「自己肯定感」の重要性が叫ばれるようになって久しいいま、ビジネスパーソンが職場で良好な人間関係を築いていくためにも自己肯定感を高めることが大切だと指摘するのが、「自己肯定力スペシャリスト」の工藤紀子(くどう・のりこ)さん。
自己肯定感に注目して25年を過ぎた工藤さんによれば、「本来的な自己肯定感」である「絶対的自己肯定感」を高めることこそが重要であり、その実現は「5つのステップ」で可能なのだそうです。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
「絶対的自己肯定感」「社会的自己肯定感」とは?
自己肯定感には「絶対的自己肯定感」と「社会的自己肯定感」のふたつの種類があります。それぞれについて解説しましょう。
まず、「絶対的自己肯定感」とは、幼少期に親などの養育者から無条件に愛情を注いでもらい、子ども自身が「どんな自分であっても受け入れられてもらっている」という全肯定の感覚を持つなかで育まれるものです。
その肯定は、何かを持っているとか何かができるといった条件によって左右されるものではありません。自分の存在そのものを丸ごと肯定する感覚です。いわば、何があっても揺るがない自己肯定感。それだけ強い自己肯定感だと言えます。
一方の「社会的自己肯定感」とは、他者からの評価など、相対的評価によって生まれる自己肯定感です。たとえば、勉強や仕事で出した成果に対する他者からの評価を、自分の自信や自己評価につなげて得られる自己肯定感です。もちろん、これは周囲からの評価や環境など、外的要因に大きく左右されます。
そう考えると、絶対的自己肯定感が本来的な自己肯定感であり、人が前向きに生きていくためにはより重要な意味を持つとおわかりいただけると思います。
ありのままの自分を認めて、受け入れ、大切にする
でも、絶対的自己肯定感は、先に述べたように、基本的には幼少期の親との関わりによって育まれるものです。そうすると、「大人になってから絶対的自己肯定感を高めることはできないのか」という疑問を持った人もいるでしょう。
でも、安心してください。これから解説する5つのステップを踏めば、大人になっているみなさんでも絶対的自己肯定感を高めていくことができます。
このうち、ステップ1〜3が、絶対的自己肯定感の土台をつくるものです。
まずは、ステップ1「ありのままの自分を認める」。これは、自分を客観視することです。このとき、やりがちなのが、「これは自分のいいところ」「これは悪いところ」と、自分でジャッジすること。そうではなく、長所や短所、自分に足りない部分や過去の失敗なども含めた等身大の自分を冷静に見つめることが大切です。
そのためには、いまの自分がどういう人間なのか、書き出してみてもいいでしょう。頭で考えてしまうと、つい自分の思考によってジャッジしてしまうからです。でも、実際に書き出せば、一歩引いた目線で冷静に自分を見つめ、認めることができるはずです。
次がステップ2「ありのままの自分を受け入れる」。ステップ1とはちょっとした表現の違いのようですが、自分をただ客観的に見つめるステップ1に対して、ステップ2は、ステップ1で挙げた自分について、そこにある自分らしさや個性にも目を向けて、「これが自分なんだ」と引き受けるという意味です。
ステップ3が「ありのままの自分を大切にする」です。この段階で大事になるのは、自分の感情に目を向けること。そうでないと、無意識のうちに湧き上がる感情に飲み込まれて振り回されてしまうことになるからです。感情すらも客観視して理解し、どんなときも自分の一番の理解者であり味方になろうとするべきです。そうすれば、自分に自分で愛情を注ぐことになり、自分を大切にできるようになります。
自分の価値を感じて、信頼して得られる絶対的自己肯定感
そして、絶対的自己肯定感を高めるには、ここまでのステップ1〜3を日常的に何度も繰り返すことが大切です。
ステップ4「自分の価値を感じる」、ステップ5「自分を信頼する」については、「よし、自分の価値を感じるぞ!」「自分を信頼するぞ!」と思っても、なかなかそうできるものではありません。ステップという表現をしていますが、ステップ4とステップ5は、やるべき具体的な行動というよりは、ステップ1〜3の繰り返しによって現れてくる段階と言えます。
常に自分の言動についてつぶさに観察するステップ1〜3を繰り返すと、自分の努力や成果に対して、「自分はよくやった!」「自分は頑張れた!」と感じる経験を積み重ねていくことになります。その積み重ねのなかで、自分を好きになって自己価値を感じられるようになり、自分を信頼できるようにもなっていくのです。
ここまで来ればもう大丈夫。たとえどんな問題に直面したとしても、「自分なら大丈夫だ!」と思えるようになる。その揺るぎない感覚こそ、無条件で自分を肯定する絶対的自己肯定感です。
【工藤紀子さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
工藤紀子(くどう・のりこ)
1962年生まれ、埼玉県出身。自己肯定力スペシャリスト。JISEエグゼクティブトレーナー。一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会代表理事。ヴィーナス・クリエイト代表。子育て中に「自己肯定感」の大切さを知り、自らも自己肯定感を高めたことで、自らの人生を好転させる。「心の仕組み」の理解と「セルフエスティーム向上」についての研究を続け、自己肯定感を高める独自メソッドを確立。2005年、ヴィーナス・クリエイトを立ち上げ、「女性の幸せが社会の幸せを創造する」という理念のもと年100回以上のセミナーを開催し、延べ2万人を指導。2013年には一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会を設立。誰もが本来の力と自信を取り戻し、幸福度の高い社会を実現することを目的に、セミナーや企業研修、講演会を通じて自己肯定感を高める機会の提供、自己肯定感を広く普及できる人材の育成に注力している。2019年、中学校道徳教科書(学研)に「自己肯定感」について執筆。「子どもも大人も自分らしくハッピーに!」をキャッチフレーズに、自己肯定感で職場や社会を元気にする「ラブ・マイセルフプロジェクト100万人プロジェクト」に取り組んでいる。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。