文章の論旨や要点を短くまとめて表現する要約文。学生の頃、レポート作成などで書いた経験があるものの、それ以降はまったく書いていないという人は多いことでしょう。
しかし、文章作成が苦手な人や、文章がわかりにくいと指摘される人、自分の考えが相手に伝わらないと悩む人は、改めて「要約」に注目してみるべきです。なぜならば、要約文を書く練習には、文章力と読解力を鍛える効果があるから。これらは、単に国語力を磨くだけでなく、日常生活やビジネスシーンにも良い影響をもたらします。
今回は、要約の練習によって得られるメリットや、具体的な練習方法について詳しくご説明しましょう。
要約の練習で「文章力」と「読解力」をつけるメリット
要約文を作成するには、単語の意味を正しく理解しなければいけません。また、文字数調整のために、単語を別の言葉に言い換える必要も出てきますよね。こうしたトレーニングにより、自然と語彙力が高まり、結果的に文章力が向上していきます。
『大人に必要な「読解力」がきちんと身につく 読みトレ』の著者・吉田裕子氏は、日常でただ会話したり、漫然と文章を読んだりしているだけでは、これらの能力はなかなか向上しないと述べます。
漫然と文章を読んでいるだけでは、語彙力は少しずつしか伸びません。成長を速くするには、言葉を調べたりメモしたりすることを習慣化すべきです。
(引用元:東洋経済オンライン|読み書きを鍛えるのに「要約」が最強なワケ)
読解力を高めるには「本を読めばいい」とよく言われますが、学習・教育アドバイザーの伊藤敏雄氏は、この考えに否定的です。伊藤氏によると、読みに関する記憶力(リーディングスパン)が弱いままで読書を繰り返しても、読解力はつかないのだとか。リーディングスパンが弱い人は、穴が開いたバケツから水がこぼれてしまうように、情報が穴からどんどん抜け出てしまうのです。
一方、要約の練習を通して主語と述語を正しく理解できるようになると、バケツの穴から情報が抜け出ることはなくなり、読解力の向上にもつながると、伊藤氏は述べます。
主語と述語を正しく読みとること、これが「バケツの穴をふさぐこと」、つまり読解力を上げることにつながるのです。
(引用元:All About|国語読解力をつけるには 文章の要約練習がおすすめ)
また、都留文科大学特任教授の石田勝紀氏は、読解力の向上は次のような形で日常生活にもメリットをもたらすと述べます。
- 疑問を持ち、解決することができる
- 相手の立場を自分に置き換えて考えることができる
- 物事の目的を考えられるようになる
意味を理解する力は、あらゆる場面で発揮されます。つまり、どのような科目でも、分野でも、さらに言えば、仕事でも、日常生活におけるさまざまな出来事でも発揮されます。
(引用元:東洋経済オンライン|私がどん底で見た「読解力がない」という地獄)
つまり、要約の練習は、単に読み書きを鍛えるだけでなく、仕事などのスキルアップにも役立つのです。
それではここからは、要約の練習方法を具体的に3つご紹介していきます。
【要約の練習方法1】新聞や書籍を100文字程度に要約する
要約の教材に適しているのは、新聞の社説や本です。いずれも100文字前後で要約できるようにしましょう。新聞の社説を要約する場合、次の2点に着目するといいと、前出の吉田氏は述べます。
- [話題]何について述べているのか
- [結論]結局どのようなことを言いたいのか
この2点をすばやく見つけるには、タイトルや小見出し、導入部のほか、太字などで強調している箇所や締めくくり部分に注目するとよいそうです。
要約の練習に適した教材が新聞です。特に「社説を100字程度で要約する」というのが、要点を見つけ、簡潔にまとめる練習になるでしょう。社説は1つの文章で1つの主張を述べており、練習にはもってこいです。
(引用元:東洋経済オンライン|読み書きを鍛えるのに「要約」が最強なワケ)
また、本を要約する場合は、1冊の内容を100文字程度にまとめます。吉田氏によれば、本を要約する際は、次の3点に着目するのがよいのだそう。
- [話題]何についての本なのか
- [見どころ]この本の面白い点はどこか
- [感想]自分はどう感じたか
新聞と本では、同じ要約でも着目点が異なるので、両方を使ってトレーニングするのが理想的ですよ。
【要約の練習方法2】新聞やセミナーの内容を10~20文字に要約する
前出の伊藤氏は、要約は文字数が少なくなるほど難易度が高くなると述べます。
実は、要約文というのは、制限字数が少なければ少ないほど、難しくなります。これは最低限、伝えなければいけないことを残して、いらないことを削らなければならないからです。だからといって、伝えなければならないことまで削るわけにはいきません。
(引用元:All About|国語読解力をつけるには 文章の要約練習がおすすめ)
そこで、100文字の要約に慣れてきたら、レベルアップのために文字数を減らしてチャレンジしてみましょう。たとえば新聞を使った要約の場合、記事に自分で10文字程度の見出しをつけるのです。
新聞を通した知育を目指す、日本新聞協会NIEコーディネーターの関口修司氏は、「見出しは究極の要約」と述べ、子どもたちに10文字以内で見出しをつける授業を行なうこともあるのだそう。大人がやってみてもなかなか難しいトレーニングです。
「究極の要約」とも言われる見出しを読む習慣をつけるだけで、子どもたちも新聞を斜め読みできるようになってきます。こうしたことは、教科書だけの学習ではなかなか得られない成果だと思っています。
(引用元:広告朝日|求められている、「教科書の外」の教育)
また、『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』の著者・浅田すぐる氏は、セミナーの受講内容など学んだ内容を20文字に要約することをすすめています。
俳句も「五、七、五。」と句読点を入れれば20字だし、原稿用紙の1行も20字だ。20字あれば、伝えたい内容を表現することができる。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|学んだ内容を忘れない、たった20文字の要約術)
要約するのは、学びに活かされたものであれば、本はもちろん、仕事で目を通した企画書や議事録でもよいのだそう。ただし、いきなり20文字に要約するのではなく、緑・青・赤の3色のカラーペンを使って内容を紙1枚にまとめ、そのあとに20文字の要約を作成するとよいそうです。それぞれの色の役割は次の通り。
緑:フレームワーク
青:キーワードの書き出し
赤:20文字に要約
青ペンの役割を「Why?(なぜ参加したのか?)」「What?(何を学んだのか?)」「How?(今後にどう活かすか?)」という問いに対する答えを書き出すのに使うと、情報のアウトプット力がより高まりますよ。
【要約の練習3】新聞の内容を “書いて” ではなく “話して” 要約する
明治大学文学部教授の齋藤孝氏は、新聞の内容を話すのも効果的なトレーニングになると述べます。
話して要約する際は、制限時間を設けてストップウォッチで計ります。要約のコツは、キーワードを3~5個見つけること、そして事実と感情を切り離すことです。知的な話し方にもつながるので、ビジネスシーンでも役立ちます。
適当な新聞記事を読んだ後に、それを要約しながら自分の言葉で話してみることだ。15秒以内、30秒以内、1分以内なとどストップウオッチで計りながら、要約して話せばさらに効果的。これを繰り返せば、必死で考えるので、知的で臨機応変な話し方を身につけやすくなるだろう。
(引用元:NIKKEI STYLE|新聞読み要約を話す 齋藤孝流「知的な話し方」指南)
さらなるレベルアップを目指すなら、自分なりのコメントをつけ加えてみましょう。また、新しく覚えた単語を、日常会話の中で使ってアウトプットするのも有効です。
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要約力が向上すると、相手に伝える能力が高まるだけでなく、相手を理解する能力も高まります。仕事のスキルアップのみならず、人間関係の向上にもつながるので、ぜひ要約トレーニングに挑戦してみてください。
読解力を鍛える方法はほかにもあります。「読解力テストから分かる恐ろしい現状とは? 読解力を鍛える方法、教えます」で紹介しているので、合わせてご覧ください。
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。
(参考)
東洋経済オンライン|読み書きを鍛えるのに「要約」が最強なワケ
All About|国語読解力をつけるには 文章の要約練習がおすすめ
東洋経済オンライン|私がどん底で見た「読解力がない」という地獄
広告朝日|求められている、「教科書の外」の教育
東京新聞|<新聞で新聞を作る>品川・香蘭女学校で出前授業 「見出しは究極の要約」
ダイヤモンド・オンライン|学んだ内容を忘れない、たった20文字の要約術
NIKKEI STYLE|新聞読み要約を話す 齋藤孝流「知的な話し方」指南