情報過多社会においてインプットの重要性が叫ばれますが、一方で「インプットした情報は活用しなければ意味がない」とも言われます。では、どうすればインプットした情報を活用できるのでしょうか。
お話を聞いたのは、職業柄、まさに日々大量の情報に触れて活用している作家・ジャーナリストの佐々木俊尚(ささき・としなお)さん。おすすめしてくれたのは、「ふたつの保存」を使い分けるという方法でした。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
スキマ時間を駆使して、まずは読むべき記事をピックアップする
私は、10年以上にわたって毎日1,000本くらいの記事をチェックしています。とはいえ、もちろんすべての記事の本文を読んでいるわけではありません。読むべき記事をピックアップするために、まずは1,000本ほどの記事の見出しに目を通しているのです。
そう言うと、「見出しだけでも、1,000本もチェックするのは難しそう……」と思う人もいるでしょう。でも、私は何も特別に時間を設けてこの作業をしているのではありません。記事の本文をじっくり読むのではなく、あとで読む記事をピックアップするだけ。電車やタクシーでの移動時間といったスキマ時間を使っているだけのことなのです。
多くの人が気づいていないのかもしれませんが、1日24時間のなかには、何もしないままぼーっとしているような時間は意外なほど多いもの。あくまでも私の感覚的なものですが、そういった無駄にしている時間をかき集めると、1日のうち1、2時間には軽く達するのではないでしょうか。それらの時間を有効活用しようと私は意識しているだけなのです。
近年、さまざまなツールの登場や発達によって、社会人ひとり当たりの仕事量が増えているだとか、いまの社会人は以前より時間に追われているといったことが言われます。そう考えると、スキマ時間を徹底的に活用することを考えるべきではないでしょうか。
あるいは、そういった新しいツールをどんどん使っていくことも重要です。ツールの発達によって仕事量が増えて時間がなくなっているのかもしれませんが、見方を変えれば、それらのツールが仕事の時間を短縮してくれるからこそ、そういう状況が起きているということですよね? そうであるなら、積極的に最新のツールを使いこなして生産性を上げ、インプットのための時間を確保することを考えるべきです。
メモアプリを使ってクラウドに保存する
そうして記事を読んだあとは、インプットした情報をしっかり活用するために、私は「ふたつの保存」を使い分けるようにしています。ふたつの保存とは、「パソコン、あるいはクラウドへの保存」、それから「自分の頭のなかへの保存」のことです。
もちろん、すべての記事の内容を暗記することは誰にもできません。ですから、読んだ記事のなかで、「これはおもしろい」「あとから役に立ちそう」と思ったものを、クラウドに保存しているのです。具体的には、「Evernote」や「Google Keep」といったメモアプリに保存します。
そのとき、記事のURLを保存しておく方法もありますが、URLだけでは、あとでメモアプリを見返したときに記事の内容がわかりません。そこで、記事のなかで重要だと感じるハイライトの部分をコピー・ペーストし、URLとあわせて保存するのです。
また、各記事にはテーマ別にタグづけしておくのがいいでしょう。私の場合、異なる複数のテーマの本を同時並行で執筆していることがほとんど。そのテーマごとにタグを分けておけば、あとから目当ての記事を見つけやすくなるわけです。
頭にも保存しなければ、クラウドへの保存を活用できない
でも、クラウドへ保存しただけで満足してしまっては、せっかくインプットした情報も、結局のところ私たちの脳はどんどん忘れていってしまいます。だからこそ、頭への保存も重要なのです。そうしなければ、クラウドに保存した1年後に見返したとき、その記事をどうして保存したのかすら忘れてしまっているでしょう。
もちろん、頭に保存するといっても、記事の一言一句を覚えておくべきだというわけではありません。でも、私が「概念」と呼んでいる「記事の書き手が何を書こうとしたのか」と、「こんなことが書いてあった」ということくらいは、しっかり頭に刻みつけておいてください。
それさえしておけば、まったく別のことを考えているときにもその概念がふっと頭に浮かんできて、いま考えていることと結びつき、新しいヒントをくれたりアイデアを生んでくれたりします。
あるいは、新たな情報に触れたり何かを考えていたりするときに、「これってたしかクラウドに保存したな」と思い出すこともできるはず。そうしてクラウドから元の記事をたどれば、考えをより深められるでしょう。
【佐々木俊尚さん ほかのインタビュー記事はこちら】
大量インプットの意外なコツ。「集中しなくていい」「すぐに役立つか考えなくていい」納得の理由
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【プロフィール】
佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年12月5日生まれ、兵庫県出身。作家・ジャーナリスト。総務省情報通信白書編集委員。エフエム東京放送番組審議会委員。情報ネットワーク法学会員。早稲田大学政治経済学部政治学科中退後、1988年毎日新聞社に入社。脳腫瘍の大手術を受け闘病生活を送ったことをきっかけに、1999年に新聞記者を辞めてIT系出版社に移籍し、テクノロジー分野に取材の軸足を移す。その後、テクノロジーのみならず社会問題などについてもさまざまな執筆を行ない、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルに至るまで縦横無尽に発信。日本のインターネット論壇における最強の論客のひとり。「ノマドワーキング」「キュレーション」などの言葉を日本社会に広めたことでも知られる。2010年代なかば頃から東京・長野・福井の三拠点生活を送り、コロナ以後に注目されてきている移動生活の先駆者でもある。『読む力 最新スキル大全』(東洋経済新報社)、『時間とテクノロジー』(光文社)、『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎)、『多拠点生活のススメ』(幻冬舎)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。