「同期は仕事で成果を出しているのに私なんて.......」
「友人は成績も運動神経もすべて私より上だ...…」
このように、自分と他人を比べて劣等感を抱いてしまうことは、誰にでもあるはず。
人によっては、劣等感から逃げたくなることもあるでしょう。しかし、「劣等感を抱くこと」には、じつはプラスの影響があることを知っていましたか?
今回は、科学的に証明されている「劣等感」のメリットと、劣等感との上手な付き合い方について解説します。
「劣等感」とはなにか?
「劣等感」は、自分に関連する事柄について、自分が他者よりも劣っているという感覚のことです。たとえば、大学受験や就職活動など、「つい自分と他人を比べて自己嫌悪に陥ってしまう」といった状況は、一般的にもよく見られるでしょう。
しかし、そもそも人間には、「人と比べてしまう」習性があるのです。
マイアミ大学のエイミー・サマービル准教授らによる研究では、実験の結果、日常生活での思考における約12%が「自分自身に関する比較」であり、その中でも「自分と他人を比較すること」が4分の1を占めていることがわかりました。したがって、「自分と他人を比較してしまう」ことを受け入れたうえで、比較によって生まれる「劣等感」とどのように付き合っていくかが重要だと言えるでしょう。
また、筑波大学の高坂康雅氏らによる、青年期における劣等感と競争心の関連性を研究した論文によれば、他者からの承認・賞賛に焦点を当てた自己アピールは劣等感を高めるのだそう。つまり、「ほかの人にすごいと認められたい」と思っている人ほど劣等感を抱きやすいのです。
とはいえ、心理学における「劣等感」は、日本語でいう「コンプレックス」とは意味が少し異なることに注意してください。「コンプレックス」は「気になってしまうもの」「執着してしまうもの」であるのに対し、「劣等感」は「他人と比べて劣っているという感情」を指します。たとえば、「仕事で高い成果を出すのに執着している」ならコンプレックスですが、「自分は他人よりも仕事で成果を出せていないと感じる」のは劣等感です。
じつはあった! 「劣等感を抱くこと」のメリット
心理学者のアルフレッド・アドラー氏は、心理学上の「劣等感」を次のように解説しました。
- すべての子どもは、劣等について生まれながらの感情を持っている。
- 想像力を刺激したり立場を改善することによって劣等感を消滅させようとする、「劣等感の補償」が生じる。
- しかし、補償作用が問題を解決する方向に向かわず、人生の無益な側に向かえば、劣等感は残ったままとなる。
「劣等感」を抱くことは、必ずしも悪いとは限りません。アドラー氏が述べる「劣等感の補償」によって、成長したり努力しようとする力を発揮できるからです。
たとえば、同僚に営業売上が自分よりも高いライバルがいたとしましょう。ライバルと自分を比べたときに「劣等感」が生じると、それを埋め合わせるために売り上げを伸ばそうと努力するようになります。このように、劣等感を抱いたとしても補償作用が働くことで、自分自身を成長させることができるというメリットがあるのです。
「劣等感」と上手に付き合う方法
では、「劣等感」をうまく扱うにはどうすればよいのでしょうか。大事なふたつのポイントをご紹介します。
【ポイント1】劣等感を「向上心」に転換する
上でご紹介した高坂氏らの研究によれば、競争を他者にアピールするためのものではなく自己を向上させるものとしてとらえ直すことで、結果的に劣等感を低減させることができるのだそう。「人からほめられたい・認められたい」よりも「自分がもっと成長したい」と意識するほうが、たしかに劣等感を感じずにすみますよね。
たとえば、「あの人は私よりも英語が上手に話せる」という劣等感を抱いた場合、「あの人より英語が上手だと思われたい」ではなく「もっと英語をうまく話せるようになって仕事に活かしたい」のように意識をしてみましょう。そうすれば、ネガティブな気持ちにもならず、英語のスピーキングを練習するという努力の方向へスムーズに移行できますよ。
【ポイント2】人に相談して「共感」してもらう
劣等感にさいなまれ、ときには実生活にまで悪影響が出てしまう場合もあるかもしれません。たとえば、いつも優秀な同期社員と一緒に仕事をしている自分を想像してみてください。劣等感が強く作用し、もしかすると仕事へのモチベーションが下がってしまうかもしれませんね。
東京成徳大学大学院の鈴木秀明氏らによる研究によれば、劣等感による否定的な影響を緩和させるには、共感経験や被共感経験を積み重ね、豊かな感情体験を体験し、劣等感を和らげることが重要なのだとか。
先ほどの例「優秀な同期社員と仕事をする状況」で考えてみましょう。家族や友人へ、「自分よりはるかに優秀な同期社員がいて、自分は上司から期待されていないようだ」「自分には業績も少なく、昇進できないかもしれない」というように、自分の劣等感について相談してみてください。「それは大変だね」と相手に共感してもらえれば、自身を安心させることができるはず。
劣等感をうまく緩和しながら、仕事に注力するための足がかりとして利用してみてください。
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劣等感を抱いたときは、「自分はダメだ」と落ち込んでしまうのではなく、「劣等感を自分の成長に変えてやる」という意識をもって行動するのが大切。いつの間にか劣等感が消えていることに気づけるでしょう。
【ライタープロフィール】
YOTA
大学では法律学を専攻。塾講師として、中学~大学受験の6科目以上の指導経験をもつ。成功者の勉強法、効率的な学び方、モチベーション維持への関心が強い。広い執筆・リサーチ経験で得た豊富な知識を生かし、効率を追求しながら法律家を目指して日々勉強中。
(参考)
心理学用語集サイコタム|劣等感と優越感|
Summerville, Amy and Neal J. Roese(2008), “Dare to Compare: Fact-Based versus Simulation-Based Comparison in Daily Life”, J Exp Soc Psychol, 44(3), pp 664-671.
高坂康雅・佐藤有耕(2008), 「青年期における劣等感と競争心との関連」, 筑波大学心理学研究, 35号, pp41-48.
東洋経済オンライン|「他人と比べない生き方」では幸せになれない
友尻奈緒美(2011), 「劣等感とその補償について : 質問紙とTATを用いた調査より」, 京都大学学術情報リポジトリKURENAI.
鈴木秀明・石村郁夫(2016), 「劣等感による否定的な影響を緩和させる要因―感情体験と共感・被共感経験に着目して―」, 東京成徳大学臨床心理学研究, 16号, pp145-153.