資格試験に向け、日々の勉強を習慣化したい。ダイエットのために運動を毎日続けたい。さまざまな目標を立て、それに向けた行動を継続したいと願っても、なかなか思ったようには続けられないものですよね。
この記事では、習慣化したいことがあるのに途中で挫折してしまう理由を探ったうえで、習慣化に成功するための3つの方法を提案します。
習慣化できないのは「現状維持バイアス」のせい
そもそもなぜ私たちは、こんなにも習慣化が苦手なのでしょう。この問題には、人の “ある心理傾向” が関係しているようです。
習慣化コンサルタントの古川武士氏は、習慣化に挫折し三日坊主になる理由は、脳が必死に「新たな習慣を始めるという変化」に抵抗しているからだと述べます。これは、ハーバード大学ケネディスクール教授のリチャード・ゼックハウザー氏らが提唱した「現状維持バイアス」によるもの。私たちはこれのせいで、未経験のことに抵抗を感じ、現状にこだわってしまいます。変化を受け入れたくない。いまのままでいたほうが楽で安心。だから、新たな行動を習慣にすることを避けてしまう――というわけです。
しかし古川氏は、新たな習慣を一定期間続けると、脳はその行動を維持しようとするようになるとも言います。新たな習慣が続くようになるのは、その習慣がもはや新たなものではなくなり、「維持すべき現状」になったから。これこそが、習慣化された状態なのだそう。
つまり私たちは、脳が変化に必死に抵抗している期間を、なんとか乗り越える必要があるということ。では、どのようにしてその期間を乗り越えればいいのでしょう。そのコツを3つ説明します。
1. 目標を低くしよう
行動科学の知見に基づき習慣化についてアドバイスを行なう齋藤浩太氏は、習慣化できない人の多くがしている “間違い” を指摘しています。それは、「やる気に満ちあふれた状態のときに、高い目標を立てる」というもの。
たとえば、資格取得を決意したやる気満々な瞬間に「毎日2時間は参考書を読む!」と決めるようなことです。やる気があればできるかもしれませんが、実際にはそんな日ばかりではないはず。全然やる気が出ない日に、2時間も参考書を読むことはできませんよね?
そこで齋藤氏は、モチベーションが低いときを基準に目標を立てるべきと主張しています。「1日2ページは参考書を読む」というような小さい目標を立て、それを毎日続けるのです。
このような「スモールステップ」であれば、私たちに強いられる変化はさほど大きくないので、行動しやすくなります。すると、「目標を達成できた!」という肯定的な気持ちが生まれ、いっそう続けやすくなるのだとか。目標の行動が生活の一部にまでなればしめたもの。脳は現状を維持するために、その行動をやめまいと判断してくれるからです。こうして習慣化の基礎工事が完了すれば、そこから先は目標を上げていくことも可能だ、と齋藤氏は言います。
小さな目標を立てる際は、先述の古川氏がすすめる「ベビーステップ=赤ちゃんのような小さな一歩」を意識するのもいいでしょう。参考書を読むのであれば、まずは「参考書を手に取ること」を目標にするといった具合です。参考書を手にしさえすれば、自然と開きたくなりますよね? 最初のハードルを限りなく低くすると、その後の行動がついてきやすくなりますよ。
初めは限りなく小さな目標を立てる。遠回りに見えて、これが最も成功に近いやり方なのです。
2. 完璧主義を捨てよう
古川氏は、「続けられない人は、例外なく完璧主義者だ」と指摘しています。たとえば、ジョギングを習慣化したいとき、「ジャージに着替えて、〇時に家を出発し、〇km毎日走りきる。これを完璧にやらないと意味がない」と考えてしまうのです。心当たりがある人はいませんか?
こうした完璧主義が引き起こす問題は、イレギュラーなことが起こると途端に続けられなくなるというもの。体調がすぐれなかったり残業で疲れていたりして、行動に取り組めない日が1日でもできてしまうと、「1回サボってしまったから、もう習慣化は無理だ」と考えてしまうのです。
古川氏は、このような場合に備えて、あらかじめ例外ルールをつくっておくことをすすめています。「体調がすぐれない日はジョギングはせず、普段着のまま部屋で5分間ストレッチをする」といった具合に、イレギュラーなときの対応を決めておくのです。柔軟なルールをつくっておけば、行動を起こすのがつらい日でも乗りきれるそうですよ。
また、考え方を減点方式から加点方式にシフトしましょう。心理カウンセラーの大塚統子氏いわく、完璧主義の人は完璧な状態を100とし、少しでもできないと減点していくという考え方をしているそう。「今日もちゃんとできなかった」と思うより、「今日は少しだけだったけどできた」と思うほうが、心が軽くなり、行動へのハードルも下がると言います。
さらに、「まっ、いいか」を口癖にするのも有効です。精神科医の樺沢紫苑氏によると、完璧主義の人は、一度うまくいかないとそれを悔やみ続け、「また次もうまくいかない」というイメージを抱きがちなのだとか。「まっ、いいか」と言うようにすれば、「今日はこれだけしかできなかったけれど大丈夫」と気持ちを切り替えられるようになるそうです。
とにかく重要なのは、少しでもいいので続けること。常に100%こなさなくてもいいということを、忘れないでください。
3. 長期的に取り組もう
あなたは、何かの行動を習慣化したいとき「急ぎすぎ」てはいませんか? たとえば、「明日から毎朝5時に起きる」「明日から毎日、1時間ジョギングする」といった具合に、自分に対して急激に大きな変化を起こそうとしてはいないでしょうか?
前述したように、私たちは現状を維持したいと考える生き物です。大きな変化を短期間でもたらそうとしても、その変化を急には受け入れられず、結局失敗してしまいます。
ここまでで説明した「スモールステップ」や「例外ルール」などはいずれも、習慣化にかかる負荷を小さくするもの。少しずつでいいので行動を続けていくことが、一番大切なのでしたね。ですから、「明日から絶対にできるようになる」といったように、習慣化に必要な期間を短く設定してはいけません。
古川氏によると、勉強や日記、片づけなどの習慣化には1ヶ月、運動や早起き、ダイエットなど身体的なことの習慣化には3ヶ月を目安にするといいとのこと。脳が新たな習慣を「現状」として認識するまでには数ヶ月かかるということを頭に入れて、地道に続けていきましょう。決して急がなくて大丈夫ですよ。
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新しい行動を習慣化するには、脳の働きをうまく利用して小さなことをコツコツ続けていくことが大切です。あなたも、目標の行動が日常の一場面となるよう、ちょっとしたことから始めてみませんか。
(参考)
Zeckhauser, Richard J. and William Samuelson (1998), "Status Quo Bias in Decision-Making," Journal of Risk and Uncertainty, Vol.1, pp.7-59.
東洋経済オンライン|「勉強や運動」が続かない人が陥りがちな勘違い
やる気に頼らない習慣マネジメント相談所|継続できない人が陥りがちな目標の立て方はこれです。
マイナビウーマン|完璧主義をやめたい! 特徴や悩みを知って卒業しよう
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【ライタープロフィール】
西ひとみ
大学では教員養成課程に在籍。大学院では英語教育を専門に学んだ。小学校教員免許、中学・高校教員免許(英語)を取得済。高校教師、小中学生向け塾講師としての指導経験がある。よりよいコミュニケーション法や最新脳科学への関心が高く、日々情報収集に努めている。