人間関係でモヤモヤするなら「セルフ・モニタリング」を。認知の歪みを修正でき、気分がふわりと楽になる

モノトーンの、切り絵で表現された人間関係が崩れている様子

深く悩んでいるわけではないけれど、「どうも職場の人の態度が引っかかる」「先輩に嫌われてるような気がする」などと人間関係にモヤモヤしているならば、認知行動療法のセルフ・モニタリングを簡易的に始めてみてはいかがでしょう。「不快な考え」が「快適な考え」に変わるかもしれません。筆者も試してみました。

認知行動療法の「セルフ・モニタリング」

認知行動療法におけるセルフ・モニタリングとは、そのときどきに自分がどう考えたか、どう振る舞ったか、どんな気分であったかなどを記録することによって、気づきをもたらす技法のことです。

早稲田大学 総合研究機構 応用脳科学研究所(※1)教授の熊野宏昭氏らによれば、自分の問題を整理するには具体的に自分を観察することが大切なのだそう。

回顧的に(頭のなかだけで)自分を観察した場合「印象的なことだけに焦点を当てる」「漠然としたイメージしか浮かばない」となる可能性がありますが、セルフ・モニタリングの場合は物事について具体的に書き出していくので、自分の状況を客観的な事実として理解できるとのこと。

(※1:参考資料の1999年執筆当時は東北大学医学系研究科人間行動学分野)

家でくつろぎながらセルフモニタリングを始めたシャツとジーンズ姿の女性

認知行動療法の「認知的再体制化」

前出の熊野氏らによると、セルフ・モニタリングは認知的再体制化(cognitive restructuring・認知的再構成法ともいう)の “始まり” なのだそうです。認知的再体制化とは、思い込みやネガティブな思考(極端な認知の歪み)を修正し、適応的な行動や問題への対処を可能にする心理技法のこと。

「その考えは妥当なのか?」「ほかの考え方はないか?」などと確認しつつ、歪んだ認知とは逆の “適応的な考え” にはどういったものがあるのか考え出し、適応的に考える練習を行なって、感じ方や行動がどう変化していくのか繰り返し確認していくのだそう。

個人的なセッションを行う精神科医、あるいは心理学者、もしくはカウンセラーと患者の女性

通常、こうした取り組みは専門機関で治療者と患者とが話し合いながら行なうとのこと。今回こちらの記事では、人間関係の悩みがモヤモヤする程度の(深刻ではない)人に向け、簡易的にひとりでセルフ・モニタリングと認知的再体制化を行なう方法を紹介していきます。

ストレスが強いと客観性を失う

認知的再体制化では、自動思考と呼ばれる「その場その場で自然に湧き起こる思考やイメージ」に注目します。

認知行動療法研修開発センター理事長(※2)で精神科医の大野裕氏によると、いつもは瞬間的な判断を助けてくれる自動思考ですが、ストレスが強い状況では客観的な判断ができなくなるそうです。

臨床心理士で公認心理師の深谷篤史氏が代表を務める「如月心理相談室」のサイトでは、客観性を失った極端な自動思考がいくつか紹介されています。

――たとえばすべて両極端に考える白黒思考や、なんでも自分のせいだと考える自責思考、全部誰かのせいだと考える他責思考、すべて最悪の結果だと考える破局化思考、何かにつけて「こうあるべきだ」と考えるべき思考、ことごとく悪く解釈するマイナス化思考、嫌なことが一度あると今後も頻繁に起きると考える過度の一般化、自分にも他者にも否定的なレッテルを貼るラベリング、悲観的に他者の心を読みすぎたり将来を予測したりする飛躍的思考など――

こうした極端な考えに偏っていることに気づき、考え直すスキルが認知的再体制化なのだそうです。

(※2:参考資料「第103回日本精神神経学会総会 シンポジウム 認知再構成法」当時は慶應義塾大学 保健管理センター教授)

極端になりがちな自動思考に陥っているアフリカ系アメリカ人

認知的再体制化の記録シート

セルフ・モニタリングから始める認知的再体制化は、以下項目のシートを用いて日常的に行ないます。

  1. 状況:ストレスフルな客観的事実を書く
  2. 気分:↑その際の気分と程度を0~100%で示す
  3. 自動思考その際に湧き起こった自動思考と確信の程度を0~100%で示す
  4. 根拠:自動思考の根拠として客観的事実を書く
  5. 反証:湧き起こった自動思考が妥当ではないという視点で反証する
  6. 適応的思考:根拠と反証をふまえて新たに考え直し、その確信の程度(0~100%)を示す
  7. 気分の変化:気分がどう変化したか記入し、程度(0~100%)も示す

以下は記入例です。

認知的再体制化のフォーマットと記入例

(※参考:如月心理相談室|認知的再体制化

では実際にやってみましょう。

セルフ・モニタリングと認知的再体制化をやってみた

いざというときすぐ書ける、すぐ確認できるといった観点で、持ち運びに便利なメモ帳サイズのノート(A6・105×148mm)に書いていくことにしました。片頁にひとつの出来事を書くので、見開きに2種類の出来事が入ります。

今回はひとりで簡易的に行なうため、話し合いや実践練習といったプロセスがないので、モニタリングの記録から⇒そのまま最後の項目「気分の変化」まで書き進めてしまいます。

筆者がセルフ・モニタリングと認知的再体制化を実際にやってみたもの、手書き

(補足※「適応的思考」の確信の程度は両出来事ともに70~80%くらい)

こうしてやってみたところ、記録も考え直しも意外とスムーズに行なえました。自動思考が極端になっていただけで、バランスのとれた考え方は頭のすみっこに隠れていたのかもしれません。

さらに興味深いのは、「適応的思考」で書いた前向きな内容を強く確信していなくても、気分の変化が生じたこと。考え直す取り組みを行なっただけで、たとえ心から考え直していなくても、気分が改善したのです。

認知行動療法における「セルフ・モニタリングと認知的再体制化」は、「気分をよくするための考えを形成してくれるテクニック」だと実感できました。

***
今回紹介したのは、人間関係の悩みが軽症な方向きのセルフケアです。眠れない、気分が落ち込んで食事ものどを通らないなど、人間関係の悩みが深刻な方はすぐにでも周囲や専門家に相談してくださいね。

(参考)
医書.jp|糖尿病患者のセルフケアに「認知的再体制化」をどのように生かすか (糖尿病診療マスター 7巻5号)
精神神経学雑誌オンラインジャーナル|第103回日本精神神経学会総会 シンポジウム|認知再構成法
厚生労働省|【目標設定、セルフ・モニタリング、自己強化の例】
熊野宏昭のページ|認知行動療法
如月心理相談室|認知的再体制化

【ライタープロフィール】
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