ナレッジマネジメントの意味とは? 成功事例&失敗事例でサクッと把握!

ナレッジマネジメントの成功事例&失敗事例1

ナレッジマネジメントとは、知識や情報を社内で共有&活用することにり、企業全体の生産性向上を図る取り組みのこと。ナレッジ(knowledge)は英語で「知識」、マネジメントは「管理」を意味するので、直訳して「知識経営」「知識管理」と呼ばれることもあります。

普段はあまり意識していないかもしれませんが、社員がクラウド上でファイルを共有したり、チャットでノウハウを交換し合ったりすることも、ナレッジマネジメントの一環。大量の情報を記録できるデータベースや、情報を瞬時に送受信できるインターネットなどの情報技術は、ナレッジマネジメントに欠かせないツールです。

今回は、「形式知」「暗黙知」「SECI」といった用語や具体的な事例、導入にオススメのツールなど、ナレッジマネジメントについて詳しく解説していきます。

ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメントとは、経営学者の野中郁次郎氏と竹内弘高氏による著書『The Knowledge-Creating Company』(1995年)をきっかけとして、世界に広まった考えです。ナレッジマネジメントでは、社員がもっている知識を可視化し、共有することで、会社全体の競争力向上を目指します

営業部でいつもダントツトップの成績を納めている社員Aがいたとします。Aさんのノウハウを共有できれば、営業部全体の売上を底上げでき、組織全体の利益も向上させられそうですよね。

しかし、Aさんのノウハウが共有されないままだと、企業の財産としては蓄積されません。Aさんが退職すれば、Aさんのスキルを誰も再現できなくなり、営業部および会社全体の利益が下がってしまうのです。

上記のような事態を生まないようにするのが、ナレッジマネジメント。個人のノウハウを企業の財産に転換できれば、組織全体が強くなれます。とりわけ、現代の高度情報化社会において、財産としての情報の価値がますます高まっていることは明白。1990年代に盛んとなったナレッジマネジメントですが、2020年代に突入した今だからこそ、再評価されるべきだといえるでしょう。

ナレッジマネジメントの成功事例&失敗事例2

ナレッジマネジメント理論とSECIモデル

ナレッジ・マネジメントの基本となる方法論に、「SECI(セキ)モデル」があります。SECIモデルを理解するには、まず「形式知」「暗黙知」を知っておきましょう。

野中郁次郎氏らによると、知識には「形式知」と「暗黙知」の2種類があります

  • 形式知:文章や図などのかたちで表現された知識
    (例)企業内で共有しているマニュアル
  • 暗黙知:目に見えるかたちでは共有されていない知識
    (例)社員個人がもっている仕事のノウハウ

各社員独自の暗黙知を形式知として共有することで、組織全体の生産力向上を目指すのが、SECIモデルです。「SECI」とは、4つのステップを表します。

  • 共同化(Socialization):個人の暗黙知を共有
  • 表出化(Externalization):暗黙知を形式知に変換
  • 連結化(Combination):形式知をブラッシュアップ
  • 内面化(Internalization):形式知を個人で実践・体得

ナレッジマネジメントのベースとなるSECIモデルは、「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」という4つのプロセスで構成されている。

(画像は筆者が作成)

SECIモデルをベースに、社員それぞれの暗黙知が形式知となり、社内全体で共有されていきます。この流れが、ナレッジマネジメントのベースとなるのです。

SECIモデルの4ステップ

ナレッジマネジメントの基盤となるSECIモデルの各ステップでは、具体的に何が行なわれるのか、詳しく見ていきましょう。

共同化

【共同化】とは、各人の暗黙知を、口伝えなどの可視化されていないかたちで共有するステップです。

先輩からセールストークの極意を教えてもらう、同僚から資料作成のコツをレクチャーしてもらうなど、知識を教え合ったり共有したりといったことは日常的にあるはず。このように、文書に記録されず、口承で知識が共有されていくのが【共同化】です。

【共同化】のツールとして活用できるのが、ビジネスチャット。社内で使えるチャットサービスです。仕事でわからないことを誰かに質問したり、報告したりといったことが簡単にできるため、個人のノウハウが組織内で自然に共有されていきます。

しかし、ビジネスチャットや個人的なレクチャーを通じて共有された知識は、多くの場合、正式な文書としては残りません。そのため、知識を口承で【共同化】するだけでは、ナレッジマネジメントとして不十分なのです。

表出化

【表出化】とは、【共同化】された知識を文章などのかたちで残し、誰でもアクセスできる形式知に変換すること。

チームメンバーのノウハウをマニュアルとしてまとめたり、そのマニュアルをもとに勉強会を開くなどして知識を共有することが該当します。【表出化】によって、知識が共有されやすくなるだけでなく、蓄積されるので、チームメンバーが入れ替わっても知識が受け継がれていきます。

【表出化】に使えるツールが、グループウェアです。グループウェアとは、組織内のコンピューターネットワークを使い、情報を共有するソフトウェア。身近な例としては、「Googleカレンダー」のようなスケジュール共有ツールが挙げられます。各人のスケジュールを入力しておくと、組織の全員が確認できますよね。グループウェアにより、各人が囲い込みがちな知識・情報に誰でもアクセスできるのです。

連結化

【表出化】によって知識が形となっても、体系的にまとめられていなかったり、矛盾があったりすれば、使いものになりません。そこで、知識をブラッシュアップさせる【連結化】が必要になります。

【連結化】で活躍するのが、文書管理ツール。文書をデータとして保存する目的に特化したソフトウェアです。文書管理ツールには、カテゴリ分類やタグ付けなど、データを整理する機能も搭載されているので、新しい知識を体系化・整理するのに利用しましょう。

内面化

【連結化】によって知識が体系化されても、実践されないままでは宝のもち腐れです。次の【内面化】では、新たな知識を各人が実践し、自分のものにすることを目指します。

【内面化】においては、全社員が知識にアクセスできる環境が必須です。ひとつのマニュアルを探し出すのに膨大な時間がかかるようでは、せっかくの知識を実践しようという意欲もなくなってしまいますよね。

そこで役立つのが、「エンタープライズサーチツール」。エンタープライズサーチツールとは、社内のデータベースを検索できる仕組みのこと。エンタープライズサーチツールを導入することにより、閲覧したいマニュアルなどをキーワードで検索しやすくなるので、共有されている知識へのアクセス効率が格段にアップするのです。なお、知識の検索にあたっては、【連結化】で情報を整理しておくことと、検索ツールの性能が重要となります。

上記4つのステップをまとめたのが、SECIモデルです。ひとつひとつのステップは業務中に発生しているでしょうが、意識しないと、各ステップはバラバラのまま。4つのステップがうまく連動するように全体を統制するのが、ナレッジマネジメントというわけです。

ナレッジマネジメントの成功事例&失敗事例3

ナレッジマネジメントの事例

実際のナレッジマネジメント導入事例を見ていきましょう。成功例と失敗例を2つずつご紹介します。

成功事例1:富士ゼロックス

日本でいち早くナレッジマネジメントを導入した企業が、富士ゼロックス株式会社。野中氏によると、1990年代の富士ゼロックスでは、製品開発の最終段階で設計が変更されて開発期間が延びてしまう、という問題がよく起こっていたそうで、それを解決するためにSECIモデルが導入されたとのことです。

開発期間の最終段階で設計が変更されてしまうことが多かったのは、後半の工程を担当するスタッフの意見を反映するためでした。後半工程の担当者たちが意見を出せるタイミングは、自分たちに作業の順番が回ってきたとき、つまり製品がほぼ完成しているときしかなかったのです。

この問題を解決するため、設計の初期段階で全担当者が情報を共有し意見を出す「全員設計」というコンセプトが打ち出されました。そして、大人数が効率的に情報共有するために製作された独自のシステムが「Z-EIS」です。

「Z-EIS」には、設計者や技術者たちのノウハウが言語化・インプットされたのだそう。暗黙知に明確な形を与えて形式知に変える【表出化】ですね。

「Z-EIS」にインプットされた知識は、いったん各工程の責任者によってチェックされ、共有すべき優れたものだけが残りました。形式知をブラッシュアップする【連結化】です。

このように徹底したナレッジマネジメントによって、富士ゼロックスは、製作過程におけるムダを省くことに成功したそうですよ。

共同化:各工程の担当者間でノウハウを共有
表出化:ノウハウをシステムにインプット
連結化:各工程の責任者が優れた知識を選抜
内面化:各担当者がデータベース内の知識を参照して作業

成功事例2:NTT東日本法人営業本部

NTT東日本法人営業本部も、ナレッジマネジメントの成功事例として有名です。1990年代頃から、「リアルな場」と「バーチャルな場」の整備によって情報共有を促す仕組みが導入されました。

  • 「リアルな場」:実際に対面でコミュニケーションを行なう環境
  • 「バーチャルな場」:インターネット上のコミュニケーション空間

まず、「リアルな場」としては、社員の作業効率やコミュニケーションが最適化されるよう、4種類のゾーンが用意されました。

ベース・ゾーン

「ベース・ゾーン」は、広い空間にデスクと椅子が並んでいる、いわゆる「オフィス空間」です。特徴的なのは、各人の座る場所が決まっていない「フリーアドレス制」であること。プロジェクトのメンバーなど、密にコミュニケーションを取るべき人同士がその都度集まって作業できるので、情報共有がスムーズになるのです。

クリエイティブ・ゾーン

「クリエイティブ・ゾーン」とは、いわゆる会議室。メンバー全員が1つのディスプレイを見ながら話し合い、アイデアを出し合うことで、プロジェクトを進めます。普通の会議室と違うのは、観葉植物で仕切られているだけの開放的な空間であること。壁に囲まれた会議室と比べて心理的にリラックスできるため、よりクリエイティブになれます。

コンセントレーション・ゾーン

「コンセントレーション・ゾーン」は、静かな環境で集中して作業したいときのスペース。「クリエイティブ・ゾーン」などで得たアイデアをもとに仕事を進めたり、データベース内で共有されている知識を参照・実践したりできます。

リフレッシュ・ゾーン

「リフレッシュ・ゾーン」は、仕事の合間にリフレッシュするためのスペース。喫煙室やドリンクコーナー、雑誌コーナーなどがあり、一人でくつろぐだけでなく、普段は関わらない他部署の人とも交流をもつことができます。

同様に、「バーチャルな場」も4種類設けられました。自己紹介などを載せる各社員のホームページ「マイホーム」や、日常業務用のファイルを置く「私の書斎」などです。部署の垣根を超え、スムーズに情報共有を行なう環境が整えられていました。

このように、ナレッジマネジメントにおいてはIT技術だけに頼らず、「リアル」と「バーチャル」の両方からアプローチしていくことが大切なのです。

リアルな場:フリーアドレスの座席や開放的な会議スペースなどで、コミュニケーションを最適化
バーチャルな場:各社員のホームページを通じて、情報共有やコミュニケーションを最適化

失敗事例1:A社(仮名)

成功事例だけでなく、失敗事例についても知っておきましょう。ソフトバンクなどで多くの新規事業を立ち上げた吉田健一氏の監修による『この情報共有が利益につながる』(ダイヤモンド社、2004年)に紹介されている、A社(仮名)の例です。

1990年代、ナレッジマネジメントの概念が普及しはじめた頃のこと。A社もナレッジマネジメントの活用を検討し、知識をデータベース化するためのシステムを導入しました。しかし、運用の仕組みが未整備だったため、ほぼ誰もシステムを活用せず、宝の持ち腐れとなったそうです。

A社の例からわかるのは、ナレッジマネジメントを効果的に行なうには、ナレッジマネジメントツールを導入するだけでは不十分だということ。システムをどう活用するかという「運用フロー」を決めておくのが重要です。

  • ナレッジマネジメントツールを導入したものの、運用のルールがあいまい
  • ツールを活用できず、宝の持ち腐れに

失敗事例2:B社(仮名)

一方のB社(仮名)では、グループウェアを利用する文化が社内に根づいていたため、データベースにどんどんナレッジが蓄積されていったそう。しかし、ナレッジマネジメント導入から1年後、B社のグループウェアには4,000以上ものデータベースが作られ、整理されず、形式などもバラバラ。そのため、せっかく集まった知識がどこに保存されているかわからず、活用できなかったのです。

B社では、SECIモデルの【連結化】を行なう仕組みができていなかったことが、失敗のナレッジマネジメント失敗の原因でした。知識は活用されてこそ意味を帯びるものですから、データを入力して終わりにするのではなく、「いかに取り出しやすくするか」という視点で整理するのが非常に重要なのです。

  • データの記述や整理のルールが未整備
  • 蓄積されたデータが活用不可能に

ナレッジマネジメントの成功事例と失敗事例を見て、どう感じましたか? SECIの4ステップのうちひとつでも欠けていると、SECIモデルを回すことはできません。ナレッジマネジメントを実践する際は、SECIのひとつひとつを大事にしなければいけないのです。

ナレッジマネジメントの成功事例&失敗事例4

ナレッジマネジメントのおすすめツール

最後に、ナレッジマネジメントの導入を検討している方向けに、オススメのナレッジマネジメントツール(ナレッジマネジメントシステム)をご紹介しましょう。

DocBase

株式会社クレイの「DocBase」は、文書作成・共有ツールです。文書を複数人で同時に閲覧・編集できるため、「その場のみんなで一緒にドキュメントを作り上げていく」という一体感を生みます。

もちろん、ナレッジマネジメントに使えるだけあって、情報の整理・検索機能も豊かです。作成した文書には、プロジェクト名などの「タグ」をつけておけば管理しやすいですし、全文検索や文書の作成者から検索する機能もあります。

SharePoint Online

「SharePoint Online」は、毎月一定額を支払ってMicrosoftの各種アプリケーションを利用できるサービス「Office 365」のツール。「組織全体でのシームレスな共同作業」を打ち出しています。

「SharePoint Online」はクラウドサービスなので、会社でも自宅でも、PCからでもスマートフォンからでもデータの閲覧・共有・利用が可能。「SharePoint Online」で共有されているファイルは全文検索ができるので、ファイルのタイトルを忘れたとしても見つけやすくなります。

また、チーム単位で情報共有するための「チーム サイト」を立ち上げる機能もあります。「チーム サイト」では、ファイルを共有するだけでなく、掲示板による情報発信やコミュニケーションをできるので、【共同化】にはぴったりですね。

AiLingual

「AiLingual」は、業務マニュアルの作成・共有を目的としたクラウドサービス。テキストだけでなく画像や動画を盛り込んだ分かりやすいマニュアルを、誰でも簡単に作れるようになっています。各社員が自分のノウハウをマニュアルに落とし込みやすい環境を整えれば、貴重なノウハウが属人化しにくいというわけです。

「AiLingual」の強みは、20ヵ国語以上の言語に対応していること。海外の企業や工場と関わることが多いグローバル企業には、特に便利でしょう。

Google ドライブ

Google社の「Google ドライブ」は、ナレッジマネジメントツールとしてトップクラスの知名度があります。Gmailのアカウントさえあれば始められるため、すでに導入している企業も多いはず。基本的にフリー(無料)で利用できるため、あまり予算を掛けられない場合や、とりあえずナレッジマネジメントを試してみたいという場合にオススメです。

紹介した以外にも、多種多様なナレッジマネジメントツールがリリースされています。用途や予算に合わせて、あなたの会社に最適なナレッジマネジメントツールを探してみましょう。

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産業がますます複雑化する今の時代、ナレッジマネジメントの重要性はかつてなく高まっています。まだナレッジマネジメントを導入していなかったり、十分に活用しきれていなかったりするなら、ツールの導入や運用フローの改善を検討してはいかがでしょうか。

(参考)
学校法人中内学園流通科学大学(2016),『小売・流通用語集』, 商業界.
リアルコム(2004),『この情報共有が利益につながる』, ダイヤモンド社.
株式会社図研プリサイト|プリサイト式 ナレッジマネジメント
北陸先端科学技術大学院大学|知識管理から知識経営へ―ナレッジマネジメントの最新動向―
日本学術会議|イノベーションの本質
日本ユニシス株式会社|ナレッジ・マネジメントを成功させるには
DocBase
Microsoft365チャンネル|いまさら聞けないSharePoint Online、基本と機能のポイント
コニカミノルタ|AiLingual

【ライタープロフィール】
佐藤舜
中央大学文学部出身。専攻は哲学で、心や精神文化に関わる分野を研究。趣味は映画、読書、ラジオ。人生ナンバーワンの映画は『セッション』、本は『暇と退屈の倫理学』。好きな芸人はハライチ、有吉弘行、伊集院光、ダウンタウン。

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