものです。

タバタ式トレーニングは「全力の運動(20秒)+休憩(10秒)」を1セットとし、8セット繰り返します。つまり、1日あたりたった4分間でよいのです。時間が短い代わり、運動は「息が切れるほど全力」で。田畑氏によると、短時間で体を限界まで追い込むことで、体内のエネルギー供給システムを効率良く鍛えることができるのだそうです。

以下は「タバタ式」を用いたトレーニングの一例です。

  1. 全力で腕立て伏せ(20秒)→休憩(10秒)
  2. 全力で腹筋運動(20秒)→休憩(10秒)
  3. 全力でスクワット(20秒)→休憩(10秒)
  4. 全力で腿上げ(20秒)→休憩(10秒)

上記の1~4を2周すれば、全部で8セット(4分)になります。お腹を引っ込めたいなら腹筋を多めに、脚をシェイプアップしたいならスクワットを多めに、と鍛えたい部位に合わせてメニューをアレンジしてもよいでしょう。ただし、運動し慣れていないうちは身体を痛めやすいため、全身をまんべんなく使うことをオススメします。

***
以上、運動することの3つのメリットをご紹介しました。

運動というとハードルが高く感じるかもしれませんが、何もボディビルダーのような身体を目指したり、フルマラソンを走れる体力をつけたりする必要はありません。1日にたった数分の運動習慣だけでも、あなたの毎日はガラリと変わりうるのです。

(参考)
村上春樹(2007),『走ることについて語るときに僕の語ること』, 文藝春秋.
AOLニュース|オバマ大統領やビル・ゲイツら、超一流リーダー達の健康キープ法とは?
東洋経済オンライン|仕事がデキる人は走りながら脳を鍛えている
ダイヤモンド・オンライン|「ただの運動」が脳をとんでもなく変える理由
ダイヤモンド・オンライン|頭の働きを良くするには、一にも二にも「運動」だ
Mentalist DaiGo Official Blog |記憶力が1.5倍に上がる筋トレが意外と簡単な件
Cell|Skeletal Muscle PGC-1α1 Modulates Kynurenine Metabolism and Mediates Resilience to Stress-Induced Depression
現代ビジネス|一流を目指す経営者は、なぜ筋トレに夢中になるのか
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コトバンク|自己効力感
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【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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