社会人として「学び」が重要であることは理解しているものの、なにを学べばいいのかわからない人もいるでしょう。そこでお話を聞いたのは、主にフリーランス女性と企業との仕事のマッチングなどによって女性のキャリア支援を行なう、株式会社Warisの共同代表である田中美和さん。これからのキャリアにつながる学びのために意識すべきことを教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
田中美和(たなか・みわ)
1978年5月7日生まれ、千葉県出身。株式会社Waris共同代表。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事。国家資格キャリアコンサルタント。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日経BPに入社。編集記者として、働く女性向け情報誌『日経ウーマン』を担当。取材・調査を通じて、延べ3万人以上の働く女性の声と接する。女性が生き生きと働き続けるためのサポートを行なうべく独立し、2013年、多様な生き方・働き方を実現する人材サービス企業として株式会社Warisを創業し、共同代表に就任。フリーランス女性と企業との仕事のマッチングやリスキリングによる女性の就労支援に取り組む。近年は、女性役員紹介事業を通じて意思決定層の多様性推進にも尽力する。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
将来のありたい姿から逆算して学ぶべきことを見つける
生涯学習といった意味で学びをとらえるなら、それこそ自分の興味があることのなかからなにを学んでもいいでしょう。しかし、仕事に活かす、キャリア構築に活かすという意味で言うなら、意識したほうがいいことがあります。
それは、将来の自分の「ありたい姿」です。キャリアは、長い時間をかけてつくられるものです。忙しい社会人としてはつい目の前のことばかり意識してしまいがちですが、よりよいキャリアを築きたいというのなら、「将来的にこんなビジネスパーソンになっていたい」という姿を思い描き、そこから逆算して学ぶべきことを見つけるのが大事ではないでしょうか。
「いまはマーケティングの仕事をしているけれど、将来的にはデータアナリストとして活躍したい」という人なら、いまの仕事を続けながらデータ分析などについて学んでいくのが賢明です。
また、そこから「実務経験」につなげることも考えましょう。ただテキストなどから学ぶだけなのか、それとも実際に仕事に活かしてみるかでは、学びの幅や深さ、スキルとしての定着度に大きな違いが出てくるからです。先の例で言えば、新たに学んだデータ分析の手法をいまのマーケティングの仕事で使ってみるのです。
また、少し補足的に言うと、将来のありたい姿は、仕事内容だけから考えればいいというものでもありません。「いいキャリア」というのは人によってとらえ方が違うものですが、キャリアには「働き方」も大きく影響を与えます。
よくある事例だと、いまは対面必須の仕事をしているけれど、在宅ワーク中心に働きたいというケースです。特に女性の場合だと、子育てなどの影響もあってそのような希望をもつ人が多いものです。
ところが、在宅ワークをするのは絶対に難しいという業種や職種も存在します。在宅で働きたいという人なら、そうしやすい業種や職種を選択するほうが、自分にとっての「いいキャリア」につなげることができるでしょう。
中長期的な目線だけでなく、短期的な目線ももつ
話を学びに戻しましょう。先に、将来の自分のありたい姿から逆算的に学ぶべきことを考えるのがポイントだとお伝えしました。これは、中長期的な目線から学んでキャリアを築くための考え方です。
でも一方、短期的な目線からの学びというものもビジネスパーソンにとっては欠かせません。
たとえば、いまの仕事の進め方にどうしても多くの時間がかかってしまうのであれば、効率的に仕事を進めるためにプログラミングを学ぶのもひとつの方法でしょう。そういった学びには即効性があるため、成果につながりやすいのです。
中長期的な目線をもちながらも、短期的な学びもおろそかにしない――。どちらの学びも大切なのです。
これまでの経験や知識にこだわらず、素直に学ぶ
そうして学んだことも、実際の仕事に活かせなければもったいないものです。学びをキャリアに活かすためのポイントとして、ここでは「アンラーニング」を紹介しておきましょう。
アンラーニングとは、日本語では「学習棄却」と訳され、自身がもつ知識やスキル、価値観を振り返り、それらのなかから新たな学びを阻害するものを手放す力を意味します。
新入社員ならともかく、ある程度の仕事の経験を積んできた社会人であれば、「この仕事はこうやるものだ」「こうやってきた」といった、これまでの学びが自分のなかに蓄積しています。
せっかく新たに学んだとしても、過去の学びを優先して「自分にはいままでのやり方が合っている」と拒絶してしまえば、新たな学びが自分のなかに定着しづらくなってしまいます。だからこそ、アンラーニングが重要なのです。
このことは、中堅以上のポジションにある社会人だけに言えるものではありません。日進月歩でテクノロジーが進化するなか、新たに登場したツールを活用すれば、これまでより成果を出しやすくなるといったことも日常的に起こっています。こうしたことは、若い社会人にとっても人事ではないのです。
アンラーニングという言葉を使いましたが、簡単に言うと「素直さ」が大切だということです。「こんな新たな領域が出てきているのか」「なんだかおもしろそうだ」と、新しいことを素直に受け入れる。それこそが、学びの真髄かもしれません。
【田中美和さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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