「いったい何が言いたいの?」
「もう少し、わかりやすく説明して」
「結論は?」
仕事のことで上司に説明をしているとき、上司からこうしたことを言われた経験はないでしょうか?
自分自身はきちんと「報・連・相」を意識しているつもりなのに、言いたいことが思うように相手に伝わらない……といったことは、よくあるもの。
そんなあなたの悩みを解消するために、「ソラ・アメ・カサ」という新しい情報伝達方法についてご紹介します。
「報・連・相」の意味を改めて確認
ビジネスパーソンにとって、報連相はもはや当たり前すぎるビジネスマナー。その意味が「報=報告」「連=連絡」「相=相談」であることは周知のことだと思います。新入社員時代に研修で学んだ人も多いことでしょう。
そんな社会人の常識のひとつである報連相の役割は、単に情報を伝達することだけではありません。松下幸之助氏の元側近で実業家の江口克彦氏によると、報連相には「組織の上下をつなぐ重要な役割がある」のだそう。
たとえばあなたが、「上司が自分の働きをわかってくれない」と上司に対して不満があるとしましょう。しかしそもそも、上司が全ての部下の状況を逐一把握するのは無理な話。そんなときこそ報連相の出番です。江口氏いわく、「報連相は上司へのアピールのチャンス」。自分の仕事の内容を上司に端的にわかりやすく報告したり相談したりすれば、上司はあなたの仕事が今どういった状況なのかを理解することができるからです。
報告・連絡・相談は、さまざまな人たちとコミュニケーションをしっかりと取るためだけでなく、部下と上司との関係をスムーズにつなぐためにも、とても大切なことなのです。
「報・連・相」のしすぎは時代遅れかも
とはいえ、報連相のルールを忠実に守っていさえすればよいというわけでもありません。「仕事の効率化」が叫ばれる現代において、ひとつひとつの仕事内容を細かく報告することはとても非効率だと言わざるを得ないからです。
たとえば、営業の仕事をしている人が「◯◯会社にパンフレットを置いてきました。訪問時、おいしいお茶を頂きました。そのあと、歩いて数分のところにある××会社にもパンフレットを置きました。担当のAさんとは~~な話をして……」というように、細かいことを上司にいちいち報告する必要はありませんよね。上司が求めているのは、あなたの仕事の成果内容や、目標までの進捗状況、問題などに関する情報であるはずです。
不登校やニートなど困難を抱える子ども・若者を支援する一般社団法人officeドーナツトーク代表の田中俊英氏は、「報連相や確認作業こそが我々の労働時間を長くする」と結論づけています。
ミスがないように慎重に仕事を進行しようと思うと、徹底的に報連相をしたくなってしまいますよね。それが日本人の性格というものだと、田中氏も言っています。
しかし、自ら法人を運営している同氏いわく、それほどまでに執拗に報連相をしなくても、仕事はある程度ちゃんと進むものなのだそう。必要以上の報連相は不要なのです。たとえば、慣習としてやっているだけの朝礼や会議などは、時間を浪費するだけのもの。ただダラダラと時間をかけながら各人が報連相をしているだけの会議は、無意味としか言えません。
あなたにも、間違えたり誤解を上司に与えたりしないように、上司への報告内容の準備のために不必要なほど多くの時間を割いてしまった経験がありませんか? 挙句に、準備に時間をかけたせいで「報告が遅い」などと元も子もないことを言われてしまったことがないでしょうか。
効率よく仕事をしたいなら、長時間労働の一因となり得る報連相は見直す必要があると言えるでしょう。そこでみなさんに取り入れてほしいのが、「ソラ・アメ・カサ」という新しい情報伝達方法です。
新たな情報伝達手法「ソラ・アメ・カサ」とは
「ソラ・アメ・カサ」とは、マッキンゼーの日本支社がつくりあげた情報伝達方法のひとつです。人事・戦略コンサルタントの松本利明氏は、それぞれの意味を以下のように説明しています。
- ソラ「空を見ると曇ってきた(事実)」
- アメ「雨が降りそうだ(解釈)」
- カサ「傘を持っていこう(判断)
(引用元:ITmediaエグゼクティブ|マッキンゼー式「ソラ・アメ・カサ」は報連相を超える)
このやり方では、事実をベースにして今後の方針を考えていきます。「ソラ・アメ・カサ」は、「実際に起きている問題を整理したうえで、今後どうすべきかの判断を相手に伝える」のに適したフレームワークでもあるのです。
ここで、「報・連・相」と「ソラ・アメ・カサ」の違いを「顧客から10件のクレームが入っていることを上司に伝える」という例を使いながらご紹介しましょう。
A:「報・連・相」の場合
「お客様からのクレーム状況についての調査が完了しました(報告)」
「先月、お客様から10件のクレームがありました(連絡)」
「2ヶ月前と比較して、クレーム件数が倍増しているようですが、どうしましょうか?(相談)」
B:「ソラ・アメ・カサ」の場合
「先月のクレーム件数を確認したところ、お客様から10件のクレームがありました(ソラ:事実)」
「この数字は、 2ヶ月前と比較すると倍の件数となっています。おそらく、先月新商品を発売したことが原因だと考えられ、今月も増加か横ばいになると予想されます(アメ:解釈)」
「一度、クレーム内容を精査し、先月の新商品の問題点を探りたいと考えていますがいかがでしょうか?(カサ:判断)」
Aの例では、伝えている内容の中に自分自身の考え(解釈・判断)が含まれていません。そのため、「結局何が言いたいの?」「で、どうしてほしいの?」と上司に突っ込まれてしまう恐れがあります。
Bの例では、事実と解釈から導き出された判断を上司に伝えています。上司はこれを聞けば、「現状」「部下の考え」「自分(上司)が求められていること」を段階を踏んで理解することができるようになっています。
伝わりやすさの違いは、一目瞭然ではないでしょうか。
「ソラ・アメ・カサ」を実践するときの注意点
「ソラ・アメ・カサ」は、情報を整理してシンプルに伝えたいときだけでなく、相手を説得したいときにも有効な方法です。なぜなら、「ソラ・アメ・カサ」では意思決定に必要な要素をまんべんなく伝えることができるから。実際、ソフトバンクの孫正義氏や元マッキンゼーの大前研一氏などの経営人の多くが、重要な意思決定は「事実」「解釈」「判断」をもとにして行なうと語っているそう。
説得の際に「ソラ・アメ・カサ」を活用するコツは、結論となる「カサ」を話の冒頭に持ってきて、「カサ・ソラ・アメ・カサ」の順番で話すことです。最初に結論を言わずに「ソラ」から話し始めると、相手に、話がダラダラと長い印象を抱かせてしまう恐れがあります。相手が気の短い上司だったら「それで何が言いたいの?」と言われてしまいかねません。
先ほどの例の続きで、「ぜひともクレーム内容を精査し、先月の新商品の問題点を探る機会を設けたい」という話で上司を説得するなら、次のように話すと良いでしょう。
カサ(判断)
「クレーム内容を精査して、先月発売した商品の問題点を洗い出したいと考えています」
ソラ(事実)
「なぜなら、先月のお客様からのクレームが10件と(商品発売前の)2ヶ月前のクレーム件数比で倍になっているためです」
アメ(解釈)
「私は今回のクレーム増加の原因を、新商品にあると考えています。そして、購入されるお客様の増加に伴って、この先もクレーム件数は増えると見ています」
カサ(判断)
「そのため、今回のクレーム増加の原因として考えられる新商品の問題点を洗い出し、改善を実施して、クレーム増加を食い止めたいと考えています」
相手に何かを伝える際には、最終的にあなたが行ないたいことや、相手に知ってほしいこと、相手に行なってほしいことは何なのかを、わかりやすく伝えることが大切です。
「結局何が言いたいの?」と言われないために、「事実」「解釈」「判断」を総合的に伝えるように意識してみましょう。
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報連相はビジネスパーソンの常識ではありますが、それだけに固執していてはいけません。効率的な情報伝達の手段として「ソラ・アメ・カサ」も積極的に活用してみましょう。
(参考)
Wikipedia|報・連・相
東洋経済オンライン|これからは「報・連・相」より「確・連・報」が効く
ASCII.jp|あなたの「ほうれんそう」は間違っている
ITmediaエグゼクティブ|マッキンゼー式「ソラ・アメ・カサ」は報連相を超える
ダイヤモンド・オンライン|報連相ではなく、「ソラ・アメ・カサ」で確認する
Yahoo!ニュース|ホウレンソウするから仕事が長くなる
【ライタープロフィール】
森下智彬
大学卒業後、国内外の農業に従事。帰国後はITインフラエンジニアとして都内の企業に勤める。仕事の傍ら、自身のブログを開設・運営を始める。現在は、自身のブログ運営とライターの業務をメインに行っている。