スキルアップのために日々勉強しているビジネスパーソンのなかには、努力が報われて成果が上がる人と、そうでない人がいます。努力が報われる人の特徴のひとつは、「何が自分の課題なのか把握できている」という点です。
『9割の「努力」をやめ、真に必要な一点に集中する 勉強の戦略』(朝日新聞出版)から一部抜粋して、目の前にある課題をより精緻に突き詰め、解消していくノウハウを解説します。
【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)
スタディーハッカー 代表取締役社長
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学(文学部英文学科)在籍中から英語教育に関わる。大手学習塾の講師・教室長を経て、2010年に京都で恵学社(現:スタディーハッカー)を創業。“Study Smart”(学びをもっと合理的でクールなものに)をコンセプトに、第二言語習得研究(SLA:Second Language Acquisition)などの科学的な知見を実際的な学びの場に落とし込んだ予備校を立ち上げる。予備校で培った英語指導ノウハウを活かした社会人向けの英語のパーソナルジムENGLISH COMPANYを2015年に設立。その他、学びやスキルアップにまつわるアプリ開発なども行なっている。
「課題」をさらに掘り下げてみる
「努力が報われる人は、どういう人なのか?」
そのような人の特徴のひとつとして、「何が自分の課題なのかをきちんと把握している」という点が挙げられます。この課題に対しての解像度の差が、努力が報われる人と、報われない人の大きな違いなのです。
私は、課題の解像度を高めることを「イシューの精緻化」と呼んでいます。イシューは「課題」、精緻化は「細かい部分まで明確にする」という意味です。これだけではわかりにくいと思うので、勉強ではないのですが、身近な例で説明していきましょう。
ある会社員が「お金がない」ことに悩んでいるとします。ここで「生活を切り詰めよう」「ボーナスまで耐えよう」「頑張っていればいつか昇進するだろう」と思ってしまってはダメです。それは「思考停止」です。
本当にお金がないことに悩んでいるのなら、それよりも「イシューの精緻化」を進めるべきです。課題を掘り下げていくのです。
「お金がない」という課題の解消を突き詰めていくと、どうなるでしょうか? お金がないとき、まずは大きくふたつのルートがあります。「支出を減らす」もしくは「収入を増やす」です。当たり前ですね。
多くの人は節約をして「支出を減らす」ことはわりと実践しています。一方で「収入を増やす」ための方法は実践していなかったりします。そこで「会社員が収入を増やすにはどうすればいいのか?」をさらに掘り下げていきます。すると昇進、転職、副業あたりが思い浮かぶでしょう。
ここで「昇進を待とうかな? いや、転職しようかな?」と考えるだけでは意味がありません。さらにひとつひとつの選択肢を掘り下げる必要があります。たとえば「昇進」をするために、さらにイシューを掘り下げるなら、図のように整理できます。
同様に、「転職」についても、掘り下げておく必要があります。
「イシューの精緻化」というのは、図のように、いくつかのステップを踏んで、問題点を深く掘り下げていくことです。すると根本的な問題が「具体的な行動」として浮かび上がってきます。
課題の達成確率は、シビアに考えておく
さて昇進と転職、まずは2パターンで「イシューの精緻化」を行ないました。わざわざふたつのパターンで精緻化を行なったのは意味があります。
この結果、「訪問数を3つ増やす」と「IT業界への転職活動をする」という、変えるべき行動がそれぞれ浮かび上がりました。ここで、初めて両者を比べるわけです。もし「訪問数を変えるだけで、売上が伸びて昇進できそうだな」と思うのなら、昇進を目指したほうがいい。一方で「同じ仕事をしていても、別の業界に行くだけで評価が上がりそうだな」と思うのなら転職を選べばいい。
多くの人が「昇進と転職のどちらを選べばいいか?」という時点で立ち止まって考えてしまうのですが、そこで終わってはいけません。「訪問数を変える」のと「IT業界への転職活動をする」こと。どちらのコスパがいいか、と考えて、最終的に行動どうしを比べることが大切なのです。
解決すべきそもそもの課題は「お金がないこと」でしたよね。よって、ただ「どちらの行動を選んだほうが課題解決の確率が高いのか」を考えればいいだけなのです。
人生でも勉強でも「頑張ればなんとかなる」と思っている人はたくさんいます。もちろん、頑張ることも大切です。しかし、その前にきちんと戦略を立てなければ、ムダな努力で終わってしまう危険性があります。
先ほどの例でも挙げましたが、まさにキャリアに関してもそうです。よく「会社にしがみついていればなんとかなる」と思っている人がいます。「やりたくない仕事だけど、頑張っていればいつかは報われる」と思っている人もいます。
そういうこともあるかもしれませんが、もっと具体的にロジカルに戦略を考えることです。戦略がなければ「報われない努力」で終わる危険を察知できません。
少しだけ私の話をします。私は大学卒業後、老舗のカメラ会社に就職しました。配属されたのは、体育会系ゴリゴリの営業部。
入社したのは2000年でした。ちょうどカメラがフィルムからデジタルにシフトしているときです。ただ会社からは「デジカメを売ると利幅がすごく減るから、フィルムカメラを売ってくれ」と言われていました。
しかし、その努力もむなしく売上はどんどん落ちていき、営業所の人数も減らされていきました。一人あたりの担当エリアはどんどん広くなっていき、挙句の果てにほかの会社に買収される話まで出てきました。
当時はまだ入社2年目。世間的には「3年は耐える」ことがよく言われます。まわりの人にもそう助言されました。「頑張っていたらいいことがあるはずだ」と。
……でも、それはちょっと考えにくいと思っていました。もちろんすでに50、60代で、このまま大きい会社に買収されて、退職金も満額もらえるというのであれば「いいこと」なのかもしれません。しかし入社2、3年目の人で、そのまま頑張って得することなんてかなり可能性は低い。そこに賭けるのはリスクだと思いました。
私は早々に転職を決断しました。その後、塾の経営に乗り出し、いまではおかげさまでうまくいっています。もしあのまま「頑張ればなんとかなる」と会社に残り続けていたら、いまの自分はなかったでしょう。
大切なのは、根性論で乗りきろうとしないことです。冷静に課題を分解していけば、自ずと答えは見えてくるはずです。
課題の発見に「思い込み」は禁物
人は現状維持の方がラクですし、安心感を覚えます。カメラ会社の例でも、会社に残り続けた人は「現状維持はリスクが少ない」と判断したのかもしれません。しかしそれはただの「心理的なバイアス(偏り)」です。ここに気をつけなくてはいけません。
たとえば、キャリアを考えるとき、多くの人は「転職よりも昇進のほうが現実的だ」と思いがちです。でもこれも、立派な心理的なバイアスです。
そう思ってしまうのは「同じ会社に長くいると信用があるよ」とか「3年間は働かないとダメだよね」などと思い込まされてきたからです。そんなバイアスに騙されてはいけません。
仮に製造業からIT業界のような人材の流動性が高い業界に移ったとしても「この人は3年経たずに辞めているから信用できない」などと思う人の割合は、IT業界では相対的に低いでしょう。
実際には制約ではないことを、制約だと思い込んでいることはよくあります。そこをできるだけフラットに見ること。そのためにも、まずは課題を分解して、本当にやるべきことをあぶり出すべきなのです。
課題を分解していくことが、戦略を立てるときの基本です。「お金がない」「英会話ができない」などの課題があるなら、それをどんどん掘り下げていって、本当の問題点を見つけ出す。
たとえば、英会話では、ネイティブスピーカーとの会話経験が重視されがちです。ですがある程度の単語の知識がなければ、会話も成り立ちません。日本語で会話がかみ合わないときも、そのような場合が多いですよね。
確かに、ネイティブの方との会話経験は大切ですが、それよりも優先すべきは、自身の課題を発見することです。あとは、その課題をつぶすソリューションを実行するだけで、万事解決するはずです。
【『9割の「努力」をやめ、真に必要な一点に集中する 勉強の戦略』より 記事一覧】
- 「めんどくさがり」でも勝てる! 努力が苦手な人でもぐんぐん力がついてくる「勉強の戦略」
- 「戦略」を立てれば勉強を効率化できる。まずは「とにかく頑張れ」という呪いからの解放を
- 勉強の努力を最小限にするには「戦略マップ」があればいい。大切なのは “自分の立ち位置” を知ること
- 勉強で “メソッド” に取り組む前に必ずやるべきこと。「○○」を正しく把握すれば勉強は自然とうまくいく
- 勉強で「成果を出せる人」と「そうでない人」の決定的違い。“報われない努力” はどう防ぐ?(※本記事)
- 東大に受かる人の勉強法が意外と普通なワケ。ラクに結果を出す秘訣は「まず○○する」ことだ
- 超多忙でも勉強できる人が「時間を生み出す」ためにやっていること。仕事の一部は○○してしまえばいい
- 記憶のメカニズムを利用して驚くほど効率よく勉強できる「ポモドーロテクニック」とは
- 東大合格する人の特徴は「勉強を努力と思わない」こと。当たり前に勉強するための「正しい習慣」のつくり方
- 頑張れないタイプの人でも自然と勉強できるようになる「仕組み」づくり最大のコツ