職場で「この仕事お願いできる?」と声をかけられたとき。あなたは、本当は余裕がないのに仕事を引き受けて、疲れてしまうことが多くありませんか? もしくは、相手の力になりたいからと無理をして引き受けたせいで、雑な仕事になって相手に迷惑をかけたり、自らの心身の調子を崩してしまったり……。
この記事では、そんな「自己犠牲」の精神が行きすぎてしまうことの原因と問題点について詳しく解説。そして、自分の意思を過剰に抑えたり、他人を優先しすぎたりすることなく、自らを貫くための方法を紹介します。
「自己犠牲」してしまう人の心理はどうなっている?
自分の都合や本心を抑えてまで他人のことを優先してしまう――この「自己犠牲の癖」の原因は、これから紹介する間違った思考にあります。
「嫌われたくない」と強く思っている
心理カウンセラーの秋カヲリ氏によると、自分を犠牲にしてしまう人の中には、相手の要求を拒んだらその人から嫌われるのではないかと恐れるあまり、相手に言われるがまま行動してしまう人が多くいるのだそう。否定せず相手に従っていれば、少なくとも嫌われることはないだろうと考え、自分の都合や欲求をないがしろにしてしまうのです。
たとえば、あまり食欲がない日に、同僚から昼食を食べに行こうと誘われたとしましょう。「今日はラーメンでいいよね?」とたずねられたとき、嫌われたくない気持ちが強い人は、自分の気持ちを抑えて「いいよ」と答えてしまいます。「ラーメンは嫌だな」と否定して相手の機嫌を損ねるくらいなら、そのままラーメン屋さんに行って苦しい思いをしたほうがマシだ、と考えてしまうのです。
秋氏いわく、自己犠牲を続けると、周囲から「この人は言うことを聞いてくれる」と認識されてしまうそう。そのため、いざ頼みを断ったり意見に異議を唱えたりすると、相手にイライラした態度で接してこられるほか、威圧的な言動を取られることもあると言います。こちらが必死に要求に応えても、相手は感謝をするどころか、それが当然だと思うようになってしまうのです。
「自分には価値がない」と思い込んでいる
心理カウンセラーの積田美也子氏は、自分を犠牲にして他人を優先してしまう人は自分に価値がないと思い込んでいる、と指摘しています。価値がない自分なんかの望みは後回しにして他人に尽くすのが当然だと考えているのだそう。
先の昼食の例であれば、食欲がないという自分の気持ちには、それを突き通すほどの価値はないと考えているから、同僚の提案を優先して受け入れてしまうというわけです。
また、自己犠牲しているという自覚がないケースも多いと積田氏は言っています。自分のことで手いっぱいにもかかわらず他人に尽くす人に「なんでそこまでするの?」と聞くと、彼らは「大したことしていませんよ」などと答えることが少なくないのだとか。それは、自分のことも他人のことも一生懸命頑張るのが普通だと思い込んでいるからなのだそうです。
他人に尽くすのが当たり前だと考える人は、他人を気遣ったり手助けしたりする自分のすばらしさ・価値に気づくことができません。そのため、いつまでたっても自分のことは犠牲にし、他人を優先し続けてしまうのです。
「もう、自分の意思を抑えない!」自らを貫き通す方法
自己犠牲の癖を直すには、前述したような偏った心理や考え方を改善する必要があります。「いったいどうすれば、自分は自己犠牲をやめられるのだろう……」とお悩みのあなたのために、2つの改善方法を紹介しましょう。
対人関係を「1:2:7の法則」で割り切る
「他人から嫌われたくない」「周囲の人みんなを喜ばせなければ」いくらそう思っていても、自分のことを嫌う人は必ずいるし、全員から嫌われるわけでもない――そう話しているのは、精神科医の名越康文氏です。
このことを示すのが「1:2:7の法則」。これは、たとえば周囲に10人の人がいたとして、その割合は「何をしても自分を好きでいてくれる人」が1人、「何をしても自分を嫌う人」が2人、そして「接し方によって関係が変わる人」が7人の「1:2:7」になる、という心理学における対人関係の法則です。
名越氏は、この法則を心に留めておけば、「どんなに頑張っても誰かには嫌われるものだし、それは仕方ないことなのだ」と思えるようになると言います。すると、他人から嫌われたくない一心で自己犠牲をすることなく、自分の意思や意見を言えるようになるのです。
先の昼食の例なら、あまり食欲がないのに「ラーメンを食べに行こうよ」と誘われたときでも、「ごめん、食欲がないからやめておくよ」と素直に言えるようになるはずです。「昼食を断ったくらいで嫌われたならしょうがない」「これぐらいで同僚全員から嫌われることはない」と割り切りましょう。
「感謝のワーク」で自分の価値を実感する
前出の積田氏が自分の価値を見いだせない人にすすめているのが、1日の出来事の中から他人に感謝できることを5つ見つけて書き出す「感謝のワーク」です。感謝したくなるようなことを他人からしてもらっているという事実を確認することで、「自分は他人に価値を認められているんだ」と気づくことができるのだと言います。
たとえば、仕事があった平日の1日を「感謝のワーク」で振り返る場合、まず下記のように、日常のささいな出来事の中から、感謝できるなと思うことをリストアップしましょう。
- 早起きができた
- 日中の天気が良かった
- 早めに出勤できた
- 仕事でトラブルがなかった
- 好きなテレビ番組が観られた
これを日々続けていくと、段々と下記のような事柄がリストに挙がるようになってくるそうです。
- 部下が旅行のおみやげをくれた
- 企画書の一部を上司が褒めてくれた
- 上司が昼食をごちそうしてくれた
- 家族が「仕事がんばれ」と連絡をくれた
- 同僚が残業を手伝ってくれた
「感謝のワーク」を実践することで、自分には他人に助けてもらえるほどの価値があることを実感できるようになれば、他人に気を遣ったり力を貸したりしたとき、「良いことをしてあげた」と素直に自分を評価できるようになります。「自分なんか……」とはもう思わなくなるはずですよ。
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自己犠牲に陥りやすいあなた。そんなに自分のことを抑え込まなくても、あなたを好きでいてくれる人はいなくなりませんし、あなたには周囲から評価してもらえるほどの価値があるのです。だから、安心してくださいね。
まずは、今回紹介した2つの方法を実践してみてください。きっと、偏った思考を改善することができるはずです。
(参考)
マイナビウーマン|自己犠牲はやめよう。幸せな人生をつかむための心得とは?
東洋経済オンライン|自分を優先できない「ナイナイ症候群」の正体 つい自分を後回しにしてしまうのはなぜなのか
アルファポリス|一生折れないビジネスメンタルのつくり方 第5回 名越康文 「嫌われても大丈夫」な自分を手に入れよう
【ライタープロフィール】
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。