評価される人は「ひらめき」に頼らない。アイデアを生み出す秘密は、「大量のインプット」にある

たくさんひらめいているイメージ

周囲から「アイデアマン」と思われている人は、どのようにして斬新なアイデアを生み出しているのでしょうか。なかには、「天性の才能により突然ひらめくもの」といったイメージをもっている人もいるでしょう。しかし、東北芸術工科大学教授で編集者の菅付雅信さんは、「アイデア創出は、ひらめきなどではなく大量のインプットによって生まれる」と語ります。その言葉の真意を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
1964年6月14日生まれ、宮崎県出身。編集者。株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集から内外クライアントのコンサルティングを手がける。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、エレナ・ヤムチュック等を編集。坂本龍一のレーベル「コモンズ」のウェブや彼のコンサート・パンフの編集も。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。著書に『はじめての編集』(アルテスパブリッシング)、『物欲なき世界』(平凡社)、『動物と機械から離れて』(新潮社)等。教育関連では多摩美術大学の非常勤講師を4年務め、2022年より東北芸術工科大学教授。1年生600人の必修「総合芸術概論」等の講義をもつ。下北沢B&Bにてプロ向けゼミ「編集スパルタ塾」、渋谷パルコにて中学生向けのアートスクール「東京芸術中学」を主宰。2024年4月から博報堂の教育機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」と「スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ」を共同主宰。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

新しいアイデア=既存のアイデア✕既存のアイデア/大量のインプット

近年、ビジネスシーンでは「アウトプット」の重要性が声高に叫ばれるようになっています。いわゆるクリエイティブ職をはじめ、新たな製品やサービス、あるいは社内の業務改善策を考えるなど、頭脳労働をしているビジネスパーソンにとって、アウトプットとは成果そのものとも言えますから、その質を高めるのはもちろん大切なことです。

しかし、だからといって、「来週の会議にすぐに使えるように」といった意識で、手軽に使えるアウトプット術ばかりを取り入れるのには疑問が残ります。なぜなら、そのノウハウを構築した人の単なるフォロワーになってしまうからです。そのノウハウにならってアウトプットをしたときには、その人はもう次のステージに進んでいて、別の新たなノウハウによってアウトプットをしていることでしょう。後追いしかできなければ、目新しいアイデアを創出するのは難しくなります。

そこで重要となるのが、「インプット」です。アウトプットが重要であるのは紛れもない事実ですが、アウトプット偏重の考え方に支配されてしまうと、逆に良質なアウトプットを生み出せません。

アメリカの広告代理店のプランナーとして活躍したジェームス・W・ヤング氏による、アイデアを生み出すための指南書『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)という広告業界の永遠のバイブルがあります。そこで著者は、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外のなにものでもない」と記しています。

つまり、「新しいアイデア=既存のアイデア✕既存のアイデア」というわけです。この考えについては、メディアなどを通じて見聞きしたことがある人も多いはずです。しかし、この公式には、最も重要な部分が抜け落ちていると思うのです。

新しいアイデアが既存のアイデアの組み合わせに過ぎないというのは私も賛同するところですが、既存のアイデアをたくさん知っていなければ、そもそも組み合わせることができません。あるいは、知っている既存のアイデアの数が少なければ、組み合わせのバリエーションも限られてしまい、これまでになかったような斬新なアイデアを考えることもできないでしょう。

だからこそ、アイデアの創出には、できるだけ多くの既存のアイデアを知るための「大量のインプット」が必要なのです。先の公式を正確なものにするならば、「新しいアイデア=既存のアイデア✕既存のアイデア/大量のインプット」となります。優秀な「アイデアマン」は「ひらめきによってアイデアを生んでいる」と思っている人もいるかもしれませんが、それはまったくの間違いであり、この公式にのっとってアイデアを生んでいるのです。

新しいアイデアについて語る菅付雅信さん

大量のインプットはやはり読書から。スキマ時間を活用せよ

ただし、既存のアイデアどうしの組み合わせを考えるのは、簡単ではありません。ヤング氏は、アイデア創出の公式を著書に記した理由について、「公式を開示したところで、既存のアイデアの組み合わせを考える方法を明かしたわけではないため、真似できる人はそう多くないから、痛くもかゆくもない」といった意味のことを語っています。

とはいえ、新しいアイデアを考えるために大量のインプットが必要であることは大前提であり、その事実は変わりません。そして、これまで私が仕事を通じて会ってきた、大きな成果を挙げているクリエイターやビジネスパーソンは、例外なく大量のインプットを繰り返しています

しかし、ビジネスパーソンが読書に使える時間は限られています。それに、脳は睡眠中に情報の整理をしていますから、睡眠を削ってまでインプットをしたほうがいいという考えには賛同できません。脳の情報整理だけでなく、心身の健康を考えても、睡眠時間は1日に6時間以上確保したほうがいいでしょう。

そこで、スキマ時間を有効活用してほしいのです。電車などに乗っている移動中、みなさんはなにをしていますか? ゲームをしたりSNSのチェックをしたりと、スマホをいじっているだけの人も多いはずです。総務省の調査によると、通勤時間の全国平均は1時間19分だそうです。もちろん車通勤の人もいるわけですが、電車通勤の人なら通勤時間だけでもかなりの読書時間を確保できるはずなのです。

大量のインプットはやはり読書からだと話す菅付雅信さん

優れたアウトプットを生む “手軽な方法” など存在しない

そのようなインプットを経て、最終的にはアウトプットに行き着きます。先に、「新しいアイデアは既存のアイデアどうしの組み合わせ」だとお伝えしました。新しいアイデアは、新しいアウトプットと言い換えてもいいでしょう。

では、ただ「新しい」だけではない「優れたアウトプット」とはどのようなものでしょうか? それは、既存のアイデアどうしの、「意外性のある組み合わせ」から生まれるものです。

たとえば、不朽の名作と呼ばれるSF映画『2001年宇宙の旅』は、「未来」と「クラシック音楽」の組み合わせですし、世界一有名なミュージックビデオであるマイケル・ジャクソンの「スリラー」は、「ゾンビ」と「ミュージカル」の組み合わせでした。これらが登場した当時は、まさに「意外性のある組み合わせ」でしたし、大半の人たちはそんな組み合わせからできていることに考えが至ることすらなかったでしょう。

もちろん、そのような意外性のある組み合わせを考えるのは、先のヤング氏も著書に記していたように簡単ではありません。優れたアウトプットを生むための手軽な方法など存在しないのです。

ただ、私からアドバイスを送るなら、「とにかくインプットをして組み合わせを考え続ける」ことを強くすすめます。まずは、自分が携わっている仕事のジャンルでこれまでにヒットした製品やサービスなどについてインプットを重ねます。そして、それらのアイデアがどのようなアイデアの組み合わせで構築されているのか、あるいは、それを乗り越えるアイデアをつくるにはどうすればいいかとひたすら考え続けるのです。

そうするうちに、「こんな組み合わせができそうだ」といった、アイデアどうしの組み合わせのパターン、型のようなものが見えてきます。そのパターンを転用するかたちで、「自分だったらどんなアイデアどうしを組み合わせてみようか?」「その結果、どのようなものができるだろう?」と考えることもできます。そういった経験を重ねていくのが、周囲から評価される「アイデアマン」になるための第一歩であると思うのです。

既存のアイデアどうしを組み合わせるという方法論は、極めて単純明快で誰にでもできそうに思えるかもしれません。しかし、「シンプルがゆえに奥深い」という言葉もあるように、その方法論を実践するのは、とても難しい作業です。そう認識したうえで、それでもインプットをして組み合わせを考え続けるしかないのです。

誰にでも思いつく組み合わせは、誰にでも考えられます。まだ誰も思いついたことのない組み合わせを考えて初めて、周囲が驚くような成果を挙げることにつながります。それができてこそ、みなさんそれぞれの仕事における「真のプロ」と言えるのではないでしょうか。ただ与えられた仕事を人並みにこなしてなんとなく給料をもらうのではなく、プロだと自負をしたいのなら、「インプットをして組み合わせを考え続ける」ことを忘れないでください。

アイデアを生み出す秘密についてお話しくださった菅付雅信さん

【菅付雅信さん ほかのインタビュー記事はこちら】
選ぶべきは「すごい作品」。インプットする情報の「意識的な選択」が、良質なアウトプットを生む
読書は「暇な時間にするもの」ではない。仕事の一環として日常のルーティンに組み込もう

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