「部下にはあれこれ言葉を尽くして説明しているけれど、なかなかミスを減らしてもらえない」「チームの業務効率が悪い気がしていて上司に改善を提案してみたいが、私だと説明がうまくないからスルーされちゃうかな」。こんな思いを抱えたことがある人はいませんか?
そういった「人を動かす」ことが苦手な人に向けて、「話し方や伝え方に困っている人たちの役に立つ」という思いをもとに数々の大企業を支援している高橋浩一(たかはし・こういち)さんは、人の「3つのタイプ」に着目することをすすめます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
相手を「3つのタイプ」に分ける
ここで紹介するのは、相手を「3つのタイプ」に分けるコミュニケーション術です。コミュニケーション術における人のタイプの分け方はさまざまであり、16に分けるというものもあれば、64に分けるとするものもあります。
しかし、16や64のタイプをすべて覚えるのは大変ですし、私が提唱している3つのタイプに分けるという方法が最も実践的だと考えています。そのタイプとは、「論理」「感情」「政治」の3つです。
以下のように、簡単なフローチャートで分けることができます。自分のタイプを確認しつつ、自分でない周囲の人のタイプは、自分なりにその人を観察して判断してみてください。
【「論理」「感情」「政治」の3タイプの分け方】
ただ、この3つのタイプは個人それぞれに固定されたものではありません。場面によって変化することもあります。業務改善案などを部下から提案されたときに、「そうすべき根拠は?」「ちゃんと数字を出して」と言うような、明らかに論理タイプの上司がいるとします。
でも、その上司は仕事に頓着するあまりに、ほかのことは「どうでもいい」と考える人です。チームでランチに行くときに、部下から「なにを食べましょう?」と言われても「みんなが食べたいものでいいよ」と答えるといった具合です。つまり、この上司は、食事の場面では政治タイプと見ることができます。
人が動きたくなる「6つのツボ」
そして、場面ごとのタイプによって、最も相手が動きたくなる「ツボ」というものがあります。それは、以下の6つです。
【人が動きたくなる6つのツボ】
- メリット
- 一貫性
- 本音
- 一体感
- みんな
- 権威
これらのうち、論理タイプが動きやすいのが、「1. メリット」「2. 一貫性」のふたつです。論理的に考えるがゆえに、「あなたの将来にきっと役に立つから」「いま買わないと損をするから」など、「動いたほうが得だ」「動かないと損だ」というメリットに言及する言葉によって行動を判断します。
また一貫性とは、「整合性がとれていること」「話がつながっていること」を意味します。「頂いた指示に沿って修正したので(承認をお願いします)」「以前に伺ったニーズを解決した商品なので(買ってください)」といった言葉が、論理タイプには刺さります。
続いて、感情タイプが動きやすいのが、「3. 本音」「4. 一体感」のふたつ。感情を優先するタイプのため、「すごく期待しているから(頑張ってほしい)」「じつは御社のファンなので(ぜひお取引をお願いします)」といった、「あなたといい関係を築くために本音を明かす」ような言葉が響きます。
また、人間は社会生活を営む動物ですから、基本的には集団での一体感を好みます。その傾向が特に強いのが感情タイプですから、「私たちはチームだから(一緒に頑張ろう)」「(私も資料をつくりますので)一緒に社長に提案しましょう」というような言葉が効果的です。
ビジネスパーソンが特に意識すべき「政治タイプ」
そして、特にビジネスパーソンとして意識してほしいのが、残りの「5. みんな」「6. 権威」というツボをもつ政治タイプです。
先に、「3つのタイプは場面によって変化することもある」とお伝えしましたが、仕事をしている場面におけるビジネスパーソンに最も多いのが、この政治タイプだからです。また、そもそも、周囲に対して気を使うような謙遜を美徳とする日本人には、政治タイプが多いということもあります。
政治タイプは安全志向で慎重であるために、リスクの有無を気にします。そのため、「すでに同業他社も使っていますので(ご導入ください)」「これが人気ナンバーワン商品なので(ご検討ください)」といった、「みんなの意見がそこにある」言葉に安心します。
また、安全かどうかを気にする政治タイプは、周囲の評価に敏感です。しかも、「有名な人はこう言っている」というような、まさに権威に弱い傾向にあります。そのため、「このプロジェクトは社長も注目しているから(協力してほしい)」「業界最高レベルの品質テストをクリアしているので(採用してください)」といった言葉が有効です。
ただ、最後にお伝えしたいのは、「3つのタイプ」「6つのツボ」に従ってコミュニケーションをしても、うまくいかないこともあるということです。これらはコミュニケーションの裏技とか一発必中テクニックではありませんし、そもそもコミュニケーションに正解はありません。それゆえに難しいものであり、コミュニケーションに苦手意識をもっている人も多いものです。
そういう人たちに必要なのは、コミュニケーションがうまくいかなかったときを振り返るためのベースとなる考え方でしょう。なにも照らし合わせるものがなければ、たとえ振り返ったとしてもどう改善すればいいのかは見えてきません。
でも、「3つのタイプ」や「6つのツボ」を知っていたとしたらどうでしょうか。「もしかしたら、あの人のタイプを見誤っていたのかもしれない」「今度は◯◯タイプだと仮定して臨んでみよう」というふうに考えられるはずです。そのようにとらえて、軌道修正をしながら徐々にコミュニケーション能力を磨いていってほしいと思います。
【高橋浩一さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
高橋浩一(たかはし・こういち)
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制をつくる。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで3万人以上の営業強化支援に携わる。コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年、『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版、シリーズ累計7万部突破。2021年、『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす ~共感とロジックで合意を生み出すコミュニケーションの技術~』(クロスメディア・パブリッシング)、2022年、『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか? 無敗営業マンの「瞬間」問題解決法』(KADOKAWA)、2023年2月、『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』(ダイヤモンド社)を出版。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。