現代社会を生きる私たちは、日々膨大な情報にさらされ続け、長時間のデスクワークをし、常に脳を酷使せざるを得ない環境下にいます。そのような状況のなかで当然引き起こされる問題と言えば「脳の疲れ」でしょう。
今回は、多くのビジネスパーソンに共通の悩みでもある「脳の疲れ」の症状を7つ指摘します。当てはまるものがあったら、脳が疲れている証拠です。最後に対策もご紹介しますので、ぜひ改善を図っていきましょう。
【症状1】身体の疲れがとれない
「休み明けなのに身体がだるい」「肩こりがひどい」「眼の奥が重い」など、日々の生活で身体面の疲れを感じることはないでしょうか。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏は、「すべての疲労は脳の疲れが原因」と警鐘を鳴らします。
過度な仕事や人間関係の悩みなどを脳はすべてストレスとして受け取り、さまざまな指令を出して対処にあたります。ところが、強いストレスが続くと脳の処理量が一気に増えてしまうことに。結果、本来の働きができなくなり、身体に「疲れた」という警報を送るそうです。身体面の疲労がとれないときは、脳が疲れているのではないかとまずは疑ってみましょう。
【症状2】物事に飽きやすい
「仕事の途中でなぜか飽きてしまい、手が止まる」ということはありませんか。「飽きる」という感情も、脳の疲労のサインです。
前出の梶本氏いわく、 同じ作業を長時間続けると、脳内の一定のネットワークに負荷が集中し、その部分の神経細胞が酸化ストレスにさらされてしまうとのこと。これにより、脳の神経細胞は劣化し、情報処理能力が低下。脳のネットワークから「同じ神経細胞を使わないで」とストップがかかり、それが「飽きた」という感情として表れてしまうそうです。
【症状3】ネガティブ思考から抜け出せない
「過去の失敗が頭から離れない」「今後の仕事に対する不安がどうしても拭えない」など、仕事で悩みはつきものですよね。しかし、悲観的な思考をずっと繰り返してしまう場合は要注意。それもまた脳の疲れのサインです。
『世界のエリートがやっている最高の休息法』著者で精神科医の久賀谷亮氏いわく、過去や未来のことを悲観してネガティブに考え続ける反芻思考は、脳がぼーっとしているときに働くDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)が過剰活動している状態なのだとか。これにより、脳のエネルギーが浪費されて疲労に陥ると久賀谷氏は指摘します。内省はたしかに大切ですが、悲観視が過ぎる場合は注意が必要ですよ。
【症状4】怒りを制御できない
些細なことでもイライラを抑えられない……。こんなふうに怒りを制御できない背景にも、脳の疲れが関係している可能性があります。
医師で臨床脳研究の第一人者である柿木隆介氏によれば、怒りをはじめとする感情の制御・コントロールは、大脳新皮質のなかにある前頭前野が担っているそうです。しかしじつは、脳の疲労で前頭前野の血流が低下することが、2004年に発表された論文で示唆されています。つまり、脳の疲れが原因で前頭前野の活動が鈍くなった結果として、怒りの情動を抑えられないという症状が現れてしまうのです。
【症状5】物忘れやうっかりミスが多い
「取り次ぎの相手の名前を忘れた」「上司から指示された急ぎの要件をやり忘れた」など、物忘れやうっかりミスも脳の疲れによるもの。早稲田大学研究戦略センター教授の枝川義邦氏は、「物覚えが悪いのは、脳のワーキングメモリが鈍っている証拠」だと説明します。
ワーキングメモリは一時的な記憶を脳に保存する役割を担っており、その日に会った人の名前ややるべきタスクを覚えておくといった働きをします。ところが、脳が疲労している場合、このワーキングメモリの容量が小さくなって記憶力が低下してしまうのだそう。物忘れやミス連発の背後には、やはり脳の疲れが潜んでいるのです。
【症状6】文章や会話を理解しづらいときがある
「資料を読んでも内容が頭に入ってこない」「相手の話がよく理解できず、会話に疲れてしまう」といった状態も、脳の疲れによるワーキングメモリの機能低下が関係しています。
たとえば文章を読むときは、直前に読んだ文の内容を一時的に記憶しておき、次の文章とつなげることで文脈が理解できますよね。会話も同様、それまでの話を覚えておき、それに応じて言葉を返すことで成立します。これらに役立っているのがワーキングメモリです。ところが、脳が疲労してワーキングメモリの容量が小さくなると、その機能が十分に発揮されなくなります。結果、文章の内容をうまくとらえられなかったり、会話のテンポについていけなかったりといった状態に陥るのです。
【症状7】やる気が起きない
「目標に到達しても達成感を感じられない」「仕事のモチベーションが上がらない」など、意欲が減退していると感じていませんか。じつは、脳の疲労が続くと、 やる気に関わる神経伝達物質「ドーパミン」の放出が妨げられるのです。
私たちの脳はエネルギー源として主にグルコースを使いますが、脳の酷使はグルコースの大量消費を促します。その過程で大量に発生するATP(アデノシン三リン酸)が、ドーパミン放出をブロックしてしまうのだそう。イマイチやる気が起きないのは、脳を使いすぎて疲れているからなのです。
以上をまとめるとこうなります。みなさんはいくつ当てはまったでしょうか?
改善策はこれ!
脳の疲れをとるために、脳神経外科医の菅原道仁氏が提案する方法をご紹介しましょう。それは、「アクティブレスト」と「パッシブレスト」という2つの休息法の使い分けです。
アクティブレストは「積極的休養」とも呼ばれます。身体を動かしたり趣味に興じたりして脳をリフレッシュさせる方法です。特におすすめしたいのが、緑豊かな公園でのウォーキング。千葉大学の研究で、森を散歩することでストレスホルモンのコルチゾールが16%も低下したという結果が出ています。
一方のパッシブレストは「消極的休養」です。家で何も考えずぼーっとしたり軽く横たわったりといった過ごし方が該当します。ここでは、呼吸に意識を向ける「マインドフルネス瞑想」をすすめましょう。前述の久賀谷氏いわく、マインドフルネス瞑想を行うことでDMNの過剰活動が抑えられるのだそう。さらに、これを継続するとコルチゾールが出にくい状態になるとのこと。疲れにくい脳に変わり、脳疲労の予防にも役立つでしょう。
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脳の疲れを解消して、仕事のパフォーマンスを上げていきましょう!
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。
(参考)
NIKKEI STYLE|すべての疲れは「脳の疲れ」 脳疲労をためない新習慣
マイナビウーマン|疲労と睡眠の医学博士が教える。「飽きた」は脳が疲れているサインだった!
NIKKEI STYLE|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣
久賀谷亮(2016),『世界のエリートがやっている最高の休息法』, ダイヤモンド社.
日経Gooday|脳科学から「怒り」のメカニズムに迫る! カチンと来ても6秒待つと怒りが鎮まるワケ
J‐STAGE|脳疲労と脳血流量の関係性
howstuffworks|Does Your Brain Get Tired Like the Rest of Your Body?
STUDY HACKER|脳をリセットできる人=仕事の成果を出せる人。脳の疲れが本当に無くなる方法、教えます
NATIONAL GEOGRAPHIC|自然に癒される