会話の中で、相手に「いや、そうではなくて」「でも、私は違うと思うな」などと否定されてばかりいると、嫌な気持ちになりますよね。なにかと否定してくる人というのは、少なからずいるものです。
では逆に、あなたにはそんな否定癖はないでしょうか。じつはこれ、いつの間にか癖になっていたり、無自覚だったりする場合が多いのです。あなたも、自分自身の言動をチェックしたほうがいいかもしれませんよ。
そこでこの記事では、なぜ否定することが癖になってしまうのか、そして、「何でも否定する人」と思われないように否定癖を改善するにはどうすれば良いのかについて、解説していきます。
なぜ否定したがる? その心理的背景
否定癖がついている人は、条件反射のように「いや」「でも」と言い、相手の意見や価値観を否定してしまいます。それはなぜなのでしょう。心理学者の内藤誼人氏は、それは「フラジャイル・ナルシズム」のせいだと話しています。
フラジャイル・ナルシズムとは「壊れやすい自己愛」のこと。この精神を持っている人は、表向きは自分に自信があるように見せかけているのですが、心の中は不安に支配されています。そんな “実際には自信を持ちきれていない人” が相手の上に立とうとすると、過剰に相手を否定して従わせようとするのだそうです。相手にケチをつけるのは、自分に自信が持てない弱さゆえなのだと内藤氏は言います。
たとえば、フラジャイル・ナルシズムの強いAが、同僚Bと雑談をしていたとします。BがAに「この前部長に仕事をほめられたよ!」と言っても、Aは「いや、あの人は誰でもほめるから」などと、持ち前の否定癖を発揮してしまうでしょう。これは、「部長の自分に対する評価は、Bよりも低いのではないか」という自信のなさからくるもの。Aはその不安を、Bを否定することによりカバーしようとしているのです。
「なんでも否定する人」は周囲から疎まれる
コミュニケーションのプロたちは、「否定は厄介な癖だ」と断言しています。前出の内藤氏いわく、「頭ごなしの否定は、体に染みついた癖になっている人がとても多い」とのこと。これにはフリーアナウンサーの魚住りえ氏も同意見で、「自分で気をつけて直す努力をしたほうがよい」と警鐘を鳴らしています。
魚住氏は、そんな否定癖のある人は「嫌われる」と言い切ります。会話の中で「いや」「でも」と頻繁に言ってしまうと、本人に否定しているつもりはなくても、相手をだんだんと不愉快な気分にさせてしまうとのこと。
また、否定的な表現は、相手に高圧的で上から目線な印象を与えてしまいます。これは伝える力【話す・書く】研究所所長の山口拓朗氏が述べていること。相手の間違いを指摘したり、自分との価値観の違いを伝えたりする場合でも、否定表現に寄りすぎることはよくないのです。
さらに悪いことに、否定は相手に怒りを覚えさせてしまう場合もあります。心理カウンセラーで作家の五百田達成氏いわく、特に問題なのは「代案のない否定」。
たとえば、上司が部下から「私が作成した資料、どうでしょうか?」と言われて、上司が「いや、これは全然だめだよ」とだけ返したとします。これでは、部下は資料をどう修正すればいいのかわからず、前向きに改善する気になれないどころか、上司に対し反発心を抱いてしまうかもしれません。望ましいのは、「内容はいいんだけど、文字数が多くて読みづらいから減らしてみてくれる?」などと “代案” を伝えることなのです。
普段から周囲の人を否定ばかりしていたら「厄介な人だ」と思われる――そのことがおわかりいただけたのではないでしょうか。
否定癖を改善する2つの方法
では、否定癖を直してコミュニケーションを改善するための方法について解説していきます。これまでは自覚がなかった人も、過去の自らの会話を振り返って否定が多いと感じたら、ぜひ下記の方法を実践してみてください。
【1】タイムアウトを設ける
前出の内藤氏が提唱しているのが、「タイムアウト」を設けるという方法です。否定癖のある人は、相手の言葉を即座に否定してしまうことが多いもの。そこで、相手から何かを尋ねられたり提示されたりしたときに、その場で即答せず、一度考えるための時間をとるのです。相手の発言に違和感や嫌悪感を感じたら、すぐさま反論や否定をするのではなく、会話を終えて時間をあけたあとに改めて意見を述べるとよいのだとか。
たとえば、同僚から「このプロジェクトはこういう方針でいこうよ」と言われたとき。つい「いや、それはだめだよ……」と否定したくなったり、その方針が自分の考えと違っていたりしたら、「ごめん。今忙しいからあとで……!」と言い、一度その場を離れましょう。そして、トイレでも空いている会議室でも、一度冷静に考えられる場所で返答を練るのです。こうして落ち着いてじっくり考えれば、相手を否定することなく、適切な返事ができるはず。
「自分の考え方は間違っているのかも」という自信のなさを、“即座に否定する” ことでカバーしようとしても、いいことはありません。反射的に返事をしがちな人は、会話の中でいつでもタイムアウトを取れるよう、心がけておきましょう。
【2】否定表現を肯定表現に変える
あなたに否定癖があるのは、もしかしたら否定すべきことが多いからではなくて、「否定表現」ばかりを使っているからかもしれません。前出の山口氏いわく、否定表現を肯定表現に変えるだけで、相手に与える印象はぐっとポジティブになるとのこと。特に、肯定表現を使うと、相手にしてほしい行動が伝わりやすくなるそうです。
たとえば、同僚から「明日の会議は1時間くらいでいいですよね?」と言われたものの、あなたは「1時間ではとても足りない」と思っているとしましょう。そのときの返事を否定表現にするか肯定表現にするかで、次のような違いが生まれます。
■否定表現の場合
「いや、でも1時間では話し合いが終わりませんよ」
→相手に「じゃあ何時間会議すればいいんだよ」と反感を抱かせてしまう。
■肯定表現の場合
「1時間となると、ここまで話せますかね」
→相手に「1時間では足りない」と気づかせることができる。「すべて話し合うにはどのくらい必要ですかね?」と歩み寄ってもらえる。
このようにして否定的な表現を避けるようにすれば、否定癖は改善できるでしょう。
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「会話にはテンポがあるのだから、発する言葉をそう簡単にはコントロールできない」「自分の言葉に気ばかり遣っていたら疲れそうだ」と思う人もいるかもしれません。ですが、今回解説した改善策はいずれもシンプルなもの。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。否定癖の自覚がある人もない人も、一度自らの会話の仕方を見直して、不必要に否定的な発言をしないように工夫しましょう。
(参考)
プレジデントオンライン|必ず否定から入る人は自信がなくて不安症
東洋経済オンライン|「嫌われる人の話し方」よくある10の共通点
ウートピ|“ダメ出しモンスター”に「どうすればいいんですか?」と言ってはいけない理由
リクナビNEXTジャーナル|【否定表現 vs 肯定表現】どっちが仕事で成果を出しやすいのか?
【ライタープロフィール】
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。