「未開拓分野のマーケティングを任されたが、結果が出ず、相談できる人もいない」
「将来独立したいが、どんな経験や実績を積んで準備をすればいいかわからない」
このように、自己流の頑張りに限界を感じたことはありませんか?
そんなときは、あなたの理想の人生を実現するうえでお手本となる、憧れの人「メンター」を探してみてはいかがでしょう。メンターをもつメリットや、具体的な見つけ方と接し方について説明します。
メンターを見つければ、“価値ある1割” に力を注げる
「メンターをもてば、迷いや疑問、無駄な努力を捨てて、“価値ある1割” に力を注げる」。『メンターが見つかれば人生は9割決まる!』の著者で、エキスパート育成の専門家である井口晃氏はこう述べています。
これは、SF作家シオドア・スタージョン氏の言葉から生まれた「スタージョンの法則」に基づく考えです。その意味は「何事も9割はゴミ(不要なもの)」。逆に言えば残りの1割にこそ価値があるということだと、井口氏は言います。
しかし、自分だけで “価値ある1割” を見つけるのは容易ではありませんね。そこで大いに助けとなるのが、思考と行動の規範、指針となる人の存在です。松下幸之助氏の最愛の弟子と称される、パナソニック終身客員・木野親之氏は、松下氏との師弟関係について次のように述べています。
「師をもつということは、自分の生き方の規範をもつということ。ひとりでは偉業は達成できません」
(引用元:Forbes JAPAN|「経営の神様」松下幸之助 最愛の弟子、木野親之かく語りき #新しい師弟関係)
木野氏にとって、松下氏は人生の規範であり、よきメンターであったに違いないでしょう。
大前提は「自分がどうなりたいか」を明確にすること
では、どうすればメンターは見つかるのでしょうか。前提として井口氏は、「自分がどうなりたいか(ビジョン)」を明確にする必要があると述べます。そうでないと、そもそも誰をメンターにしたらいいかが定まらないからです。
また、ビジョンは背伸びしているくらいでいいとのこと。現状の延長線上でビジョンをつくると、小さくまとまってしまうためです。たとえばセールスパーソンなら、社内トップになることより、業界から一目置かれる業績を挙げることを目指しましょう。
メンターの「3条件」
ビジョンを明確にしたら、3つの条件をもとにメンターを探します。
- あなたの理想の仕事人生を実現するための「ロールモデル」になってくれる
- 本当にあなたが欲しい結果を得ている
- あなたの「頑張りの基準」を上げてくれる
「ロールモデル」とは、あなたが本当にやりたい仕事で成功している人のこと。その人が、あなたが欲しい結果を本当に得ているかどうかを見極めることも大事です。一般的には成功者であっても、あなたが惹かれない人をメンターにする意味はありません。そして、あなたのやる気を刺激して、「いまの自分じゃだめだ」と思わせてくれるような、頑張りの基準を高めてくれる人をメンターに選びます。
メンターは、仕事上で関わりがある人でもいいですし、成功している経営者など少し遠い存在の人から探してもいいでしょう。ただし、井口氏いわく、織田信長や坂本龍馬といった歴史の偉人はメンターにしないほうがよいとのこと。「理想の仕事人生」のロールモデルとするには、時代背景が違いすぎるためです。
メンターを見つけるには「本を読む」か「直接会う」
仕事上で関わりがない人をメンターにしたい場合、メンターの見つけ方には次の4つの方法があります。
- メンターが書いた本を読む
- メンターが講師を務める勉強会やセミナー、講習会を受ける
- 小人数に限定したメンターのプログラムを受講する
- 直接会って1対1で学ぶ
ビジネス書作家・後田良輔氏いわく、まずは最も簡単な「本を読む」という方法を試すとよいとのこと。どの本を読めばいいかわからない人は、名言集を読むといいそうです。そこから自分がグッときた人を見つけ、その人の自伝や著書を読み漁っていくのです。
また、メンターとしたい人がセミナーなどを開催している場合は、それに参加して直接話を聞くという方法もあります。井口氏によるとこのケースでは、大規模の勉強会などに参加してから少人数制のプログラムに参加するといいそう。憧れの人を前にしての緊張がほぐれて、スムーズに距離を縮められるとのことですよ。
メンターをまねる4ステップ「発言→行動→思考→感情」
自分にぴったりのメンターを見つけたら、やることはひとつ、「まねをする」です。専門用語では「モデリング」と言い、脳科学による裏づけもあります。
近畿大学医学部准教授の村田哲氏によると、脳にある「ミラーニューロン」という神経細胞には、相手の動きをまねすることで、その行為の意味や相手のもつ感情を理解する働きがあるのだそう。「まねをする」とはじつにシンプルな方法ですが、侮れないものですね。
そうはいっても、漠然とまねるだけでは不安なもの。そこで、井口氏がすすめる「発言→行動→思考→感情」の4ステップでまねをしましょう。
ステップ1「発言」
メンターの口癖やよく言っていることのほか、声の大きさや言葉遣いをまねします。たとえば、部下に慕われるメンターのポジティブな口癖、発言力があるメンターのはきはきとした話し方をまねするといった具合です。
発言が変われば思考も変わると、井口氏は言います。憧れのメンターにまずは言葉から近づきましょう。
ステップ2「行動」
「脳の活性化のために、仕事前の30分間ウォーキングをする」このように、メンターの習慣やスケジュールがわかったら、あなたもまねしてみましょう。
また、「行動してから物事を考える」か「しっかり計画してから行動するか」といった行動パターンのまねも効果的とのこと。数々のヒット商品を生み出すメンターが、感性よりも綿密な計画を重視しているとわかったのなら、その計画性をまねしてみてください。
ステップ3「思考」
「なぜ、これをやったのか?」メンターが行動を起こした理由を探り、その思考をまねしましょう。行動の理由は、著書を読んだり直接聞いて確かめたりするほか、自分で想像して考えることも大切です。
たとえば、業績不振の組織を立て直したメンターがコミュニケーションの円滑化に最も力を入れていた場合。その理由を探った結果、メンターが「組織の決断の遅さに問題がある。決断を速めるにはコミュニケーションの改善が必要だ」と考えたとわかったのなら、その考え方を自分も実践するのです。
ステップ4「感情」
最も難易度が高いのが感情のモデリング。ステップ3と同様に行動の理由を探るのですが、よりメンターの人間性を掘り下げることになります。
たとえば、先述の業績不振の組織を立て直したメンターなら、「苦境のあとにはチャンスが来る」「ひとりで乗り越えられないことも、力を合わせれば乗り越えられる」という気持ちが根幹にあるのかもしれません。そんなメンターの人間性を理解することで、自分自身にも取り入れましょう。
メンターには99.9%従おう
モデリングの過程で、「これはまねしていいの?」と思うことがあるかもしれません。しかし、ハーバード大学医学部の医療機関の元研究員で、医学博士の川﨑康彦氏は自身の経験をもとに、「メンターには99.9%従うべき」と言います。
川﨑氏は、パッションテスト(自己発見法のひとつ)の創始者ジャネット・アットウッド氏をメンターにもち、彼から1日1回瞑想するようにアドバイスされたそうです。当初は半信半疑だったものの、しだいに新しいアイディアが浮かぶようになり、手ごたえを感じたとのこと。
川﨑氏は、この経験を脳科学の観点から「無意識の行動パターンで縛られている脳を開放して、新たな回路を生み出すきっかけになった」と分析しています。やる前からダメだと決めつけずに、よほどのことがない限りメンターには従ってみましょう。
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自己流の頑張りでは限界が来てしまっても、メンターがいれば限界を越えられる可能性があります。さっそくあなたも、メンターを探してみてくださいね。
(参考)
井口晃 (2015), 『メンターが見つかれば人生は9割決まる!』, 出版社名.
Forbes JAPAN|「経営の神様」松下幸之助 最愛の弟子、木野親之かく語りき #新しい師弟関係
リクナビNEXTジャーナル|人生を変える「メンター」の見つけ方とは?
NIKKEI STYLE|脳の中にある「物まね神経」のすごい働き
川﨑康彦 (2016), 『ハーバードで学んだ脳を鍛える53の方法』, アスコム.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。