多かれ少なかれ、仕事をする際は人と接することが必須となります。よって、そこには人間関係における悩みが発生することになります。では、どうすれば人間関係をよりよくできるのでしょうか。
大手化学メーカー・花王の研究開発職を経て、現在は商品開発コンサルタント、ビジネス書作家、講演家として幅広く活躍する美崎栄一郎(みさき・えいいちろう)さんが、人間関係を好転させるための5つの「しないこと」を教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【1】「あの人は苦手」と決めつけない
いまは「コミュニケーション障害」という言葉もあり、自分を卑下して「僕はコミュ障だから……」なんて言っている人もいます。でも、そう決めつけて、苦手な人と接することを避けていては、人間関係を好転させられません。なぜなら、人に対して得意か苦手かということは、基本的に接触頻度で決まるからです。そう思えば、本来は苦手な人にこそ接触しないといけない。
よく考えてみれば、「コミュニケーションが苦手」だという人も、すべての人が苦手ということはありませんよね? たとえ苦手な上司がいる人でも、プライベートの友人とは気楽に会話を楽しむことができます。得手不得手の対象は人それぞれであって、いわば、これは「ジャンケン」のようなものだと言えます。
ある人がジャンケンのグーなら、その人が苦手な相手はパーなのです。それなら、たとえばそこにチョキの人を連れていけばいい。苦手な上司との関係性をよくしたいと思えば、上司と相性がよく、それこそ上司に対して強い先輩に同行してもらうという具合です。すると、先輩が自分と上司の関係を緩和してくれ、関係性がよくなっていくのです。
【2】人間関係に見返りを期待しない
プライベートの人間関係ならともかく、仕事での人間関係となると、自分がやったことに対してつい見返りを期待したくなります。「あのとき、けっこう無茶な要望に応えたんだから、何か返してくれるだろう」というように。
でも、相手は感謝こそしても、恩返ししようとまでは考えていないということもよくある話。そこで、「あの人はどうして何も返してくれないんだ……」なんて思ってしまうと、ストレスを感じるばかりか、その気持ちがもとになって人間関係をこじれさせてしまいます。
それは、自分自身にとってもいいことではありません。だったら、最初から見返りなんて期待しないほうがいい。「なにか返してくれたらラッキー」くらいに考えておきましょう。しかも、そういう能天気な態度でいるほうが、結果的になぜか周囲からいいものが返ってくるものです。
【3】安易に「すみません」と口にしない
これは、いろいろな意味を含む曖昧な言葉が多い日本語の特性によるものです。
それこそ、「すみません」にはいろいろな意味がある。つまり、この言葉は便利なのです。飲食店等で店員にオーダーをしたいと伝えるとき、「ちょっといいですか」と声をかけるとき、「ちょっとそこを通してください」と言いたいときだけでなく、もちろん、普通に謝罪したいときにも、感謝を伝えたいときにも使えます。
ただ、その曖昧さゆえに、相手に意味を違ってとらえられてしまうと、人間関係をこじらせかねません。感謝したいのなら、「すみません」ではなく「○○していただいて、ありがとうございます」と伝えるべきなのです。そうすれば、人間関係をこじらせないだけではなく、人間関係をよくしていくことにもつながるでしょう。
もちろん、「すみません」という言葉なら、そうそう悪い意味でとらえられることはないかもしれない。しかし、「すみません」という言葉に限らず、曖昧な言葉はシチュエーションによっては危険性をはらんでいるという意識を持ち、余計な誤解を招かないよう、何事も具体的に伝えることを意識すべきです。
【4】自分が得た情報を独占しない
これは、先の「『すみません』ではなく『ありがとう』と伝える」ことに通じますが、人間関係がこじれないようにするためというよりも、人間関係をよりよくしていくための方法です。
インターネットが普及したいま、誰もが多くの情報に触れています。その情報の多さゆえに、本来ならある情報を必要としている人がその情報を見落としているということもあり得ます。
みなさんにも、「この情報は自分にも必要だけど、あの人も必要としていそうだな」と思った経験がありませんか? だったら、その場でメールやLINEなどを使い、教えてあげればいいのです。リンクを貼ってひとことふたこと添えるだけでいいのですから、簡単ですよね。
もちろん、相手はすでにその情報をチェックしているかもしれない。でも、「自分のためを思って教えてくれたんだな」と感謝されます。そうして、今度は相手から自分にとって有益な情報を教えてくれるということにもなるのです。
【5】相手の話を「つまらない」と思わない
人の興味関心はそれぞれです。なかには、「この人の話は本当につまらないな」と思う相手もいるものでしょう。じつは、私もついそう思ってしまうタイプです……(苦笑)。だけど、そう思って上の空で話を聞いてしまっては、人間関係は悪くはなってもよくはならないでしょう。無関心は、最もよくないコミュニケーションです。
そもそも、話のすべてがつまらないということはそうはありません。言い換えれば、相手から自分が引き出しているコンテンツがつまらないだけなのです。そこで、その人が持つおもしろいコンテンツを引き出してあげればいい。つまらないと思う話の中の、「ここはおもしろい」と感じるポイントについて質問をして、自分の関心があるところに話を引っ張っていくわけです。
そうすれば、自分にとっていい情報を得られる。しかも、相手は自分の興味関心を理解してくれるのですから、今後はそれに沿ったおもしろい話をしてくれることでしょう。
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【プロフィール】
美崎栄一郎(みさき・えいいちろう)
1971年6月24日生まれ、神奈川県出身。商品開発コンサルタント、ビジネス書作家、講演家、起業家。2009年に上梓した初の著書『「結果を出す人」はノートに何を書いているのか』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)がビジネス書大賞1位に。その後、花王で商品開発に携わったサラリーマン経験を元に、仕事術をまとめた著書は30冊を超える。『[書類・手帳・ノート・ノマド]の文具術』(ダイヤモンド社)は文具本で異例のヒット。『iPadバカ』(アスコム)はiPad関連書籍で最も売れた記録を持つ。2013年よりビジネス手帳の監修も手がける。講演テーマは、時間術、仕事術、アイデア発想術からノート術、デジタルツール活用術など。企業勤務経験から企業内研修の依頼も多い。『美崎栄一郎の結果を出す人のビジネス手帳2020』(永岡書店)、『面倒くさがりやの超整理術 「先送り」しないための40のコツ』(総合法令出版)、『スピードと成果が劇的に上がる戦略 最強の優先順位』(かんき出版)、『仕事が速い人ほど無駄な時間を使わない! 超速片づけ仕事術』(かんき出版)、『快速エクセル 会社では学べない一生モノの時短術』(インプレス)、『「結果を出す人」は、エクセルをどう乗りこなしているのか?』(学研パブリッシング)、『図解ノート術 ミスがなくなり、アイデアが生まれ、目標を達成できる』(学研プラス)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。