仕事において「考える」という行為は欠かせません。しかし、モヤモヤと考えらしきものが浮かんだとしても、そこからいいアイデアに結びつけるのは簡単ではないものです。
そこでお話を聞いたのは、電通勤務を経てストラテジックプランナーとして活躍する筧将英さん。筧さんは、考えるうえで「概念図」を使うことをすすめます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
筧将英(かけひ・まさひで)
1983年6月23日生まれ、愛知県出身。ストラテジックプランナー、クリエイティブストラテジスト。名古屋大学工学部、名古屋大学大学院情報科学研究科卒業。2008年に株式会社電通入社、ストラテジックプランニング職、データマーケティング職を経験。大手クライアントやスタートアップ企業のマーケティング戦略、コミュニケーション戦略の立案を中心として、キャンペーン設計から企画・実施までのディレクションを行なう。2021年にストラテジーブティック・Base Strategy株式会社を設立し、代表取締役に就任。同時に広告と芸能のハイブリッドエージェンシーである株式会社FOR YOUの執行役員CMO、株式会社ナンバーナインの社外取締に就任。主な仕事に、株式会社CAMPFIRE「新CMコミュニケーション戦略策定」、株式会社LegalOn Technologies「CMコミュニケーション戦略策定」、オープンワーク株式会社「社名変更/コミュニケーション戦略策定」、株式会社マネーフォワード「コミュニケーション戦略策定」、株式会社ドワンゴ「ニコニコ動画SNS戦略アドバイザー」などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
頭のなかで「まとめよう」とするから、いいアイデアが浮かばない
私のような広告業界の人間に限らず、仕事では常に「考える」ことが求められます。しかし、日本人には考えることに苦手意識をもっている人も多いものです。それには、日本の教育におる正解主義が影響しているのかもしれません。
たしかに、学生時代からおもしろいアイデアを考えることが好きで、自分をアイデアマンだと認識している人も一定数います。でも、そういう人はやはり少数派ではないでしょうか。多くの人は、「テストで正解を導くのは得意だけれど、自由な発想で考えるのは苦手」と思っているはずです。
そういう人であっても、社会に出ると求められるのは決まった正解を導くことではありません。「若手らしい自由な発想でアイデアを出してくれ」といったことを言われますよね。でも、子どもの頃から自由な発想で考える練習をしてきていないのですから、考えることに苦手意識をもっている人が多いのも当然だと思うのです。
ただ、社会人である以上、考えなければならない場面は次々に訪れます。そして、考えることが苦手な人の場合、頭のなかだけで考えてなんとか「まとめよう」とします。しかし、じつは、そのことがいいアイデアを生むことを難しくしているのです。
みなさんも、自分の考えたことのすべてを外に出すようなことはしていませんよね? なぜなら、思ったことをすべて口にしていては、関係ないことも話してしまったり、摩擦を産んでしまったりする可能性もあるからです。社会生活を営む人間として当然のことでしょう。しかし、アイデアを生むという場面においては、そのことが妨げになります。
「まとめよう」とすると、頭のなかでさまざまな考えの取捨選択をします。そして、「おそらくこれが正解だろう」「みんなが正解だと思うだろう」というものだけを残してまとめる。でも、そうしてまとめられたものは平均点のありきたりのものになりがちですし、「これは正解じゃないだろう」とその人が自ら捨てた部分にこそ、いいアイデアのヒントがあることも珍しくありません。
もちろん、アイデアを生むためには、最終的には考えをまとめなければなりません。しかし、それはあらゆる考えを出したあとにすべきことなのです。
4種類の「概念図」であらゆる考えを出し、まとめる
あらゆる考えを出し、そして最終的にまとめるために、「概念図」というものを使うことをおすすめします。これは、モヤモヤと頭のなかに浮かんでいる考えを図としてアウトプットし、「こういうことか!」と自分に気づきをもたらしたり、あるいは周囲と「こういうことですよね?」と認識を共有したりするために有効なものです。もちろん、その結果としていいアイデアを生むことにもつながります。
私がおすすめする概念図は以下の4種類です。どれも複雑な図ではありません。だからこそ、見る側にもわかりやすく、認識の共有などがしやすいと言えます。
【4種類の概念図】
「二軸図」は、相反する要素で成り立つふたつの軸のなかで、ある事柄がどんな位置にあるのかを表します。たとえば、以下の図は、あるアウトドア系企業が「どこで新規顧客を獲得し、どうやってファンを獲得していくか」を検討するために使ったものです。
この企業には、「機能と情緒」「日常と非日常」という、相反するものの、どちらも捨てることのできない価値がありました。このときは、その企業の価値に対して正しく役割をもたせることが重要課題であり、それを議論するためにこの図が役立ちました。
「ベン図」は、ふたつ以上の集合の関係性を表します。以下のような3パターンがあり、たとえばターゲットどうしの重なりといった関係性を示し、いまがどういう状態にあり、今後はどんな状態を目指していきたいのかなどを考える際に適しています。
概念図を使えるようになると、ビジネスパーソンとして優位に立てる
「プロセス図」は以下の3パターンがあり、因果関係を表す場合によく使われます。「分岐する」はあることをふたつの要素に分解するとき、「連なっている」はたとえば「大前提→中前提→結論」とつなげて言いたいことをまとめるときに使います。
また、「ループする」は文字どおりループしていることを示すときに使い、たとえばターゲットがもつループしている行動パターンを図式化し、「どうすればターゲットの行動を変えられるか?」ということを考えるようなときに有効です。
最後の「ステップ図」は以下の2パターンがあり、スケジュール管理やプロジェクトのステップやフェーズを分ける際によく使われます。
私は、これらの概念図を使えるようになるだけで、ビジネスパーソンとして優位に立てると考えています。というのも、概念図を書く人がそもそもそう多くないからです。たとえば、ミーティングの場面で概念図を使って出席者の意見を整理していけば議論をファシリテーションでき、それだけ周囲からの評価も高まるでしょう。もちろん、モヤモヤしている考えをまとめていいアイデアを生むこともできるというのは、先述のとおりです。
【筧将英さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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