ノルアドレナリンの効果をビジネスパーソン向けにまとめてみた

ノルアドレナリンの効果まとめ1

「カテコールアミン」の一種であり、交感神経の神経伝達物質として放出される「ノルアドレナリン」は、アドレナリン受容体に作用して血圧上昇や心拍数増加をもたらすことで知られていますが、仕事や勉強においてはどのような効果を発揮するのでしょうか?

ノルアドレナリンは、ドーパミン・セロトニンと並び、脳内で重要な働きをします。脳全体を活性化させたり、記憶力を向上させたりといったメリットが期待できますよ。

ノルアドレナリンの効果を、仕事や勉強で発揮する方法をご紹介します。

ノルアドレナリンとは

効果を解説する前に、まずはノルアドレナリンの概要を把握しておきましょう。

ノルアドレナリンとは、脳内の情報伝達に欠かせない「三大神経伝達物質」のひとつです。残りの2つは、ドーパミンとセロトニン。精神医学者の中根允文氏によると、三大神経伝達物質が欠乏すれば、脳が正常に働けなくなるそうです。

脳生理学者の有田秀穂氏は、三大神経伝達物質を「心の三原色」と表現しています。「色の三原色」や「光の三原色」のように、ノルアドレナリン・ドーパミン・セロトニンの割合が、私たちの心の「色合い」を決めているのです。

  • ノルアドレナリン:ネガティブの【青】
    緊張感や危機感をつかさどる
  • ドーパミン:ポジティブの【赤】
    快感や意欲をつかさどる
  • セロトニン:安定の【緑】
    安らぎや充足感をつかさどる

ノルアドレナリンと似た言葉に「アドレナリン」がありますよね。両者には、神経伝達物質かホルモンかという違いがあります。

  • 神経伝達物質:神経から神経へと情報を伝える物質
  • ホルモン:血液に運ばれて全身に作用する物質

主に、ノルアドレナリンは神経伝達物質として、アドレナリンはホルモンとして働きます。ノルアドレナリンがホルモンとして、アドレナリンが神経伝達物質として働くこともありますが、その割合は軽微です。

また、ノルアドレナリンとアドレナリンの生理作用は似ていますが、作用の強弱が異なります。生理学を研究する山本順一郎教授(神戸学院大学)の『運動生理学 第2版』(2010年、化学同人)を参考に、比較してみました。

【ノルアドレナリン】

  • 心拍数を上げる作用が弱め
  • 血圧を上げる作用が強め
  • 胃腸の運動を抑える作用が弱め

【アドレナリン】

  • 心拍数を上げる作用が強め
  • 血圧を上げる作用が弱め
  • 胃腸の運動を抑える作用が強め

それでは、ノルアドレナリンの効果を詳しく見ていきましょう。

ノルアドレナリンの効果まとめ2

ノルアドレナリンの効果

ノルアドレナリンは、私たちにどんな効果をもたらしてくれるのでしょうか?

ノルアドレナリンの役割をひとことで言えば、危機と闘ったりストレスから逃げたりするために、心身を「戦闘モード」にすること。ノルアドレナリンは、「闘争と逃走(fight or flight)」をつかさどる物質とされています。

道を歩いていたら、目の前にバイクが飛び出してきたのを想像してみてください。ビックリして目がさえ、心臓はバクバク高鳴り、身体はすばやく飛びのくでしょう。

このような危機反応は、ノルアドレナリンなどの分泌によって起こるもの。危機的状況でとっさに行動できるよう、身体が最適化されます。極度に緊張しているときに食事が喉を通らなくなるのも、戦闘・逃走に必要ない消化器の働きが抑えられるためです。

ノルアドレナリンのこのような作用は、仕事や勉強においてどのような効果を発揮するのでしょうか?

脳を活性化する

ノルアドレナリンは、脳を覚醒させ、パフォーマンスを高めてくれます。

精神科医の樺沢紫苑氏によると、ノルアドレナリン神経系は脳内の「青斑核(せいはんかく)」という部分から、大脳辺縁系や大脳皮質、視床下部など広い範囲につながっているそう。ノルアドレナリン神経系が活性化すれば、脳が広範囲に刺激され、脳機能の全般的な向上が期待されるのです。

記憶力を向上させる

ノルアドレナリンの作用により、記憶力が向上しうることもわかっています。

フランス国立科学研究センターの研究者らによる1988年に発表された実験だと、青斑核を刺激したマウスは、普通のマウスに比べ、5週間前の出来事をよりよく記憶できていたそう。ノルアドレナリンは記憶力および注意力に影響すると解釈されました。

ノルアドレナリンが分泌されると、脳は「危機的状況下における教訓」をしっかり学習しようとするので、記憶力が研ぎ澄まされるのです。

情報処理のスピードを上げる

前出の樺沢氏によれば、ノルアドレナリンが分泌されると脳の前頭前野が活性化し、ワーキングメモリのパフォーマンスが高まるそう。たとえば、「18+26」を暗算しようとすると、「18」「26」という数字を一時的に覚える必要がありますよね。このような「情報処理に必要な情報」を短時間だけ記憶するのに使われるのが、ワーキングメモリです。

ワーキングメモリが活発になれば、一度にたくさんの情報処理が可能になります。思考スピードが上がったり、会話や文章をすばやく理解できたりと、仕事・勉強においてさまざまなメリットが得られるでしょう。

ほどよい緊張感をもたらす

適度な緊張感があるほうが仕事・勉強がはかどる……ということは、みなさんも実感しているでしょう。ノルアドレナリンは、私たちに緊張感・危機感をもたらし、行動に駆り立ててくれます。締切間近にすさまじい集中力を発揮して仕事を片づけられたり、追い詰められたとき「火事場の馬鹿力」が出たりするのも、ノルアドレナリンによるものです。

反対に、ノルアドレナリンが不足していれば、緊張感なくダラダラ過ごしてしまい、仕事や勉強がいっこうに進まない……ということにもなりかねません。

以上のように、ノルアドレナリンには、仕事・勉強におけるパフォーマンスを高めてくれる効果が期待できるのです。

ノルアドレナリンの効果まとめ3

ノルアドレナリンのデメリット

ノルアドレナリンは、仕事や勉強にポジティブな効果をもたらしてくれることもある一方、もちろんデメリットも。

ノルアドレナリンのもたらす「緊張感」は、よくも悪くも作用します。奮起し、パワーが出るなら「いい緊張」ですが、強すぎるストレスで心が潰れてしまうようなら「悪い緊張」です。

前出の有田氏によれば、ノルアドレナリンの分泌が増えすぎると、緊張で “あがった” ような状態になって脳の働きが阻害され、ひどい場合にはパニック障害につながる恐れもあるのだとか。実際、パニック障害の治療では、ノルアドレナリンの分泌を抑える手法がとられるそうです。

ノルアドレナリンが少なすぎる/多すぎると、以下のようになります。

◆ノルアドレナリンが少なすぎると……

  • 緊張感がなくなる
  • 脳の働きが低下する

◆ノルアドレナリンが多すぎると……

  • ストレス過多になる
  • 脳の働きが悪くなる

ノルアドレナリンは、少なすぎても多すぎてもいけません。ほどよく分泌されることが重要です。以下でノルアドレナリンの効果を得る方法を紹介しますが、あまり自分を追い込みすぎず、ストレス過多にならないようご注意ください。

ノルアドレナリンの効果まとめ4

ノルアドレナリンの効果を得る方法

ノルアドレナリンの効果を仕事や勉強に活かすには、どうすればよいのでしょうか?

締切を設ける

ノルアドレナリンの分泌を促しパフォーマンスを高める方法として、前出の樺沢氏は「自分で締切を設定する」ことを挙げています。「○日(○時)までに終えないとまずい!」という危機感が、ノルアドレナリンを生むのです。

時間制限によって集中力を高める方法としては、「ポモドーロ・テクニック」が定番。25分の作業と5分の休憩を繰り返す手法です。詳しくは「時短にも効果あり! 25分間の超集中法『ポモドーロ・テクニック』を実際にやってみた。」をご覧ください。

「時間制限がある場所」で作業するのもおすすめ。閉店・閉館の時間が決まっているカフェや図書館などです。クローズの時間になれば立ち去らないといけないため、時間制限を強く意識できます。

緊張感を得られるよう、締切は短いスパンで設けましょう。残り時間が長すぎると、締切に追われている感覚がありません。

たとえば、半年後の試験に向けて勉強する場合、やるべきことを細分化し、小さな締切を複数設けましょう。「問題集を1日5ページずつ進める」「1時間に10問ずつ解く」などと目標&締切を設定すれば、時間制限を意識でき、緊張感が生まれます。

◆締切を設ける方法・ポイント

  • ポモドーロ・テクニックを実践する
  • 時間制限がある場所で作業する
  • 長い残り時間は細分化する

運動する

運動によって脳に刺激を与えることでも、ノルアドレナリンを分泌できます。

スポーツ心理学者の児玉光雄氏がすすめるのは、朝の散歩。たっぷり睡眠をとり、朝一番で10~20分ほど散歩すると、刺激が筋肉から脳へ伝わり、ノルアドレナリン神経系が活性化するそうです。

スポーツトレーナーの和田拓巳によれば、ランニングなどの「リズム運動」や、自分が楽しいと思える運動も有効だとか。ノルアドレナリンだけでなく、三大神経伝達物質の残り2つ、ドーパミン&セロトニンの分泌も期待できます。

◆ノルアドレナリンを分泌させる運動の例

  • 10~20分程度の朝散歩
  • ランニング、縄跳び、踏み台昇降などのリズム運動
  • 自分が楽しいと思える運動

アロマオイルをかぐ

アロマオイルをかぎ、嗅覚を刺激するのもおすすめです。脳神経外科医の田澤俊明氏によれば、いい匂いをかぐと嗅覚をつかさどる脳領域「嗅脳」が刺激され、交感神経が活性化し、ノルアドレナリンの分泌が増えるのだとか。

特に、以下の4種類のアロマオイルが、ノルアドレナリンの分泌を促すそうです。

◆ノルアドレナリンの分泌を促進するアロマオイル

  • グレープフルーツオイル
  • ペッパーオイル(黒こしょう)
  • フェンネルオイル(セリ科の植物)
  • エストラゴンオイル(キク科の植物)

格闘技などを観る

田澤氏によれば、相撲やボクシングなどの格闘技を観ると、闘争本能が刺激され、ノルアドレナリンの分泌が促されるのだとか。たしかに、格闘技を観ていると、選手に感情移入して、自分が闘っているかのように熱くなってしまいますよね。

格闘技にあまり興味がない人は、野球やサッカーなどのスポーツや、アクション映画を観ることでも、同様の効果が得られるでしょう。

◆ノルアドレナリンを増やす観戦・鑑賞の例

  • 格闘技を観る
  • スポーツを観る
  • アクション映画を観る

ご紹介した方法なら、ノルアドレナリンが分泌され、仕事や勉強で効果を発揮するでしょう。

***
ノルアドレナリンの効果を得るには、闘争本能が奮い立つ環境づくりが大切。適度な緊張感を感じつつ、仕事や勉強で高いパフォーマンスを発揮しましょう。

(参考)
鶴巻温泉病院|第15回 闘争モードになるまでの時間 交感神経の働き
樺沢紫苑(2016),『脳を最適化すれば能力は2倍になる 仕事の精度と速度を脳科学的にあげる方法』, 文響社.
有田秀穂(2009),『共感する脳 他人の気持ちが読めなくなった現代人』, PHP研究所.
うつ病 こころとからだ|うつ病が発症するしくみ
當瀬規嗣(2008),『図解入門 よくわかる 薬理学の基本としくみ――メディカルサイエンスシリーズ』, 秀和システム.
山本順一郎 編(2010),『運動生理学 第2版』, 化学同人.
きくな湯田眼科-院長のブログ|ノルアドレナリンとアドレナリン
Sara, S. J. and V. Devauges (1988), "Priming stimulation of locus coeruleus facilitates memory retrieval in the rat," Brain Research, Vol. 438, pp.299-303.
苧阪直行(2012),「前頭前野とワーキングメモリ」, 高次脳機能研究, 32巻, 1号, pp.7-14.
ダイヤモンド・オンライン|締め切りがないと仕事が片付かない、医学的な理由
庵谷賢一・安田史朗(2011),『超快速勉強法 コツコツできない人でも短期間でスイスイ受かる!』, すばる舎.
株式会社グローカル|自身の生産性を向上させるための5つのテクニック
児玉光雄(2016),『超一流アスリートが実践している本番で結果を出す技術』, 文響社.
MELOS|なぜ“筋トレをすると自信がつく”と言われるのか?運動時に出る「ホルモン」の種類と効果
田澤俊明(2015),『脳は死ぬまで進化する 脳外科医がすすめる健脳生活』, 主婦の友社.

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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