オックスフォード式「思考の3ステップ」。“答えがないこと” はこうして考える

大仲千華さんインタビュー「オックスフォード式思考の3ステップ」01

答えがない時代――。ビジネスや教育などさまざまなシーンで頻繁に見聞きする言葉です。そして、まさに「答えがないこと」を考えることこそ、いまのビジネスパーソンに求められていることだと主張するのは、明治学院大学で講師を務める大仲千華(おおなか・ちか)さん

名門オックスフォード大学で学び、国連職員として世界各地で活躍してきた大仲さんが、「答えがないこと」を考えるべき理由とともに、そうする方法を教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 大仲さん写真/石塚雅人

「答えがないこと」を考える必要性が高まっている時代

この時代に社会人であられるみなさんにまずお伝えしたいのは、答えがないことについて考える訓練をすべきということです。なぜなら、社会人にとっては、あらゆることに関して「答えがあること」のほうが珍しいからです。

私たちがかつて学校で習ってきたことは、「答えがあること」がほとんどでした。子どもたちは問題に対して適切な決まった答えを導き出すことが求められます。もちろん、社会に出てからも新入社員の場合などは、先輩からの指導や新人研修を受けるなどして、ある程度「答えがあること」を学んでいく時期もあります。とはいえ、それ以降の社会人にとっては、「こうすれば必ず成果を挙げられる」といった「答えがあること」はほとんどなく、それこそ「答えがないこと」について考えて実行に移し、かつ成果を挙げることが求められます。

その傾向は、いまの世の中ではさらに強まっているように思います。コロナ禍によって、私たちが生きる世界はほんの1年前と比べても大きく変わりました。こんな世界になることを誰が予測できたでしょうか?

程度の違いこそあれ、ほとんどすべての人が仕事に対するアプローチを変える必要に迫られたことと思います。これまで誰も経験したことのない事態に対応しながら仕事を進めること、あるいは新たな仕事を生み出すことが求められています。それらのすべては、「答え(正解)がないこと」、その時々の状況によって「最適な答えが変わっていくこと」です。

これまでも、私たちは仕事(職務・役目)を通じて無意識のうちにも「答えがないこと」を考えてきました。でも、このコロナ禍のなかでは、「答えがないこと」を考える必要性がより高まっているのです。

大仲千華さんインタビュー「オックスフォード式思考の3ステップ」02

課題を把握し、事実を明らかにし、よりよい結論を導く

では、どうすれば「答えがないこと」を考えることができるのでしょう? そのためのヒントとして、私がオックスフォード大学で学んだ方法をお伝えします。私はこれを、「オックスフォード式思考の3ステップ」と呼んでいます。

オックスフォード式思考の3ステップ

  1. なにが課題(目標)なのか?
  2. これまでになにが明らかになっているのか?
  3. どのような選択肢・対策がよいのか?

これは、オックスフォード大学とケンブリッジ大学で行なわれている「チュートリアル」と呼ばれる対話スタイルの学習法から学んだ思考法です。

日本の大学で一般的に行なわれるのは、教員が多数の学生に対して知識を伝授する講義というスタイルの学習法です。でも、チュートリアルは講義とはまったく違ったもので、教員と学生が1対1、あるいは学生が複数だとしても2人や3人、4人くらいまでの少人数で行ないます。そして、教員は学生にあるテーマを与え、それに対して自分なりの結論を導くことを求めます。学生の目的は、対話形式で教員からの問いかけを受けることによって、わかっていないところを明らかにしながら、理解を深め、自分なりの考えを導き出すことです。

そこでまず必要となるのが、1. なにが課題(目標)なのか?と考えることです。当たり前のことですが、課題を明確に把握しないことには自分なりの結論を導くことなどできません。私たちの思考の質は、なにを課題ととらえるかで変わります。「課題はこれだ」と決めつけずに、課題はこれだけなのか、本当の課題はなんなのか、とあらためて考えるのがこのステップです。

続いて2. これまでになにが明らかになっているのか?に進みます。チュートリアルでは毎週新しく与えられる課題に関して20〜50冊ほどの文献を読み、なにがわかっていて、なにが問題なのかを整理します。どんな課題であっても、まったくのゼロベースから始めるものはそうありません。仮にそう見えたとしても、なんらかの類似ケース(先行事例)が必ずあるものです。地味な作業ですが、誰かが何(十)年かけてたどり着いた結論を理解できたら、新しく取り組む側は、何十(百)時間もの時間を節約できるのです。

それらの材料をもとにして3. どのような選択肢・対策がよいのか?と考え、ようやく与えられたテーマに対して自分なりの結論を導くことができます。

チュートリアルで面白いのは、その学生の結論に対して教員が模範解答を配ることも「正解」を示すこともないということ。そもそも与えられるテーマは、それこそ「答えがないこと」だからです。正解を示す代わりに、教員は「どうしてあなたはそう考えるのか」というふうにただひたすらに「思考の過程」を問います。根拠と前提を確認しながら、ひとりよがりにならずに、よい発想と説得力をあわせもった結論をもてるようになるためです。

これを週に1回のペースで行ないます。こうして、「答えがないこと」——つまり、初めての状況や新しい課題に対しても自分の頭で考え、ひとつひとつ分解し、整理しながら、最後まで自分で答えを導き出すトレーニングを積んでいきます。

大仲千華さんインタビュー「オックスフォード式思考の3ステップ」03

重要となるのは、「小課題」を徹底的に洗い出すこと

この思考の3ステップをより理解しやすいように、具体例を示してみましょう。私は大学で講義を担当していますが、ご存じのとおり、コロナ禍によって大学の授業はほとんどすべてがオンラインに切り替わりました。そこで、大きな課題に直面します。その課題とは、「オンライン授業で学びの質を確保する、できるならよりよい学びにするにはどうすればいいか」ということ。思考の3ステップの「1. なにが課題(目標)なのか?」が明らかになりました。

続いて、「2. これまでになにが明らかになっているのか?」に進みました。そのときにやるべきことは、ステップ1で見えた課題を「小課題」に細分化すること。この場合なら、「オンラインのよい面はなにか」「オンラインでできないことはなにか」「オンラインでできないことを補うにはどういう方策があるか」「オンラインでも学生の意欲を保つにはどうすればいいか」……というふうに、小課題としてありとあらゆる「質問」を洗い出します。

こうして小課題がはっきりすれば、それに対する現時点での最善の答え(対策)を、類似ケースを参考にしながら考えます。それらの材料から「3. どのような選択肢・対策がよいのか?」に対する結論を導きます。このケースでは、「双方向性を意識して、学生自身が参加する演習を多く取り入れること」をひとつの結論としました。以前と同じ講義をオンラインで行なうと、どうしても学生の意欲や集中力はそがれてしまいます。そうさせないため、学生が参加するスタイルが大切だと、この思考の3ステップによってより明確に理解できたからです。

この思考の3ステップを使う際には、「2. これまでになにが明らかになっているのか?」において小課題(質問)を徹底的に洗い出すことがなにより重要と認識してほしいと思います。「1. なにが課題(目標)なのか?」については、私のケースもそうでしたが、ある問題に直面することでおのずと見えてくることがほとんどでしょう。そして、ほぼ自動的になんらかの結論を出しているときもあると思います。または、答えがない状態が心地悪いために急いで結論を出してしまいたいと感じるときもあるかもしれません。

ただ、いつもと違う発想やよりよい結論を導くには、意識していろいろな切り口や選択肢を広めに検討することが大切です。そのために、小課題を徹底的に洗い出すことを意識してみてください。課題という言葉にとらわれず、質問形式で気になることをどんどん書き出していけばいいと思います。質問の質が上がることで思考の質も上がりますから、すぐに答えを出そうとするよりも、よい質問を問い続けるという習慣をもてるといいと思います。

大仲千華さんインタビュー「オックスフォード式思考の3ステップ」04

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【プロフィール】
大仲千華(おおなか・ちか)
国連の行政官(社会統合支援担当)として国連ニューヨーク本部、南スーダン等で和平合意の履行支援、元兵士の社会統合支援に約10年従事。80人強の多国籍チームのリーダーを務める。閣僚経験者も任命される政府要員向け国連PKO国際研修の教官。日本国・内閣府「平和維持・平和構築に関する研究会」委員。コーチングのプロとして自分の軸で生きる大切さを伝え、大学での講義を通じて次世代の育成にも注力している。オックスフォード大学修士課程修了。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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