「仕事で失敗したくなくて、まわりの顔色をついうかがってしまう」
「自分の意見に自信がないから、ほかの人にすぐ便乗してしまう」
このような行動にはたと思い当たるあなたは、仕事を円滑に進めているつもりでも、じつは圧倒的に損をしている可能性があります。
今回は、空気を読んでばかりの「同調しすぎな人」が低下させている3つのことについてお伝えしましょう。
【1】同調しすぎると「生産性」が下がる
仕事をうまくこなしたいなら、職場での協調性は欠かせません。しかし「私も先輩とまったく同じ意見です」と毎回空気を読み、相手に同調しすぎてしまうのはかえって逆効果。
19世紀にチューインガム会社を創業したアメリカの実業家ウィリアム・リグレー・ジュニア氏は、「ビジネスは意見が異なる人々によってつくられるもの。ふたりの意見が常に一致する場合、片方は不要だ」と指摘したそうです。
また、アメリカの経営学者クレイトン・クリステンセン氏は、著書『イノベーションのジレンマ』において、「調和ばかりで現状に満足しているチームや組織は、創造性が生まれずにやがて衰退する」と述べたといいます。たとえ市場でトップに君臨している企業であっても、この “現状満足” によってトップから転落してしまう事例は、数えきれないほどあるようです。
起業家向けに組織形態や企業文化の設計を行なうダーコ・ラブリック氏と、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなどでビジネス心理学を担当するトマス・チャモロ=プレミュジック氏は、チーム内で一定の緊張感が保たれ、適度な対立が生まれているほうが、創造性は発揮されると伝えています。意見の不一致を避けるのではなくむしろ利用することで、より考え抜かれた決定を下すことができるのだそう。
たとえば、とある業務の進め方について、同僚と意見が食い違ったとします。本当は同意していないにもかかわらず、空気を読んで「その進め方で賛成です」と言ってしまったら、仕事の質を高めていくための建設的な話し合いをすることはできません。
あなたが「仕事をスムーズに進めたい、成果を出したい」と考えているなら、同僚との対立を恐れずに「私は別の進め方がいいと思うのですが」と、自分の意見を伝えてみましょう。そうすれば、どちらの提案がより適切なのか検討を重ねた結果、よりよい別の進め方を考え出すことができるかもしれません。
とりあえず同意したほうが議論が円滑に進むだろう、という考えは間違い。結局のところいい結果は生まれず、自分の首を絞めることになります。同調しすぎない人こそが、仕事をうまくこなせるのです。
【2】同調しすぎると「評価」が下がる
「自分の考えには自信がないけど、優秀な人の意見に従っておけば、ある程度認めてもらえるはず」など、よかれと思って空気を読み続けていると、逆に評価が下がってしまいかねません。というのも、他人の意見が常に正しいとは限らないからです。
大人向け学習プログラムを提供する株式会社Project MINT代表取締役社長の植山智恵氏は、聞いたことをそのまま正解だと思い込んでしまうのには注意が必要だと言います。植山氏によれば、同調性には「情報感化」と「社会的規範感化」の2種類が存在するそう。
- 情報感化
困難で曖昧な問題に直面したとき、誰かから情報をいったん入手したら、それが本当に正しいものだと思い込んでしまう - 社会的規範感化
他者に好かれたい、受け入れられたいという思いから、自分のなかでは違う回答をもっていても多数派の意見に従ってしまう
これらの同調性によって、誤った選択をしてしまう可能性が高まる――そう植山氏は指摘します。
たとえば、難しい仕事で調査報告が必要になったとき、「経験のある先輩に聞いておけば大丈夫だろう」と、ほかの人を頼るケースはありますよね。
このような場合、自分に知識がないという焦りや不安から「〇〇さんの言うとおりですね!」とすっかり同調し、調査を尽くすことなく報告書を仕上げてはいけません。万一その人から得た情報が間違っていた場合、不適切な調査報告を出したことで、あなたの仕事に対する評価が低くなる可能性もあるからです。
情報感化によって足元をすくわれるような結果を招かないためには、物事を疑ってかかる視点をもつことが必要。ビジネスコンサルタントの細谷功氏は、ある人にとっては「正しい」情報でも、状況が変われば「間違い」になる可能性があるとしたうえで、情報の真偽を自分の頭でしっかり検証していく姿勢が重要だと伝えています。
付き合いの長い取引先にもらったデータだから、不審な点を指摘するのは失礼になるかも……
→取引先のことは信頼しているけど、慎重になりすぎて損はないから確認しよう
自分より経験のある同僚が考えた企画だから、懸念点はあるけどこのままで大丈夫だろう
→勇気はいるけどチームみんなに懸念点を伝えて、完璧な企画をつくり上げよう
このように、状況によっては空気を読まないことも大切。あなたの評価が下がって損をしてしまう前に、空気を読んでもよい場面かどうか一度立ち止まって考えるようにしましょう。
【3】同調しすぎると「収入」が下がる
「協調性を重視して空気を読んだほうが、仕事がうまくいって収入も上がるはず」と考える人も多いでしょう。しかし、実際はむしろ逆です。脳科学者の中野信子氏は「お人好しないい人であるほど、収入が少ない」と指摘します。
その根拠として中野氏は、コーネル大学のベス・A・リビングストーン氏らが行なった研究を紹介しています。約9,000人を対象に、協調性のテストと収入の関係を調べたというものです。
その研究によると、
- 「信頼性」
- 「率直さ」
- 「迎合性」
- 「利他主義」
- 「謙虚」
- 「優しさ」
の6つの要素を備えた「協調性の高い人」は収入が低くなりやすいと判明したとのこと。加えて、協調性の高い人が最も管理職になれないタイプであったのだそう。
しかし、逆にいっさい空気を読むべきではないのかと言えば、決してそういうわけではありません。ただ「過剰に空気を読む」状態を解消すればよいのです。中野氏いわく、「断る」ことはその有効な手段のひとつ。
たとえば、上司や先輩から仕事を依頼されたとき、いまのスケジュールでは取り組む余地がないにもかかわらず、空気を読んで無理に引き受けてはいませんか? そこできちんと断れるのが、デキるビジネスパーソンへの第一歩。
ほかにも、職場の空気を気にして有給休暇をとらずに働き続ける人も、収入面で損をしています。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏によれば、有給休暇を使いきれなかったとしても、その未消化のぶんは会社に買い取ってもらえるわけではないとのこと。有給休暇をずっととらないでいることは、収入面で損にしかならないと、山崎氏は断言しています。
まわりの空気関係なく、無理な仕事は断る、休むときは休む、仕事をするときは仕事をするとメリハリをつけたほうが仕事の効率はきっと高まるはず。収入面での損も減らすことができますよ。
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みなさんも、損をしてしまう場面を減らせるよう、空気を読むのはほどほどにしてみてくださいね。
(参考)
ハーバード・ビジネス・レビュー|チームの調和が行きすぎると創造性を破壊しかねない
Forbes JAPAN|組織の活性化を妨げる「同調性」はどう乗り越える?
ダイヤモンド・オンライン|考えるとは「疑ってかかる」こと
プレジデントオンライン|「協調性の高い人ほど収入が低い」"いい人"をやめたほうがいいこれだけの理由
東洋経済オンライン|有休未消化はマネー面から見て「損」でしかない
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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