「決断力がない人」のほうが成功するかもしれない理由。判断力を上げるには “あの音楽” を聴くべき

優柔不断のメリット01

最近、著名な起業家の決断力の高さが注目されたり、決断力を高める方法を記した本が数多く出版されたりしているため、即断即決できる人のほうがビジネスパーソンとして成功するというイメージを持っている人が多いかもしれません。「決断力がない人は、時間を無駄にしている」という言葉も聞きますが、本当にそうなのでしょうか?

「自分は決断力がなくて優柔不断だ」「決断力がない自分は、ビジネスパーソンとして劣っている」などと考え、自信を失くしている人に朗報です。スピーディーに決断を下す人よりも、じっくり考える人のほうが長い目で見ると成功するという研究結果が出ています。

今回は、「決断力のなさ」がじつはビジネスシーンで活かされる理由と、決断のスピードよりも重要な「正しい判断をする力の養い方」について説明しましょう。

反射のXシステムと、熟考のCシステム

人は、なんらかの意思決定をする際、主に脳のふたつのシステムを使っています。ひとつは瞬発力のある「Xシステム」で、もうひとつは慎重な「Cシステム」です。

Xシステムの語源は、REFLEX(反射)からきており、語源の通り、物事をすばやく判断します。スピード感があるのが特徴ですが、深い思慮や緻密な計算が欠けているため、判断を下したあとから問題が生じてしまう可能性が高くなります。

Cシステムの語源は、CALCULATE(計算)。こちらは判断のスピードは遅いですが、慎重に考え、合理的に判断することが可能なシステムです。

Xシステムが働くのは脳の「大脳辺縁系」という部分で、快感や喜び、不安、恐怖などの情動を司る器官。Xシステムが働いている人は、即断即決が得意で、一見かっこよくてリーダーシップがあるように見えますが、長い目で見ると不利益が生じる決断をしてしまいがち。たとえば、職場で嫌なことがあり、感情的になってしまい翌日には辞表を出したけれど、いざ転職しようとすると、その職場よりも良い条件のところが見つからない……なんてことも。一方、Cシステムが働いていれば、「じっくり考えれば解決できるだろうし、きっと今はつらいけれど成長につながるだろう」と慎重な判断ができます。

Cシステムが働く人ほど、長い目で見て成功しやすいという実験結果もあります。スタンフォード大学が、4歳の子どもたち168人を対象に行なった「マシュマロ・テスト」です。子どもをひとりずつ部屋に呼び、皿に置かれたひとつのマシュマロを見せ、「今から私は用事があってこの部屋を出ますが、15分後に戻ります。それまでにこのマシュマロを食べなければ、もうひとつあげる。食べてしまったら、もうあげられないよ」と伝えます。その結果、3分の1の子どもは我慢することができ、3分の2はマシュマロを食べてしまいました。

そして41年後、彼らが45歳になったときに調査を行なったところ、「マシュマロを我慢できた子どもたち」のほうが明らかにSES(Socioeconomic Status=社会経済的地位)が高かった、つまり成功していたそう。Cシステムを働かせ、情動にブレーキをかけて長期的に物事を判断できる人のほうが、長い目で見て成功できるのです。

優柔不断のメリット02

即決するよりも一晩おいたほうが、正しい判断ができる

長期的に見れば、反射的に物事を決めるよりも、熟考したほうが良い結果をもたらすことをお伝えしましたが、これは日々のビジネスシーンにおいても言えることです。

Cシステムがうまく働かなくなってしまう要因に、アルコール焦り睡眠不足などが挙げられます。

アルコールによって判断力が鈍るのは、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。ダイエット中で食事に気をつけているのに、つい飲み会のあとラーメンを食べてしまった……などというのは、まさにCシステムが働かなくなっている状態です。そう考えると、取引先との会食で、アルコールが入った状態で大事な決断をするのは避けたいところですね。「明日、改めてメールでご連絡します」など、即決を避けるための言葉を用意しておくのがよいでしょう。

焦りも、Cシステムを阻害する要因になります。「今すぐ答えをください」などとクライアントから言われた場合、熟考する暇がなく、Xシステムの情動で決めることになってしまいます。そうすると、前述したように長期的に見て不利益が生じる決断をしてしまう可能性があるのです。「御社は重要なお客様なので、じっくり考えたいです」など、相手を大切に考えていることを伝えたうえで、延期をお願いするのが賢明でしょう。

睡眠不足も、脳の判断力を鈍らせる要因になります。ハーバード大学の医学教授であるチャールズ・チェイラー氏によると、24時間睡眠をとらない場合、もしくは、睡眠時間を5時間以内に抑えた日が1週間以上続いた場合、人の脳は、お酒を飲んだほろ酔いの人に近い状態になるのだとか。判断力が低下してしまうのは、言うまでもありません。さらに、私たちの脳は、寝ている間に記憶を整理し、重要な情報を選び取り、不要な情報を捨てているのだとか。だからこそ「即決せずに、一晩寝て考える」ことが重要になってきます。

優柔不断のメリット03

よい判断をする力は、どのように養える?

脳のOFC(Orbitofrontal cortex=眼窩前頭皮質)という領域は、価値を見極め、より良い選択をしようとする際に働きます。これを明らかにしたのが、筑波大学の設楽宗孝教授・瀬戸川剛助教授らの研究グループ。人間に近縁なアカゲザルが課題を遂行しているときに、神経細胞活動を記録したところ、OFCがあまり働いていないときに、「価値が低いほうの選択肢」を選んでしまう頻度が有意に上昇したそうです。これにより、OFCが価値の比較を行なっているという可能性が示唆されました。

私たちビジネスパーソンも、より価値の高い選択ができる状態でありたいですよね。では、OFCを鍛え、よりよい選択をする力を養うにはどうすればいいのでしょうか。OFCを鍛える方法をふたつご紹介しましょう。

まずひとつめは、オンオフの切り替え能力を高めることです。脳科学者の茂木健一郎氏によれば、オンとオフを切り替える脳の領域は、OFCとDLPFC(Dorsolateral prefrontal cortex=背外側前頭前皮質)なのだとか。茂木氏によると、オンオフを切り替える能力は生まれつきのものではなく、筋トレのように練習を繰り返すことでOFCやDLPFCの回路が鍛えられていくそう。

たとえば、「ポモドーロ・テクニック」を使ってトレーニングするのはどうでしょう。ポモドーロ・テクニックは、仕事や勉強、家事などのタスクを25分間続けたあとに5分の休憩を取り、そのサイクルを最大4回続けるという時間管理術です。タイマーを利用して、アラームが鳴ったらタスクの途中でも強制的に切り替えて休憩し、またタイマーが鳴ったらすぐにタスクに取りかかる、ということを繰り返し、オンオフの切り替え能力を鍛えます。

ふたつめは、クラシック音楽を聴くことです。クラシック音楽を聴くと、OFCが活性化するのだとか。それを証明するのが、群馬県立県民健康科学大学大学院の新井氏らによる実験です。被験者の大学生たちを対象に、ポップスとクラシックの音楽それぞれを聴きながら、性格検査・職業適性検査の一種である内田クレペリン検査を行ない、脳のどの部分が活性化しているかを検証しました。その結果、クラシックを聴いた際にOFCが活性化することが判明したそう。ポモドーロ・テクニックとあわせて実践し、よりよい選択をする能力を高めたいですね。

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決断力の高い人は、一見かっこよくてリーダーシップがあるように思えますが、じつは優柔不断の人も十分に成功する力を秘めているのです。時間をかけて迷ってしまう自分を責める必要はありません。決断の早さよりも、少し時間がかかってでも長期的に見たらいい結果を生み出せる判断をするほうが、ビジネスパーソンとして有能なのではないでしょうか? 

今後は、ぜひ「よりよい選択」ができる人を目指してはいかがでしょう。

(参考)
中野信子(2015),『あなたの脳のしつけ方』, 青春出版社.
茂木健一郎(2017),『脳が最高に冴える快眠法』, 河出文庫.
PsychCentral|While You Sleep, Your Brain Keeps Working
Newsweek|ポモドーロ・テクニック:世界が実践する時間管理術はこうして生まれた
大学ジャーナルオンライン|どちらの選択肢の価値が高いか?比較をしている脳部位を解明 筑波大学
プレジデントオンライン|「もたもた」「グズグズ」脳は訓練で変えられるか
新井良彦, 柏倉健一(2012),「BGM聴取時の作業効率に関する脳部位の検討」, 群馬県立県民健康科学大学紀要, Vol.7, pp.45-53.

【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。

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