がんばって勉強をしても、学んだことがなかなか覚えられずくじけそうになったり、試験本番で思い出せなかったりしたことはありませんか? そのような人は、勉強する際、脳が情報を記憶するうえで“よくない”ことをやってしまっている可能性があります。
つまり、記憶が苦手な人は勉強の効率を無意識に下げてしまっているのです。それは具体的にどのようなことなのか、早速解説していきましょう。
1. 復習のタイミングが悪い
勉強内容を覚えるために、あなたはどんなタイミングで復習をしていますか? 忘れないよう勉強した直後に? それとも、試験などの本番の直前に1回だけでしょうか? じつは、どちらも復習のタイミングとしては間違っているのです。
勉強したことを効率よく覚えられる復習法としておすすめしたいのが、「1 : 5」の分散学習です。以前Study Hackerの記事『メンタリストDaiGoもすすめる「科学的に正しい勉強法」5選。復習スパンの黄金比率は “1:5” だった!』でも紹介した、さまざまなメディアで活躍し勉強や記憶に関する本も多く執筆しているメンタリストDaiGo氏が提唱している復習方法です。詳しくは後述しますが、この方法はさまざまな有識者の見解や研究結果から見ても、とても理にかなっています。
DaiGo氏いわく、勉強した日から本番までの「5分の1」の期間を空けて復習をするのがよいとのこと。たとえば、勉強をしてから試験まで10日の期間があれば2日後、1ヶ月ある場合は6日後に、小テストの問題を解くなどの形で思い出すことで、効率的に記憶できるのだといいます。それは、記憶はインプットしたときではなく思い出したときに定着するからだとか。
(画像は筆者が作成)
さらに、本番までの日数に余裕がある場合は、1回復習をしたら、それ以降は7~10日間の一定の周期で復習を重ねるのがベストだとDaiGo氏はアドバイスしています。復習と復習の間隔も、適度に空けることが大切なのです。そしてこれらのことは、脳科学の研究で明らかにされた「バラード-ウィリアムズ現象」によって説明することができます。
バラード-ウィリアムズ現象は、1913年に心理学者のバラード氏が、ウィリアムズ氏とともに行なった研究の結果を発表したことにより名付けられたものです。実験では、小学生を2グループに分け、片方のグループには授業の直後に、もう片方のグループには授業翌日に復習をさせて、2つのグループがそれぞれ7日後にどれだけ覚えているかを比べました。
その結果、翌日に復習をしたグループのほうが、授業内容をよく覚えていたのです。授業を受けた直後に間髪入れずに復習するほうが、より強く記憶できそうな気もしますが、実際にはある程度の時間を置いて復習するほうが記憶が定着しやすいことがわかりました。
復習は、期間を空けずに行なってしまうと記憶の定着率が悪くなります。ある程度の期間を置きながら、繰り返し行ないましょう。そのためには、本番の日程やそれまでの自らのスケジュールをなるべく早く確認して、きちんと復習ができる時間を確保することが大切だといえそうですね。
2. 黙読だけで勉強している
あなたは勉強をするとき、声を出している(つまり、音読している)でしょうか? もし黙読しかしていないのであれば、それがあなたの記憶が苦手な原因である可能性があります。じつは脳科学的には、黙読ではなく音読をしたほうが、脳がより活性化して勉強の効率が上がることがわかっているのです。
東北大学加齢医学研究所教授で、ニンテンドーDS用の大ヒットゲームソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』の監修者としても知られる川島隆太氏によると、音読をすることで、大脳の70%以上の神経細胞が働くとのこと。
活字を音読する場合、黙読時に活性化する後頭葉や側頭葉、頭頂葉、左右の前頭前野に加えて、聴覚野なども活性化するのだそう。音読には、発声という行為だけでなく、自らが発声した音声を耳で聞くという行為も伴います。音読は脳を大いに活性化させることができるので、脳のトレーニングに最適なのだとか。
実際、アメリカ・ハーバード大学とジュリアード音楽院を首席で卒業し、現在はバイオリニストでありながら音楽コンサルティング業のSmilee Entertainment社CEOを務める廣津留すみれ氏は、学生時代、音読を駆使して勉強をしていたとのこと。
気が遠くなるような数の英単語も、単語帳をただ黙読するのではなく、音読をすることで暗記できたのだそうです。そして、廣津留氏は日本人でありながらハーバード大学に現役で合格。世界最高峰の2大学を首席で卒業したあとはニューヨークで起業し、現地で活躍を続けています。
音読とはいえ、必ずしも大きな声を出す必要はありません。つぶやくように音読するだけで記憶しやすくなります。空いた時間にノートや単語帳を読むときには、ただ眺めるのではなく、ブツブツ言いながら読む。それが、記憶が得意になるためのひとつの方法だと言えるでしょう。
3. 嫌々ながら勉強している
勉強したことがなかなか覚えられないという人の中には、「勉強には我慢が必要」「やりたくないけどやるしかない」などと、ネガティブな感情を抱えながら勉強している人が多くいるのではないでしょうか。じつは、勉強に対するこうした姿勢も、記憶の妨げになっています。なぜなら、情報を記憶するときにどんな気持ちを抱いているかで、脳がそれらをどのように記憶するかも大きく変わるからです。
川島隆太氏と同じ東北大学加齢医学研究所の教授であり、人の脳に関する著書を多く出版している瀧靖之氏は、感情と記憶の関係について次のように解説しています。
嫌だという気持ちがあるとストレスホルモンが分泌され、記憶を司(つかさど)る海馬や前頭前野の脳細胞が萎縮。反対に、好きだと思うとストレスが減り、脳は本来の機能を伸び伸びと発揮する。また、海馬の近くに位置して感情を司る扁桃体(へんとうたい)が、海馬の脳細胞に影響を与え、記憶の定着を強めます
(引用元:NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法)※太字・下線は筆者が施した
そうは言っても、どうしても好きではないことを覚えなければいけないこともあるでしょう。気乗りのしない勉強はつらいものです。そういった場合は、その勉強に対するモチベーション、つまり「やる気」を引き出すことで、脳のパフォーマンスを向上させることが可能です。
生物学者でありながら脳科学評論家としても活躍する澤口俊之氏は、やる気を引き出すためには、自らに報酬を用意するのが有効だと述べています。「今日10ページ勉強できたら好きなものを食べてよい」などと、目標と報酬をセットで用意することで、その勉強に対するモチベーションは上がるということです。これなら、気乗りのしない勉強にも前向きな気持ちで取り組めそうですね。
自分がその勉強に対して、楽しさややりがいを感じられるように工夫することが、記憶の効率を上げるための第一歩なのです。
4. 本番への不安や焦りが強い
試験などに向けて勉強をしていると、「不合格にならないだろうか」などと不安や焦りが募りますよね? ですが、こういった思考が強くなりすぎると、脳は「過度のマインドワンダリング状態」となり、記憶の邪魔をしてしまいます。
「受験生外来」を設け、勉強意欲や集中力、パフォーマンスの低下などの問題に脳科学の知見からアプローチするブレインクリニック東京によると、「マインドワンダリング」とは「心がさまよっている状態」。
この先の勉強のことや試験本番のことなどを心配して不安や焦りの気持ちを強く抱く(=マインドワンダリング状態になる)と、脳は疲労状態となり、扁桃体の過度な活性化や海馬の萎縮といった、脳機能の不調を引き起こしてしまうのだそう(扁桃体は感情、とりわけ不安やストレスなどの否定的な感情に深く関わります)。扁桃体も海馬も記憶の定着に大きな役割を果たす部位であることは前述のとおり。マインドワンダリングは、かくも記憶の妨げになってしまうのです。
脳疲労を回復させ脳機能を改善するには、マインドワンダリング状態から脱することが大切です。同クリニックによれば、心がさまよっているのをマインドワンダリング状態と呼ぶのに対し、何かに集中していたり、目の前のことに意識が向いていたりする状態をマインドフルネスと呼びます。ですので、もし試験本番への不安で気疲れをしているように感じたら、マインドフルネスの状態を目指しましょう。
そこで有効なのが、短時間の「瞑想」を生活のなかに取り入れること。企業などの健康づくりに関する研究やサービス開発を行なう株式会社Campus for Hのリサーチャー西本真寛氏が紹介しているプチ瞑想なら、以下の手順を空いた時間に継続的に行なうだけで、脳疲労改善の効果が期待できるそうですよ。
- 姿勢を整える
- 鼻から息を吸ってゆっくり吐く
- 呼吸に意識を集中させる
- 5分間続ける
ハーバード・メディカルスクールの研究者をはじめとした研究チームが、2011年に発表した研究結果では、瞑想によって扁桃体の灰白質密度が低下し、海馬の灰白質密度が高まったとのこと。これら2つの変化は、不安やストレスの抑制、記憶力の向上を意味します。瞑想により脳への悪影響が少なくなったということです。
瞑想を行なうと、マインドワンダリング状態から開放され、自分が常に何かを考えていて、日頃から脳を酷使しているのだということに気付けます。たとえ5分や10分の空き時間でも、何も考えずにぼーっとする。これだけで、勉強期間中の脳疲労を改善することができ、正常な記憶力を保てるということです。
脳疲労によって勉強したことがうまく記憶できないと、焦る気持ちやイライラはさらに強くなってしまうでしょう。それを防ぐためには、瞑想するなどして意識的に脳を休ませることが大切。本来の記憶力をきちんと発揮できるような、脳のコンディションづくりを心がけてください。
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必死に勉強をしていると、つい視野が狭くなってしまい、非効率的な勉強の仕方になっていたり、気付いたら脳がひどく疲労していたりします。なかなか内容を覚えられないときは、勉強方法や生活を見直すようにしましょう。
(参考)
Mentalist DaiGo Official Blog|短時間で最高の成果を手に入れるための「科学的勉強法」
ダイヤモンド・オンライン|覚える→忘れる→復習、記憶が最も定着する間隔は?
産業能率大学 総合研究所|東北大学 川島隆太教授 インタビュー「読む&書く」からこそ学びは深くなる
プレジデントオンライン|ハーバード流「あれ?」がなくなる暗記術-キレイに書き取っても意味はない
NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法
PHPオンライン衆知|脳科学から見えてきた!やる気を高める4つの方法
ブレインクリニック東京|受験生外来
The Harvard Gazette|Eight weeks to a better brain
Hölzel, Britta K., James Carmody, Mark Vangel, Christina Congleton, Sita M. Yerramsetti, Tim Gard, and Sara W. Lazar (2011), “Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density,” Psychiatry Research, Vol. 191, No. 1, pp.36-43.
NIKKEI STYLE|疲れない脳をつくる 1日1回プチ瞑想のススメ-パフォーマンスUPのための“疲れ知らず脳”のつくり方(2)
【ライタープロフィール】
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。