「集中力が続かず、作業をなかなか効率化できなくて困っている」
「失敗を引きずる性格で、ほかの仕事にも影響を及ぼしてしまう」
このように悩むビジネスパーソンにおすすめなのが、脳神経内科医が推奨する「5行日記」です。今回、筆者は5行日記を使って業務内容を振り返り、スキルアップに役立ててみました。その実践例とともに得られた効果をレポートします。
「5行日記」がもたらす効果
「5行日記」は、脳神経内科医の長谷川嘉哉氏が推奨する、手書きの日記メソッド。やり方は簡単。寝る前に1日の出来事を5つの箇条書きで書くだけです。
長谷川氏は、5行日記には脳科学的な観点から3つのメリットがあると言います。
- 手書きによる、集中力・記憶力の向上
- 箇条書きでまとめることによる、読解力の向上
- 寝る前に書くことによる、気持ちのリセット
まず、指先を繊細に動かして手書きで1文字1文字つづっていく作業は、脳のさまざまな部分を使うため、集中力を高める効果があるとのこと。また、脳は書く内容に注意を向けることから、手書きした情報を記憶しやすくなるというメリットがあるそうです。
次に、箇条書きで簡潔にまとめることは、読解力を高めるトレーニングになります。これは特に、読んだ本の内容をまとめるときなどを考えるとわかりやすい効果。長谷川氏によると、いったんインプットした情報を箇条書きでアウトプットすると、脳のワーキングメモリが解放されるそう。そのぶん、ワーキングメモリの機能をフルに使って文脈をとらえることができるのです。
そして、寝る前に5行日記で1日を振り返ると、気持ちの整理にもつながります。長谷川氏いわく、イライラや緊張で寝つけない人には特に効果的とのこと。ネガティブな感情をもち越さず、いい明日を迎えるためにも5行日記は有効だと言えるでしょう。
5行日記は「仕事」においても効果的
5行日記は、日常生活だけでなく仕事にもよい影響をもたらします。というのも、前述した効果に加えて、「1日を振り返ること」自体が仕事の成果を高めるのに効果的だから。そう述べるのは、『できる人のノート術』など多くの著書をもつ樋口健夫氏です。
たとえば、
「同僚へ積極的に協力できず、仕事をスムーズに進められなかった。まずは声かけから」
のように、日記を書くと「反省点」や「アイデア」「すぐにやるべきこと」などがひらめきます。樋口氏によれば、これらは今日の行動から連想した思いつきであるため、すぐに対処できることが多いのだそう。
また、習慣化コンサルタントの古川武士氏は、記録による振り返りは習慣化に役立つと述べます。行動を可視化するとやる気が高まり、さらに行動を自己管理する能力が身につくからです。たとえば、「コミュニケーション能力を磨くために、毎朝30分ビジネス書を読む」と決めたのなら、
「今朝はこの本を170ページから200ページまで読んだ」
などと記録に残せば、おのずと「明日も読もう」と思えて、続けられる可能性が高まります。
なお、脳神経外科医の菅原道仁氏いわく、記録する成果は、必ずしも大きなものである必要はないとのこと。菅原氏によると、仕事の成果を可視化すると、やる気に関わる「ドーパミン」の分泌が促されるそうなのですが、大きな成果よりも
「同僚の〇〇さんに自分から挨拶できた!」
のような小さな成果のほうが、持続的にドーパミンを分泌させられるとのことですよ。
1日の仕事内容を「5行日記」で振り返ってみた
仕事のスキルアップに効果的な5行日記を、筆者も実践してみました。使用したノートはB5サイズ(罫線7mm、30行)。毎回悩む必要がないように、書く項目は次の5つで固定することにしました。
- 出かけた場所
- 主な業務内容
- 今日の反省点
- できたこと、よかったこと
- 今後やりたいこと
長谷川氏いわく、記憶のなかでも場所や時間、感情などの情報をもった「エピソード記憶」は、より定着しやすいそう。そこで、1行めには「出かけた場所」を書くことにしました。
2行めに「主な業務内容」を記録。その日の作業をできるだけ短く書きました。
明治大学文学部教授・齋藤孝氏によると、ネガティブな感情を紙に書き出すのはストレス解消につながるとのこと。そこで、3行めには「反省点」を書くことに。ただし、少ない言葉でまとめることを意識しました。というのも、長々と書くと嫌な気持ちに注意が向きやすくなり、ますます落ち込んでしまうからです。ビジネスコンサルタントのデイビッド・ロック氏によれば、ネガティブなことを考えすぎると内側前頭前皮質が活性化して、さらにネガティブになってしまうそうです。
そして3行めを書き終えたら、すぐさま4行めで「仕事の成果」を可視化して、ポジティブな気持ちで明日を迎えられるようにしました。
5行めの「今後やりたいこと」には、スキマ時間にやるタスクから記事のネタまで幅広く「やりたい」と思い浮かんだことを記録しています。そして、できあがった紙面がこちらです。
「5行日記」を実践したら、課題が明確になってスキルアップにつながった!
5行日記を実践して感じたことや提案したいことを、以下にまとめます。
気持ちを整理したことによって、落ち込む場面が減った
まずは最も効果を感じたことから。5行日記で気持ちを整理したところ、落ち込む場面が減って、具体的な反省ができるようになりました。たとえば、仕事が立て込んでバタバタと1日が終わったとき。これまでなら「もっと仕事が早くできるようになりたい」と漠然と落ち込んだまま就寝することが多かったのですが、5行日記の実践によって「画像編集に時間がかかるならソフトを変えよう」と次の行動に結びつけることができたのです。
樋口氏が述べるとおり、日記で反省したことは翌日すぐに対処できました。その結果、作業時間が短縮できたことで新しい仕事を任せてもらい、スキルアップにもつながりました。
集中力が高まり、仕事がはかどった
次に感じたのは、集中力の向上です。これは手書きによる効果だけでなく、気持ちの整理によって、寝つきや目覚めがよくなったことも関係していると思います。集中力が高まると、資料の内容がすんなり頭に入ってくる、業務の優先順位を速やかに決断して段取りよく仕事が進められるといった変化が訪れ、特に午前中の作業がはかどりました。
課題やタスクを解消するため、実行力が高まった
さらに、筆者にとっては意外にも、課題やタスクが記憶に残ることで、行動に移すスピードが高まりました。
反省を活かした課題や、5行めに書いた「スキマ時間にやる小さなタスク」は、日記に書かなくてもどこかのタイミングでふと思い浮かぶかもしれません。しかし多くの場合は、いつの間にか忘れたり、先送りしたりと消化不良な状態になってしまうもの。
ところが、手書きによって課題やタスクが記憶に深く刻まれると、嫌でも脳内にずっと残ることに。「早く実行して頭のなかから失くしたい」という気持ちが高まって、自然と行動するようになりました。
キャリアアップのための勉強や読書について記録するのもおすすめ
今回の5行日記は、業務内容そのものに焦点を当てたものとしましたが、仕事に関係した勉強や読書についても記録すると、プライベートの時間も含めたトータルでのスキルアップを意識できると感じました。たとえば1行めに読んだ本と簡単な感想を書いておくと、感情とひもづけられるので、エピソード記憶の形成につながることでしょう。
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気持ちを整え、ビジネスパーソンに必要な集中力や記憶力の向上も狙える5行日記。スキルアップを目指している方は、ぜひ実行してみてくださいね。
(参考)
長谷川嘉哉 (2019), 『ノートを書くだけで脳がみるみる蘇る!』, 宝島社.
STUDY HACKER|医師「手書きが脳にいいのは当然」――脳を刺激する “最高のアナログ習慣” してますか?
STUDY HACKER|脳神経内科医がすすめる「5行日記」の大きな効果。寝る前たった数分で、脳がよみがえる!
STUDY HACKER|医師提唱の「5行日記」で勉強内容を毎日振り返ってみたら、難しい講義がラクに記憶できた!
東洋経済オンライン|脳機能の低下を防ぐには「手書き」が有効だ
ITmedia|仕事日記で“戦略作戦本部”を持ち歩く:樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」
古川武士 (2016), 『30日で新しい自分を手に入れる 「習慣化」ワークブック』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
菅原道仁 (2018), 『なぜ、脳はそれを嫌がるのか? 』, サンマーク出版.
菅原道仁 (2017), 『「めんどくさい」がなくなる100の科学的な方法』, 大和書房.
幻冬舎plus|イライラしたときは「紙に書き出す」のが最高の解消法
デイビッド・ロック (2019), 『最高の脳で働く方法 Your Brain at Work』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。