「好かれたい」と願う人ほど悩みは深い。損ばかり招く “厄介な思考” は、こうすれば変えられる!

嫌われたくないという考え方の転換法01

職場では、仕事の能力が重要なのは言うまでもありませんが、それと同じかそれ以上に大切なのが、他人との関わり方です。特に、察しと思いやりを重んじ、同調圧力も強い日本の組織においては、「他人から嫌われたくない」「疎外されたくない」という気持ちを強く持ってしまっている人も多いことでしょう。

ですが、「嫌われたくない」という一心で行動すると、人は損ばかりしてしまいます。なぜ、「嫌われたくない」という考え方をしていてはダメなのでしょうか。そして、「嫌われたくない」という考え方をどのように転換すればよいのでしょう。この記事で詳しく解説していきます。

「嫌われたくない」がダメな理由1:仕事を抱え込んでしまうから

他人に「嫌われたくない」と弱腰な人は、自らが大量の仕事を抱えて苦しいときでも、迷惑だと思われることを恐れて、なかなか他人を頼ることができません。それどころか、他人から仕事を頼まれると、本当は引き受けたくなくても引き受けてしまい、オーバーワークになるのです。

立正大学心理学部名誉教授であり日本ビジネス心理学会会長も務める、心理学者の齊藤勇氏は、このような人を「抱え込みタイプ」と呼び、その欠点を次のように指摘しています。

実際、このタイプは八方美人ゆえに、まわりと比較的良好な人間関係を築いています。しかし、それもグズが表面化するまでの話で、依頼した仕事が間に合わなかったり、間に合わせるための手抜き仕事であることがバレると一気に信頼を失います。皮肉なことですが、まわりに認めてもらおうとして頑張れば頑張るほど、逆の結果を招くのです。

(引用元:プレジデントオンライン|【6】抱え込み・八方美人タイプ「でも、嫌われたくない!」 ※太字は筆者が施した)

齊藤氏によれば、抱え込みタイプの人は自分には存在価値がないと思い込んでいるのだそう。他人に助けを求めない、依頼は何でも引き受けるといった仕事の姿勢は、その劣等感の裏返しなのだとか。つまり、「嫌われたくない」「好かれたい」と思うあまり、自らの欲求を抑え込んでまで、自分の存在価値を認めてもらおうとしているわけです。

どんなに「嫌われたくない」という思いが強くても、自らのキャパシティを考えないで仕事を引き受けていては、必ず無理が生じます。自分にとっても周りの人間にとっても、よいことはありません。

嫌われたくないという考え方の転換法02

「嫌われたくない」がダメな理由2:対人関係の“余計な悩み”を抱えてしまうから

当然、人には相性というものがあり、あまり気を遣わないで話ができる相手もいれば、仕事上の最低限のやり取りでさえフラストレーションを感じてしまう相手もいるはずです。

しかし、他人に「嫌われたくない」と考える人は、後者のような苦手な相手ともよい関係を築こうと必死になってしまいます。つまり、「この人には嫌われてもいいや」と割り切って考えることができないのです。

精神科医で、数多くの著書も出版している名越康文氏は、このようなことを話しています。

たとえば自分の周囲に10人の他人がいるとします。そのうち、あなたが少々何をしでかしても、変わらずあなたのことを好きでいてくれる人が1人はいる。でも喜んでばかりもいられません。一方であなたがどんなにいいことをしても、どうも気に入らない奴だと思っている人が2人いるのです。そして残りの7人は自分の接し方によって敵にも味方にもなりうる人たちだ、というのです。

(引用元:アルファポリス|一生折れないビジネスメンタルのつくり方 第5回 名越康文 「嫌われても大丈夫」な自分を手に入れよう ※太字は筆者が施した)

名越氏が話しているのは、アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャース氏が提唱した「1 : 2 : 7の法則」のこと。これを受け入れられるか受け入れられないかで、対人関係において自分がとるスタンスは大きく変わってきます。

「1 : 2 : 7の法則」によれば、「職場で関わる10人のなかに、自分を気に入ってくれない人間が絶対に2人はいる」ということになります。それなのに、誰からも嫌われたくないと気を遣っていたら、「自分を絶対に受け入れてくれない2人」とのコミュニケーションがうまくいかないことで頭を抱えてしまいます。その2人から好かれようと苦労するのは無意味なことなのに、無理をしてまで仲良くなろうとするから、本当なら悩まなくていいはずのことで悩み苦しむことになってしまうのです。

どうやっても仲良くなれない人が存在する、ということを理解しないと、職場での対人関係の悩みは消えることはないでしょう。

嫌われたくないという考え方の転換法03

「嫌われたくない」がダメな理由3:“忖度疲れ” してしまうから

職場には、じつに多種多様な人がいます。性別や性格が違うだけでなく、さまざまな役職の人がおり、自分との関係性もまた、ひとりひとり異なるもの。そして多くのビジネスパーソンがこのような組織のなかで、良好な人間関係を保つためにしばしば行なうのが「忖度」です。

忖度とは、相手の心情や意向を推し量り、それに配慮した言動をとって、相手の気持ちを満たそうとすることを指します。たとえば、昼休みに入ったのに忙しくしている上司に差し入れを買ってくるといった行為も、立派な忖度です。

忖度には「気を利かせる」という意味合いがあるため、決して悪いことではありません。ですが、周囲から「嫌われたくない」という思いが強いと、忖度が過剰になってしまう場合があります。

日本社会における忖度の問題について論じた『忖度社会ニッポン』の著者であり、精神科医の片田珠美氏は、過剰な忖度の実状を次のように話しています。

筆者の外来に通院している患者の中には、忖度に時間とエネルギーを費やしすぎて疲れ果てた方が少なくない。

いわば「忖度疲れ」に陥り、心身に不調を来したわけで、こういう方は、「波風を立てたくない」「気に入られたい」「嫌われたくない」という願望が人一倍強い。そのため、他人の評価や評判に過敏で、相手が何を望んでいるのかをつねに気にせずにはいられない。

(引用元:東洋経済オンライン|「忖度疲れ」で追い詰められる人の精神構造 「忖度を要求する人」から身を守る正しい方法 ※太字は筆者が施した)

片田氏の話によれば、忖度疲れとは周囲に対して忖度をしようという意識を強く持ちすぎた結果、ストレスがたまり精神的にダメージを受けた状態のこと。不眠や気分の落ち込みを引き起こすこともあると言います。「空気を読む」ことが大事だと考える日本人は知らぬ間に忖度してしまうため、「忖度疲れ」に陥りやすいのだそう。そのうえ厄介なことに、「忖度疲れ」になっていることになかなか気づかないのだとか。

また片田氏は、波風を立てたくないからと仕事仲間の気持ちを忖度して仕事を一度でも引き受けると、二度、三度と仕事を引き受けることになりかねない、とも言います。これは、前述の「仕事を抱え込んでしまう」ことにつながってきます。味をしめた相手が、ノーと言えないあなたに頻繁に仕事を頼むようになれば、ますます多忙になり精神的にもつらくなるでしょう。

好感度を上げたいからといって忖度ばかりしていては、自分らしく仕事ができなくなり、能率が悪くなるだけでなく、ストレスが蓄積して心身に深刻なダメージを受けかねないのです。

嫌われたくないという考え方の転換法04

「嫌われたくない」という考えを上手に転換する3つの方法

「嫌われたくない」という思いが強すぎるといろいろな面でよくない、ということは前述したとおりです。しかし、急に「嫌われることを恐れるな」と言われても、意識改革をするのは難しいと思います。

そこで、「嫌われたくない」と考えがちな人でも上手に思考を転換できるようになる、3つの「やらなくていいこと」をご紹介しましょう。

嫌われたくないという考え方の転換法05

1. 頼まれた仕事は全部引き受けなくていい

前出の心理学者・齊藤氏は、嫌われたくなくて仕事を断れない抱え込みタイプの人は、「優先事項と要請事項のバランス」を意識するべきだと述べています。仕事には、自分にとって重要な「優先事項」と、周りにとって重要な「要請事項」の2種類があり、他人から頼まれた要請事項を引き受けすぎると、オーバーワークになるのです。ですから、仕事を抱え込みがちな人は、仕事をきっぱり断らなくてはいけません

とはいえ、他人に嫌われるのが怖い人が、急に仕事を断れるようにはなりませんよね。そこで齊藤氏が提案する「上手な仕事の断り方」がこちら。

まずは、「今日のうちに作成しないといけない資料が2つあるので、そのお仕事を引き受けるとしたら、取りかかるのは明日からになってしまうのですが、それでも大丈夫でしょうか?」と状況を伝えます。そうすれば、相手は「明日だと厳しいので他の人をあたってみます」と引き下がってくれる可能性が高くなります。

もし、相手が「それでは明日からで大丈夫なのでお願いします」と改めてお願いをしてきたら、引き受けてもよいでしょう。相手は、こちらの状況を踏まえたうえで頼んできているわけですから、無理せずスケジュールどおりに仕事を進めれば問題ありません。

頼まれた仕事は、何が何でも全部引き受ける必要はないのです。自らがどのくらいのタスクを抱えていて、仮にその仕事を引き受けた場合、どのようなスケジュールになるのかを見積もって、正直に相手に話せば、自分の仕事量をコントロールすることができます。もちろん、嫌われる心配もありません

嫌われたくないという考え方の転換法06

2. 全員と仲良くなろうとしなくていい

「誰からも好かれるなんてあり得ない」とわかっていても、「嫌われたっていいんだ」となかなか割り切れない人も多いでしょう。では、どうすれば人は考え方を変えられるのか。ベストセラーとなった心理学本『嫌われる勇気-自己啓発の源流「アドラー」の教え』の著者のひとりで、哲学者の岸見一郎氏は、次のような助言をしています。

家族であっても他人を変えるのは難しい。だから自分が変わるしかない。他者を操作できるというのは誤解です。子供でも自由に操ることはできません。
(中略)
あなたのことを嫌う人は増えるかもしれません。でもそれは自分の課題ではなく、相手の課題です。

(引用元:日経ビジネス電子版|「嫌われる勇気」を持てば幸せになれる 対人関係に悩まない生き方 自己啓発の源流「アドラー」研究者の岸見一郎氏に聞く

岸見氏いわく、他人が自分を嫌うかどうかは、自分には決められない、とのこと。人に嫌われるかどうかを悩むより、自分を支持してくれる人は必ずいるのだから、そういう人と関わればいいのだ、とアドバイスしています。

ここで、前述した「1 : 2 : 7の法則」を思い出してみましょう。まず、自分がどう変わっても、少なくとも1割の人は自分のことを好きでいてくれるのでしたね。そして、7割の人との関係性は、自分の振る舞い方次第で変えることができます。つまり、全員からは好かれないかもしれないけれど、全員から嫌われるわけでもありません。決して味方がいなくなることはないのです。そのことを理解していれば、自分と合わない2割の人とは適切に距離を置くことができるでしょう。

全員と仲良くしようと思わなくなれば、「嫌われたくない」という気持ちを少しずつ弱めることができて、過ごしやすい人間関係を構築することができるはずです。

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3. 好感度を上げようとしなくていい

相手に好感を持ってもらうために、チャンスがあれば忖度をしようとする人がいますが、それによって忖度疲れして精神的ダメージを負い、仕事や生活に支障をきたしては意味がありません。

たしかに、忖度には「気配り」や「思いやり」といった側面もあり、よいものとして必要とされる場合があるため、なかなかやめることはできないものです。とはいえ、片田氏は忖度は必ずしもしなくていいとアドバイスしています。

片田氏が言うには、全く忖度をしなかった場合、人間関係が必ずぎくしゃくするわけではないのだそう。忖度をしなくても生きていける、忖度をしても必ず報われるわけではないと気づけば、余計な気苦労をしなくて済むのだと言います。

また、心理カウンセラーの秋カヲリ氏も、他人に気を遣って「いい人」を演じる必要はないと話しています。秋氏いわく、「いい人をやめる=悪い人になる」ということではないとのこと。むしろ「いい人」をやめると、他人からの評価を気にする「評価不安」や「劣等感」が消え、対人関係によるストレスが緩和されるそうです。

忖度がくせになっている人は、思い切って忖度をやめてみましょう。常に周囲の人に気を遣い続けなくても、人間関係は悪くなりませんし、嫌われることもありません。そして心が楽になることを実感すれば、「嫌われたくない」という考えを上手に転換することができるでしょう。

***
「嫌われたくない」という思いは自らの精神的負荷であり、自分がどうアプローチしても他人の気持ちは変えられません。「嫌われたくない」という気持ちに縛られなければ、自分らしく振る舞うことができ、自然な人間関係をつくることができるはず。そうすれば、自らの心はもっともっと楽になるのです。

(参考)
プレジデントオンライン|【6】抱え込み・八方美人タイプ「でも、嫌われたくない!」
アルファポリス|一生折れないビジネスメンタルのつくり方 第5回 名越康文 「嫌われても大丈夫」な自分を手に入れよう
心理学&仏教ワークショップ 東京|アドラー心理学にみる、他者を“敵”ではなく“仲間”とみなす方法
東洋経済オンライン|「忖度疲れ」で追い詰められる人の精神構造 「忖度を要求する人」から身を守る正しい方法
日経ビジネス電子版|「嫌われる勇気」を持てば幸せになれる 対人関係に悩まない生き方 自己啓発の源流「アドラー」研究者の岸見一郎氏に聞く
マイナビウーマン|嫌われたっていい! 「いい人」をやめる3つの方法

【ライタープロフィール】
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。

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