“あの同僚” がサボる理由を「ゲーム理論」で考察してみた。

同僚がサボる理由をゲーム理論で考察01

誰かに手伝ってもらわないと仕事ができない同僚に困った経験はありませんか?

たとえば、翌日に大きなイベントが控えているとき。資料作成やら会場のセッティングやらやることがたくさんあるなかで、自分から「私、会場のセッティングに回りますね」と言える人と、誰かの助けがない限り仕事をしようとしない、いわば「サボる」人

後者のタイプの人がチームにひとりでもいると、ほかのメンバーにしわ寄せが行きます。あなたも、サボる同僚のせいで余計な作業をする羽目になったことがあるかもしれません。

「サボる同僚」の問題を早急に解決したいと思っても、実際にはうまく解決できないことは多々あるでしょう。まじめなタイプの人にとっては、サボりタイプの同僚がそもそもなぜ仕事をサボりたがるのか、理解に苦しむところだと思います。

サボりライプの同僚に困っているなら、意外な方法で解決を図ってみませんか? 意外な方法とはゲーム理論です。

「ゲーム理論」とはなにか

ゲーム理論と聞いて、みなさんはいったいどのような理論を思い浮かべるでしょうか。初めてゲーム理論という言葉を耳にした方なら、もしかするとテレビゲームの必勝法などを思い浮かべたかもしれません。

ゲーム理論とは、「利害関係にある相手がいる場合に、競争相手の行動を踏まえつつ自分自身がどのような行動を取れば最適な結果となるのか、数学的モデルを用いて合理的に決定するための理論のこと。1944年に、数学者のジョン・フォン・ノイマン氏と経済学者のオスカー・モルゲンシュテルン氏によって提唱されました。

ゲーム理論は、ビジネスにおいて状況を分析し、仕事で最適な行動選択をするうえで、大いに役立つものだと言われています。

同僚がサボる理由をゲーム理論で考察02

「囚人のジレンマ」とは

ゲーム理論に関する説明を続けます。ゲーム理論を知らない方でも、「囚人のジレンマ」という言葉ならどこかで聞いたことがあるかもしれませんね。囚人のジレンマも、ゲーム理論で用いられる数学的モデルのひとつ。「個人がそれぞれ好ましいと思う合理的な選択を取ったにもかかわらず、全体の結果は望ましくないものとなってしまう状況」を示すものです。

ゲーム理論を詳しく理解できるように、まずは囚人のジレンマについて、「利得表」を見ながら考えてみましょう。利得表とは、それぞれのプレーヤーが特定の行動を取ったときにどれくらいの利得を得られるのか、具体的な数字をで表したものです。前提として、プレーヤーは利得が大きいほうの行動を選択するとします。

『マンガでわかる ゲーム理論』(2014年、SBクリエイティブ)によると、囚人のジレンマで想定しているのは、次のような状況です。

ふたりの窃盗犯が警察に捕まりました。ところが確実な証拠がなく、ふたりが黙秘を続けているため、このままでは証拠不十分で起訴ができません。できて懲役1年の罪に問えるぐらいでしょう。そこで警察官は容疑者にある取引を持ちかけます。「お前が正直に事件の全貌を自白すれば微罪にしてやる。いや無理矢理仲間に入れられたことにして、無罪にしてやってもいい。だがな、相手が自白をすれば5年はぶち込んでやる。まあその結果、両方とも自白したら共に懲役3年だな」と言うのです。

(引用元:SBクリエイティブOnline|囚人のジレンマってなんだ?——ゲーム理論【2】

上の状況で、囚人2人が取る選択の組み合わせは以下の4つであると推測できるでしょう。

1. 囚人Aも囚人Bも「自白」
→囚人Aと囚人Bは正直に自白したとしてそれぞれ懲役3年
2. 囚人Aも囚人Bも「黙秘」
→囚人Aと囚人Bは証拠不十分によりそれぞれ懲役1年で釈放
3. 囚人Aが囚人Bを裏切って「自白」、囚人Bは「黙秘」
→囚人Aは無罪となり、囚人Bは懲役5年
4. 囚人Aは「黙秘」、囚人Bが囚人Aを裏切って「自白」
→囚人Aが懲役5年となり、囚人Bは無罪

4つの選択の組み合わせを示したのが、下の利得表です。懲役刑は囚人たちにとって嬉しくない結果ですから、「懲役3年」なら「-3」といった具合に、利得表の数字はマイナスで示しています。

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(図表は筆者が作成)

合理的に考えるなら、囚人たちは刑期の短期化を望んでいるはずですよね。自分が相手を裏切って自白すれば、刑期を最も短くすることができるに違いない、と考えるはずです。

しかし囚人の両方が相手を裏切ろう自白した場合、無罪どころか、互いに結託して黙秘を貫く場合よりも悪い結果となってしまい、ジレンマのある結論に至ってしまうのです。

上記の表のようにゲーム理論を使うと、競争相手や自分が置かれている状況をひとつひとつ丁寧に分析できます。ゲーム理論は、自分の駒を優位に進めたいビジネスの世界において特に役に立つ理論なのです。

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ビジネスパーソンが「ゲーム理論」を学ぶべき理由

ゲーム理論の利点は、現状を分析できることだけではありません。MBA教育プログラムで世界的に高い評価を得ているデューク大学教授のデビッド・マクアダムス氏によれば、ゲーム理論を学ぶことで、ビジネス戦術を考えるのに必要な「戦略的思考」を身につけ、洞察力を高めることができるのだそう。

戦略的思考とは何なのでしょう。ゲーム理論のビジネスでの活用法を説く名著『戦略的思考とは何か』(1991年、CCCメディアハウス)は、戦略的思考の定義を次のように述べているそうです。

「戦略的思考とは、相手がこちらを出し抜こうとしているのを承知の上で、さらにその上を行く技(the art of outdoing adversary)である」

(引用元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|ゲーム理論で戦略的行動を読み解き、事業戦略を導くフレームワークを示す)※太字は筆者が施した

『戦略的思考とは何か』の続編では、戦略的思考とは「相手が利他精神でなく利己主義で動いているときでも、協力し合う方法を見い出す技」や「あなたが自分の言葉どおりの行動をとることを相手と自分自身に確信させる技」、「相手の行動を予測し、それを変えさせるために、相手の立場に立ってものを考える技」などとも定義されています。

つまり、ビジネスパーソンがゲーム理論を学ぶ意義とは、競合企業との価格競争に勝つ方法や企業内の効率的な人員配置など、適切な意思決定が必要なあらゆる場面において求められる“ものの見方”を養える、という点にあるのです。

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「ゲーム理論」を仕事に活かす実践例

どうすればゲーム理論を実際の仕事に活かすことができるのでしょうか。ゲーム理論を活用する具体例として、チーム内の「サボる同僚」の問題を考えてみることにしましょう。

普段の仕事ではほかのメンバーに頼りっぱなしで、誰かに手伝ってもらわないと仕事をしない社員Aがいるとします。まじめな社員Bは、社員Aに困り果てている様子。あなたは社員A・Bを抱えるチームのリーダーであるとして、現状をどう打開すればいいかを考えます。

問題を分析するにあたり、社員Aと社員B、それぞれの戦略を考えてみましょう。例えば、以下に示した利得表のように推測できます。社員A・Bについて考えるうえでの「利得」とは「楽に仕事が進捗すること」とします。

同僚がサボる理由をゲーム理論で考察06

(図表は筆者が作成)

1. 社員Aも社員Bも「働く」
→社員Aは、自分の仕事を社員Bに手伝ってもらい、多少楽に仕事が進むため利得3。社員Bは、自分の仕事をすると同時に社員Aの仕事も手伝わなければならず、仕事は進むが楽はできないので利得2。
2. 社員Aも社員Bも「働かない」
→この場合は全体として仕事が進まないことになるため、双方とも利得は0。
3. 社員Aは「働く」、社員Bは「働かない」
→社員Aは、誰にも手伝ってもらえず非常に大変な思いをするため利得は-5。社員Bは、Aが働くぶん楽して仕事の進捗を見届けられるので利得3。
4. 社員Aは「働かない」、社員Bは「働く」
→社員Aは自分の仕事を社員Bへ完全に任せきりにしてサボれるため利得5。社員Bは社員Aのぶんまで頑張らなければならず、仕事は進んでも大変なため利得1。

合理的に考えると、楽に仕事の進捗を得られる行動(利得の大きい戦略)を社員たちは選択するはずです。すると、社員Aは「働かない」、社員Bは「働く」を選択する戦略が合理的となってしまいます。そうなれば、社員Aが仕事をサボるのももっともだと言えるでしょう。

社員Aにまじめに仕事をさせるには、働くことによって社員Aが得られる利得をより大きくする必要があります。社員Aが働かない原因がわかれば、働かない原因を取り除くことで、社員Aの働くインセンティブを高められる可能性がありますよね。

たとえば、Aは「働いても働かなくても評価が変わらないから働かない」のだとしたら、働きぶりによって評価を変動させる制度を取り入れると有効かもしれません。

ゲーム理論を使えば、論理的に状況を分析して課題を解決する突破口が見出せるというわけです。

***
面倒に思えるかもしれませんが、数学的モデルを利用すると状況を多面的に捉えることができるため、問題の解決に近づきやすくなりますよ。みなさんもぜひ一度ゲーム理論を活用して、職場で起こる問題について考えてみてください。

(参考)
ロバート・ギボンズ著, 福岡正夫訳, 須田伸一訳(1995),『経済学のためのゲーム理論入門』, 創文社.
ダイヤモンド・オンライン|諸葛亮も知っていた⁉ゲーム理論がビジネスに効く3つの理由
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|ゲーム理論で戦略的行動を読み解き、事業戦略を導くフレームワークを示す
SBクリエイティブOnline|囚人のジレンマってなんだ?——ゲーム理論【2】
SBクリエイティブOnline|なぜ上司は仕事をサボるのか?——ゲーム理論【3】

【ライタープロフィール】
三島春香
神戸大学経営学部所属。京都市立西京高等学校卒業。海、宇宙、音楽、レモンが好き。旅行も大好き。大学生のうちにいろいろな所へ出かけて見聞を広めたい。

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