近頃、部下や後輩が仕事で成果を挙げられていない。部下・後輩のモチベーションを上げるにはどうしたらよいのだろう……。もしもあなたが、上司や先輩として部下・後輩のモチベーションに悩んでいるなら、「あなたが “ほめ下手” であること」が原因のひとつかもしれません。
PRなどのコンサルティングを手掛ける株式会社グローコムが、会社員およそ1,000人に対して行なったアンケートによると、「上司にほめられるとやる気が出る」人は84.1%。つまり、ビジネスパーソンの大多数は「ほめられたい派」なのです。部下や後輩は、あなたからほめられるのを待っているのかもしれません。
とはいえ、どのようにほめるべきなのか分からない、という方は少なくないはず。今回は、部下・後輩のやる気やパフォーマンスの向上を助ける、上手な「ほめ方」をご紹介します。
「ほめる」ことが相手に与える効果
「人はほめて育てよ」といわれるとおり、ほめることで相手のパフォーマンスが向上することが、自然科学研究機構生理学研究所の定藤規弘教授らが行なった実験により明らかになっています。
定藤教授らの実験では、48人の被験者に、画面に表示される数字に合わせて、手元のキーをピアノの鍵盤のように30秒間連続でたたかせました。1セットごとに30秒間の休憩を挟みながら12セット行なったそうです。さらに、誰かにほめられることがパフォーマンスに影響するのかを分析するため、被験者を以下の3つのグループに分けました。
グループ1「自分が評価者からほめられる」
グループ2「他人が評価者からほめられているのを見る」
グループ3「自分の成績だけをグラフで見る」
そして翌日にも同じ実験を行ない、前日の成績との比較をしたところ、評価者からほめれていたグループ1の被験者の成績が、前日比で20%伸びていたのだそう。一方で、グループ2とグループ3の成績の伸びは14%程度だったとのこと。実験により、ほめられることはパフォーマンスの向上に効果的だと示されたのです。
上の実験を上司・部下(後輩)との関係に置き換えてみると、被験者が部下で評価者が上司になりますね。つまり、上司が部下の仕事を的確にほめれば、部下のパフォーマンスが向上するのです。
部下や後輩に対し、「何となくやる気がなさそうだ」「もっと成果を出してほしい」などと考えているのでしたら、ほめることが効果的に働くかもしれませんよ。
効果的なほめ方:2つの方法
部下や後輩をほめたいと思っても、ほめる習慣がない人にとっては「具体的にどのようにほめればよいのかわからない」と感じることでしょう。部下や後輩のモチベーションやパフォーマンスの向上に役立つ、上手なほめ方を紹介します。
ほめ方【1】相手の「行動直後」にほめる
ノースカロライナ大学のドーソン・ハンコック博士によると、人をほめる際には2つのルールがあるのだそう。1つ目のルールは、「相手が行動した直後にほめる」ことです。ほめることで部下や後輩のモチベーションやパフォーマンスの向上を期待している場合、時間が経った後にほめても、ほめる効果は薄いとされています。
例えば、部下が会議においてプレゼンをしたら、会議の終了直後にほめるようにしましょう。
「さっきのプレゼンの内容は、話がまとまっていてわかりやすかった」
「ハキハキとした話し方が好印象だった」
「質問に対して的確に答えていて、終始落ち着いていたね」
といった具合に声をかけてあげるとよいですね。上で紹介した実験でも、評価者が被験者をほめたタイミングは実験の直後でした。直後にほめた効果は先述の通りです。
ほめ方【2】評価基準をあらかじめ伝える
ハンコック博士による2つ目の「ほめ方」ルールは、「評価する基準をあらかじめ伝えておく」こと。
評価基準とは、あなたが部下・後輩に対して求めていることや、あなた自身が大切にしていることなどです。評価の基準を事前に伝えておき、部下・後輩が評価基準を達成してくれたときは、評価基準に沿ってほめるようにしましょう。
たとえば、あなたが「プレゼンではハキハキと、全体に聞こえるように話すことが大切」と考えている場合、「ハキハキ話そう」とあらかじめ部下に伝えておきます。そして、部下がハキハキとプレゼンできたら、「ハキハキと話せていたね」とほめるのです。
注意すべき点は、評価基準とほめるポイントがズレないようにすることです。あなたが「ハキハキと話すことが大切」と伝えていたのに、プレゼン後に「内容がまとまっていた」とほめては、部下が混乱してしまいます。
もし、部下があなたの評価基準を達成できなかった場合は、「ハキハキとは話せていなかったけれど、内容はまとまっていて分かりやすかった」といった具合に、評価基準に触れつつも、よいと感じた部分はしっかりほめるようにしましょう。
ほめるのが苦手な人向け「ほめ方テクニック」
効果的なほめ方を2つお伝えしましたが、「やっぱり自分には難しい……」と感じた方もいるかもしれません。ほめることに苦手意識がある「ほめ下手」な人でも実践できるテクニックを2つ紹介します。
「ほめ下手」でもできるほめ方【1】具体的じゃなくても、ほめてみる
「何をほめよう」「いつほめよう」と頭で考えているうちに、ほめるタイミングを失ってしまった、という経験はありませんか。色々と考えすぎてほめることができない人は、伝える中身について思いをめぐらせるより、とにかく「ほめる」ことを意識してみてください。
心理学者の内藤誼人氏は、人をほめるのにテクニックは必要はないと語っています。内藤氏によると、テクニックではなく「言うか、言わないか」が重要なのだそう。たとえ抽象的だったとしても、「ほめる言葉」には、声で相手を思いやる「ボーカルグルーミング」と呼ばれる心理効果があります。ボーカルグルーミング効果により、どのようなセリフであれ「ほめること自体が意味を生む」のです。
ほめるのが苦手でなかなか言葉が思い浮かばなくても、「まずは言ってみる」ことを目標にして「いいプレゼンだったね」「すごかったね」などの簡単な言葉をかけてみましょう。素直に「すごいな」とシンプルな言葉でほめることから始めてみればよいのです。
「ほめ下手」でもできるほめ方【2】他の人を介してほめる
面と向かってほめることが難しいという人は、ほかの人に代わりにほめてもらってはどうでしょうか? つまり、あなたがほめたいと考えている部下や後輩がいるとしたら、ほめたい部下・後輩と関係があるほかの人を介してほめるのです。
他者を介してほめる方法は、第三者を介して伝えた情報は信頼性が増すという「ウィンザー効果」を利用した手法です。ウィンザー効果を利用した手法はマーケティングなどでも使われています。「お客様の口コミ」「モニター体験談」などが例です。
たとえば、あなたが以下の2パターンでほめられた場合、どちらの方がより嬉しく、信ぴょう性があると感じますか?
パターンA:
◯◯部長から、「さっきのプレゼンはわかりやすかった」と言われた
パターンB:
同僚から、「◯◯部長が、お前のプレゼンほめていたぞ」と言われた
おそらく、パターンBの方を嬉しいと感じる人が多いのではないでしょうか? あなた自身、人を介してポジティブなことを言われ、嬉しくなった経験があるはず。あなたが嬉しさを感じたのは、利害関係のない第三者から情報が伝わったことで信頼性・信ぴょう性が高まったからなのです。
面と向かって部下をほめることが難しかったり照れ臭かったりする場合は、ほめたい部下の同僚などに「あの人の仕事の出来がとてもよかった」と伝えてみてくださいね。
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冒頭でご紹介したデータにある通り、ビジネスパーソンの多くは「ほめられたい派」です。部下・後輩たちは、上司・先輩からほめてもらって、もっとやる気を出したいと思っているのです。
難しく考える必要はありません。部下や後輩を、ぜひポジティブな言葉でほめてあげてください。やる気や成果が向上するばかりか、上司・部下との関係がよりよいものになるでしょう。
(参考)
アットプレス|日本の職場は「ほめ力不足」 コミュ力改善が「働き方改革」の大きな課題に ~日本人のコミュニケーション力に関する調査結果~
情報・知識&オピニオン imidas|「ほめられると伸びる」は本当だった!
アントレ STYLE MAGAZINE|相手を操る、極上の「褒め方」を心理学者が解説!【独立に役立つ心理学・第18弾】
新R25|“人を褒めるテクニック”を心理学者に聞いたら、「そんなものはない」と一刀両断された
PINTO!|ウィンザー効果で信頼を掴もう
【ライタープロフィール】
森下智彬
大学卒業後、国内外の農業に従事。帰国後はITインフラエンジニアとして都内の企業に勤める。仕事の傍ら、自身のブログを開設・運営を始める。現在は、自身のブログ運営とライターの業務をメインに行っている。