あなたの周りには「驚くほど仕事が早い人」はいますか?
例えば、ほとんど残業をしないのにいつもトップクラスの営業成績をあげる人や、同じ時間の中であなたの倍近くの仕事量をこなしてしまうような人など。仕事の早すぎる彼らを見て、「きっと特別な才能があるんだろう」と諦めてはいないでしょうか。
しかし、「仕事の早い人」とあなたとの差は、ほんのわずかな意識の違いだけなのかもしれません。どの仕事が重要で、どれが重要でないかという「優先順位づけ」を徹底することで、仕事の効率はぐっと跳ね上がるのです。
本記事では、限られた時間の中で最大限の成果を挙げるためのタスク管理術をご紹介します。
「オールA」を狙ってはいけない
日々、私たちはたくさんの業務を抱えています。例えば、取引先へのアポイントや訪問、電話の応対、資料の作成、メールの返信……。大きなものから細かいものまで、業務の種類は多岐にわたります。
しかし、業務の「重み」はそれぞれ異なるもの。例えば、取引先へ大事な商談に向かう場合ならば、何日も前から綿密な用意をしておく必要があるでしょう。しかし、社内会議で使うちょっとした資料を作るだけなら、あまり時間をかけて丁寧に作らなくてもよいはず。すべての業務で「オールA」を取ろうとする必要はないのです。
時間管理のコーチングを提供するリアルライフE社の創設者兼CEO、エリザベス・グレース・サンダーズ氏は、次のように述べています。
一歩先を行く同僚たちは、何が本当に大事かを見極め、そこで力を発揮する半面、その他のことには完璧さを求めない術を体得しているのだ。
おそらく、営業チームでトップの成績を誇る人が書類づくりに割いている時間は、普通の人の半分以下だろう。その点においてはずさんだが、営業成績がずば抜けてよければ誰も気にしない。
(引用元:ハーバード・ビジネス・レビュー|優等生が陥りがちな時間管理の罠:少ない労力で最大の成果を出す法 ※太字は筆者が施した)
例えば営業職のゴールは「ひとつでも多く商品を売ること」、広告ディレクターのゴールは「良い広告を納品すること」です。資料作りやメールの返信といった小さな業務は、あくまでゴールに至るまでの手段に過ぎません。裏を返せば、最終ゴールで成果を出すことさえできれば、重要でない業務は「まずまず」のクオリティでも充分なのです。
「INO」で優先順位をつける
まず、自分のタスクに明確な優先順位をつけましょう。
サンダーズ氏の案に従い、自分のタスクを「投資的な活動(Investment)」「ニュートラルな活動(Neutral)」「調整的な活動(Optimize)」の3つの優先度に分けてみましょう。タスクを優先度別に分けるこの方法は、それぞれの頭文字から「INO法」と呼ばれています。優先度の概要は以下の通りです。
投資的な活動
最も優先度の高いタスクです。多くの時間を費やし、質を高める努力をすることで大きなリターンが期待できるようなタスクが、「投資的な活動」に含まれます。「投資的な活動」に対しては、もちろん最大限の労力を割きましょう。サンダーズ氏は「戦略立案」や「重要な取引先との面会」などを例として挙げています。
ニュートラルな活動
優先度が「中」のタスクです。必要な仕事ではあるが、時間を割いても大きなリターンは期待できないものを指します。例としては、「プロジェクトのミーティングへの出席」「ジムに通うこと」などが挙げられています。
調整的な活動
優先度が最も低いタスクです。「調整的な活動」は、時間をかけてもリターンがないどころか、ほかのタスクの妨げになってしまうような小さい仕事を指します。「事務処理」「雑用」などの作業的なタスクが例として挙がっています。
計画を立てるだけでも、効率がアップする
タスクに優先順位をつけ終えたら、必ず「計画」を立てましょう。ただToDoリストを上から順番に消化するだけでなく、「どのタスクをどの順で」「どのタスクに何時間」など詳細に決めることで、さらなる能率アップが期待できます。
ロンドン・ビジネススクールの組織行動学助教授、マイケル・パーク氏らは、各業界の従業員187人を2週間にわたって調査しました。調査の結果、計画を立てて仕事に取り組んでいた従業員は、計画を立てなかった従業員に比べ生産性が高かったことが判明したのです。
調査の結果をさらに細かく分析し、パーク氏はより安定的な計画の立て方を提案しています。「不測の事態」まであらかじめ考え、計画の中に入れておくというものです。
仕事には不測の事態がつきものです。せっかくスケジュールを立てても、「思わぬ別件が差し込まれてしまって予定をこなせなかった」「お客さんの話が長くて、会社に戻るのが30分遅れてしまった」といったことはしょっちゅう起こりますよね。
しかし、まるきり予測できないトラブルというのは、私たちが想像するより少ないもの。差し込みの仕事が多い職場なら、差し込みに備えた時間をあらかじめ組み込んでおく。外出するなら30分余計に時間を見ておくことにするなど、起こりうる事態をなるべく予測しておくことで、いざ何か起きた際に計画が破綻しづらいのです。
「INO」を活用したスケジューリング
先ほどの優先づけをもとに、スケジュールを立ててみましょう。具体的な方法は以下の3ステップです。
STEP1:週の始め……「投資的な活動」を洗い出す
まずは、最も優先すべき「投資的な活動」を把握します。重要なことから先に済ませるというため、なるべく週の初めのほうから予定を入れましょう。最優先の「投資的な活動」を先に固めることで、必然的に小さなタスクを余った時間でこなすようになります。以下が例です。
月 A社との商談
火 B社との商談準備、C社との面会
水 B社との商談、D社へのプレゼン準備
木
金
上記のように、最も優先度の高い仕事だけをなるべく週の頭から詰めていきます。優先度の高いタスクを入れ終わったら、空いたスペースに優先度の低いタスクを振り分けていきましょう。
STEP2:1日の初め……タスクの時間配分を決める
週の初めに立てたスケジュールをもとに、1日における時間配分を決めます。もちろん、優先度の高いものほど多くの時間をかけるようにしましょう。さらに、ToDoリストの横に優先順位を表すI・N・Oを書き入れておけば、タスクの優先度を見誤ることもありません。
- A社との商談(4時間)……I
- プレゼン準備(3時間)……N
- メール対応(0.5時間)……O
- 予備(0.5時間)
上の例では、優先度の高い順にタスクが並んでおり、優先度の高いタスクほど多くの時間を割り振っています。
STEP3:時間オーバーしたら、優先順位にしたがって調整
タスク消化のため割り振っていた時間をオーバーしてしまった場合は、以下のルールに従って時間を調整してください。
- 「投資的活動」の場合……優先度の低いタスクの時間を削り、仕事を続ける。
- 「ニュートラルな活動」「調整的な活動」の場合……最低限の完成度で切り上げるか、他の人に頼むか、後回しにする。
「投資的活動」だけは一切妥協しない、という原則を徹底しましょう。タスクを続けるべきか迷った際には、「延長によって得られるリターン」を見積もってみてください。つまり、時間を延長した場合と時間通り切り上げた場合を比較し、リターンの大きい選択をするのです。計画にとらわれすぎず、常に結果から逆算して行動を決める習慣を身につけましょう。
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1日の時間は限られており、誰にも平等であるからこそ、時間をうまくやりくりするのは必須のスキルです。「優先順位を決める」「計画を立てる」という基本を徹底し、同僚の一歩先を目指しましょう!
(参考)
ハーバード・ビジネス・レビュー|優等生が陥りがちな時間管理の罠:少ない労力で最大の成果を出す法
ハーバード・ビジネス・レビュー|1日の予定を計画するだけで仕事へのエンゲージメントが高まる
Forbes JAPAN|あなたが時間を無駄にしている原因は? 注意すべき7つの要素
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。