部下を抱えて判断を求められる立場になったものの、いざ意思決定の場面になるとつい迷ってしまう――。経験が浅いうちは誰もが通る道でしょう。
ですが、リーダーに求められる重要な資質として「即断即決する力」を挙げるのはプレゼンテーションクリエイターの前田鎌利(まえだ・かまり)さん。大手通信会社勤務時代には自身も多くの部下を抱える立場にあり、一方で「プレゼンのプロ」として、それこそ数え切れないほどのリーダーと接してきました。
著書『最高のリーダーは2分で決める』(SBクリエイティブ)も好評な同氏が語る、「リーダーが即断即決すべき理由」とはどんなものでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
「2分で決める」ことの本質は「自分の軸を持つ」こと
僕は『最高のリーダーは2分で決める』(SBクリエイティブ)という著書を出していますが、厳密にいうと、「リーダーはあらゆることを2分で決めるべきだ」と述べているわけではありません。
決裁者の立場にあるリーダーの場合、たとえば部下からプレゼンを受けて決裁をするというときに、最初に3分のプレゼンがあって、次に10分のディスカッションがあるとします。その13分のあいだに必要な情報の精査をして自分のなかで考え、最後に決断を下すために2分でジャッジする、ということなのです。
もちろん、ゴーサインを出すために必要なデータやエビデンスがないという場合もあるでしょう。そういうときには、潔く「いまはやらない」と決める。それもまた意思決定に変わりありません。
そのようにジャッジするにもじっくり時間をかけたほうがいいと思う人も多いかもしれません。でも、その2分を10分や20分にしたところでいい決断になるかといえば、そんなことはないと僕は思うのです。というのも、もし2分で決められないというリーダーがいるとしたら、その人は「自分の軸」を持っていないということに過ぎないからです。
著書では「2分で決める」という表現にしていますが、大事なのは判断基準となる「自分の軸をしっかり持つ」ということ。
たとえば、企業に勤めている人なら、その軸は勤め先の企業理念になるでしょう。企業理念の実現を見据えて、これはやるべきことなのか、他社に業務委託すればいいことなのか、あるいは借り入れをしてでも自社でやるべきことなのかと考えて判断する。企業理念を自分のなかに落とし込み、しっかりと軸とできている人なら、自然とそういう判断を瞬時にできるはずなのです。
もちろん、そうして決めたことでもうまくいかないこともあるはずです。そのときに重要となるのは、そのあとのアクション。PDCAサイクルをまわすにもより早くまわし、うまくいかない原因を突き止めて排除する。プロジェクトのスタート地点での意思決定だけではなく、求めているものに結果がそぐわない場合の改善策を決めるにもより短時間ですることが、ビジネスとしては健全なかたちだと思うのです。
場数を踏まなければ意思決定の成功確率は上がらない
決断が遅くなる要因としては、先に挙げた「自分の軸がない」ということにも通じることですが、「経験が足りない」ことが挙げられます。
管理職になりたての人の場合、経験が足りないからこそ慎重になり、極度に失敗を恐れがちです。でも、そのままでは自分の意思決定によるアクションの成功確率を高めることはできません。
社風にもよるとは思いますが、会社に勤めることの大きなメリットとして、個人事業主では到底できないチャレンジをさせてもらえるということがあります。ならば、若いうちに失敗を恐れずどんどんトライを重ねて、結果的に成功確率を高めることが会社のためにもなるはずです。
そういう意味でいい傾向にあると感じるのは、最近の副業ブームです。グループ会社が多い大企業に勤めている人なら、いろいろなポジションを兼務して、それこそダブルワーク、トリプルワークをしているという人もいるでしょう。
このことの何がいいかというと、それだけ自分で意思決定をするチャンスが増えることです。しかも、ひとつの会社、ひとつのセクションで働くより時間も限られてくるでしょうから、それだけ早い決断を求められることになります。それが素早い意思決定のための最高のトレーニングになるのです。
スポーツでも同じですが、仕事においても場数を踏まないことにはアクションの成功確率を上げることはできません。それならば、副業を始めるなど意思決定の場面を意図的に増やそうと考えることも重要であるはずです。
今後のリーダーに求められる「外脳」とのつながり
リーダーの意思決定という視点で今後のビジネスシーンを思えば、心にとめてほしいことがあります。それは「外脳」とのつながりを大事にしてほしいということ。
いまもすでにそうなっていますが、今後はテクノロジーの進化がさらに速まることでしょう。そういう時代のなかで、これまでにはなかった職種も生まれ、リーダー自身が持っている情報や経験則だけでは意思決定できないという場面が増えてきているのです。
そのときに頼れるのは「外脳」、つまり外部にいるブレーンです。その場その場で考えるべき専門分野に精通したスペシャリストに知恵を貸してもらう必要があるわけで、今後のリーダーに求められるのは、そういうスペシャリストをどれだけ抱えていられるかということになります。
そうするためにもっとも手っ取り早いことというと、やはり上の立場にある人と一緒に行動し、その機会を増やすということになるでしょう。
普段の仕事ぶりによって上役の信頼を獲得できれば、上役が出席する場にオブザーバーとして同席することを指示されることもあります。そうすれば、上役のネットワークを少しずつ受け継ぐことになる。
仕事における人脈の大切さはいまさらいうまでもありませんが、即座により正しい意思決定をするリーダーになるためにも、人脈を広げておくことが大切なのです。
【前田鎌利さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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なぜか聴き続けたくなるプレゼンには「数字」と「○○」が入っている。
【プロフィール】
前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年5月5日生まれ、福井県出身。プレゼンテーションクリエイター、書家。株式会社固-KATAMARI-代表取締役。一般社団法人継未-TUGUMI-代表理事。一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事。i専門職大学客員教員予定。サイバー大学客員講師。東京学芸大学卒業後、光通信入社。2000年にジェイフォンに転職して以降も、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)と計17年にわたって通信事業に従事。営業プレゼンはもちろん、代理店向け営業方針説明会、経営戦略部門にて中長期計画の策定、渉外部門にて意見書の作成など幅広く担当。2010年にソフトバンクグループの後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンにて第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンをして数多くの事業提案を承認された他、孫社長が行うプレゼンの資料作成にも参画した。ソフトバンク社内におけるプレゼンの認定講師として活躍したのち、2013年12月にソフトバンクを退社し独立。ソフトバンク、ヤフーなどIT関連企業の他、年間200社を超える企業においてプレゼン研修や講演、資料作成、コンサルティングなどを行っている。著書に『最高のリーダーは2分で決める』(SBクリエイティブ)、『最高品質の会議術』(ダイヤモンド社)、『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)、『社外プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)、『プレゼンの資料のデザイン図鑑』(ダイヤモンド社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。