「スペシャリストにならなければ意味がない」は誤解。いま目指したいのは “こんな人材” だ

優れたゼネラリスト

終身雇用制も年功序列制も崩壊したとされるいま、「人材市場での評価が高そう」「フリーランスになりやすそう」といった考えから、スペシャリストを志向する傾向が強まっているとも言われます。

しかし、そんな風潮に警鐘を鳴らすのは、大手企業300社以上の広告宣伝・PR・マーケティングの支援実績をもつ、株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長・池田紀行さん。スペシャリストとゼネラリストに対するお考えを聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
池田紀行(いけだ・のりゆき)
1973年生まれ、神奈川県出身。株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表などを経て現職。300社を超える大手企業の広告宣伝・PR・マーケティング部に対するデジタルマーケティングやソーシャルメディアマーケティングの支援実績をもつ。宣伝会議マーケティング実践講座池田紀行専門コース、日本マーケティング協会マーケティングマスターコースなどの講師として、延べ3万人以上のマーケター育成に貢献。自身のnoteやTwitterを中心に、若者向けのキャリア、働き方に関する発信も多い。近著『売上の地図』(日経BP)のほか、著書・共著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

過去のものとなった「会社が一人前に育ててくれる時代」

いまは、「会社が半人前を一人前に育ててくれる時代」ではなくなりました。もちろん、中小企業は以前から人を育てる余力はあまりなかったため、いまもむかしもそんなに大差はありませんが、大企業における状況は大きく変わってきています。

かつての大企業なら、終身雇用制や年功序列制といった日本型経営システムのなか、多くの時間とお金をかけて若手を育てていました。でも、終身雇用制も年功序列制もすでに崩壊したと言われ、いまの20代など若手の離職率は、ほんの10年前と比べても倍以上になっています。また、あらゆるハラスメントに対して厳しい目が向けられるようにもなりました。

企業が高いコストをかけて若い人材を採用して教育しても結局はどんどん辞めていく、あるいは、現場で先輩社員が後輩を厳しく指導したらハラスメントだと言われることもあるといった現実を受けて、若手を育てようという意識が低下してきているのです。

それでも、中小企業と比べると大企業の場合には教育システムや教育プランがまだまだ充実していますから、完全に「勝手に育ってください」という時代になったわけではありません。しかし、以前と比較すれば明らかに、「育ちたいのだったら自分で育つ」という感覚をもっていない人間は成長しづらい時代になっているのです。

「会社が半人前を一人前に育ててくれる時代」ではなくなったと語る池田紀行さん

目指すべきは、スペシャリストとゼネラリストのどっち?

もちろん、そんななかでも「自分で育つんだ!」という感覚をもっている若手もいます。むしろ、「会社に任せておけば自分を育ててくれる」という受動的な姿勢でも大きな問題はなかったかつてと比べたら、能動的に自らを成長させようと考えている若い人は増えているかもしれません。

しかし、その志向の方向性を、僕は少し疑問視しています。スペシャリスト志向が強すぎる人が多いのです。

終身雇用制や年功序列制が崩壊したなか、「どこでも通用するスキルを身につけたい」「手に職をつけたい」という思いがあるからなのでしょう。多くの人が、「ゼネラリストはただの調整役だし誰にでもできる」「スペシャリストこそが目指すべきところだ」と考えているようです。

でも、はたして本当にそうでしょうか? もちろん、なんらかのスペシャリティーをもっていることは大きな強みとなります。これは間違いありません。しかし、ビジネスパーソンとしては、ゼネラリストとしての能力も変わらず重要なものです。

「他人と関わらない仕事なんてない」とも言われますが、仕事の規模が大きくなればなるほど、それに関わる人も増えます。それらの人の多くは、自分の専門分野をもつスペシャリストたちでしょう。でも、そんな大きな仕事のなかで多くのスペシャリストを束ねられる優れたゼネラリストももちろん必要です。

ほんの数人ではなく、たくさんのスペシャリストをまとめてひとつの大きな仕事を成功に導く——そんな能力もまたスペシャリティーと言えるのではないでしょうか。言葉は少し変かもしれませんが、「ゼネラリストとしてのスペシャリスト」と言える人材の需要は非常に高いのです。

「ゼネラリストとしてのスペシャリスト」の価値の高さを語る池田紀行さん

優れたゼネラリストに共通して見られる「EQ」の高さ

そんな優秀なゼネラリストに共通する特徴のひとつが、「『EQ』が高い」ということです。EQとは、「Emotional Intelligence Quotient」の略で、「IQ(Intelligence Quotient)」を「知能指数」と訳すことに対して、「心の知能指数」と訳されます。一般的には、「自分や他者の感情を理解し、うまくコントールできる能力」と言われています。

EQが高い人は、自分や相手の感情がわかり、どんな場面でどう対処するのがベストなのかが見えるため、多くの人を束ねられる優れたゼネラリストになることができるのです。

一方で、みなさんのまわりにも、「言っていることは正論だけど、どうも言い方がしゃくに障るんだよな」なんて人はいませんか? そういう人のEQは低いと言わざるを得ません。そんな人の場合、まわりから信頼を寄せられることもなく人が離れていきますから、仕事で大きな成果を挙げることが難しくなってきます。

元気にあいさつする人を「演じる」意識

では、どうすれば肝心のEQを高められるでしょうか。明確なトレーニング方法があるわけではないのですが、僕が考える一番簡単な方法は、「とにかく大きな声であいさつをする」というもの。あいさつをしない、しても元気がない、相手の目を見ていない人がびっくりするほど多いのです。

あいさつをされる側の立場で考えてみてください。明るく元気にあいさつをしてくれる人とそうでない人のどちらと仕事をしたいと思いますか?

「古くさい」と感じた人もいるかもしれませんが、人の本質は簡単に変わるものではありません。先にも「他人と関わらない仕事なんてない」と言いましたが、人と人が関わりながら進めるのが仕事です。いまもむかしも、きちんとあいさつができる人こそが周囲から好かれて信頼を寄せられ、その結果として人を束ねる能力を高めることもできるのです。

そういう意味では、「役を演じる」ことを考えてもいいかもしれません。いまは「個性が大事だ」と言われる時代でもあります。そのことを勘違いして、「自分らしくないことはしなくてもいい」と考える人もいるようです。

でも、もしあなたが俳優だったとして、渡された台本の内容や監督の演出に対して、「こんな役や演出は自分らしくないからしたくない」なんて言ったらどうなるでしょうか? 周囲から評価されることなどありませんし、今後、いい仕事が回ってくることはないでしょう。

普段の素の自分は、いくら暗くても元気でなくても声が小さくてもいいのです。でも、「仕事で評価されよう、成長しよう」と思うのなら、仕事の場だけでも、明るく元気にあいさつをする人を演じることも大切なのです。

優秀なゼネラリストに共通するEQの高め方について語ってくれた池田紀行さん

【池田紀行さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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「普通の人」を抜け出して「成長できる人」になる方法。“○○する時間” を徹底的に増やす

自分を育てる「働き方」ノート

自分を育てる「働き方」ノート

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