アジア太平洋地域7か国の18~65歳を対象とした大規模な意識調査(2021年版)によれば、人生で成功するためには「努力すること」が重要だと考えている人が最も多かったそうです(参考:ITmedia ビジネスオンライン|“人生で成功するために重要な要素”ランキング 共通1位は「努力」 日本2位で、世界9位だったのは……?)。
しかし、世のなかには「努力なんてムダ」「努力しても報われない」といった考え方も、多く存在しているのは事実です。そこで今回は “努力” を掘り下げつつ、「努力頼みにならないための新たな視点」を探ってみました。
「努力は報われる」は半分ホント
脳科学者の中野信子氏によれば、
「努力は報われる」は半分本当
(引用元:中野信子著(2014),『努力不要論』,フォレスト出版.)
なのだそうです。同氏の言葉をもとに、その理由を説明しましょう。
本当である理由
脳と体は大きなダメージを避けるため、力を温存し、リソースを節約しているといいます。つまり、できるだけ “考えない・動かさない” ようにするわけです。だから、そのまま放っておくと脳は衰え、体は錆びついてしまいます。
しかし、相応の負荷(頭を使う・体を動かす)をかけることで、パフォーマンスの維持および向上が可能になるとのこと。そして、この “負荷” が努力にあたるため、努力は報われると表現できるのだそうです。
(参考:同上)
ウソである理由
一方で中野氏は、このようにも述べています。
才能は遺伝的に決まっています。つまり、「努力は報われる」はウソ、ということになります。
(引用元:同上)
これに前項の内容をあわせて考えると、「努力は報われる」は半分が本当で、半分がウソだと解釈できるわけです。
主体的な努力=必要なことをやる
また、ビジネスコンサルタントとして多くの企業の支援を行なう三坂健氏は、STUDY HACKERのインタビューで次のように語っています。
「よい戦略」を考えられる人は「努力に依存しないで目的・目標に到達できる」ことがあります。「努力に依存しない」とは「努力が必要ない」ことではありません。「努力を前提としない」ということです。
たとえば長時間の残業を前提とする仕事など、働く人に無理な努力を強いるシナリオは望ましくないとのこと。そうではなく
努力とは、メンバーそれぞれに自分の意志で主体的にしてもらうものだと位置づけるべき
(参考および引用元:STUDY HACKER|「努力しないで勝てる人」は戦略的思考に長けている。“よい戦略” に必要なたった3つの要素)
なのだそうです。だとすれば「主体的な努力」は、「自分が “必要だと思うこと” をやる活動」だと言っていいのかもしれません。そうなると、一般的な努力のイメージとは、だいぶ違ってきますよね。
努力頼みにならないための新たな視点
では、ここまで「努力の実態」および「努力のあるべき姿」を掘り下げてみたので、ここからは「努力頼みにならないための新たな視点」に迫ってみましょう。
1.「ちょっとだけ変わった努力」を続ける
テレビ演出家・プロデューサーの林智也氏は、経営者やマネージャーといった人々を応援する1Dayイベント「Biz Forward 2020」のなかで、ヒット企画をつくり出すための思考法を紹介したそうです。それは、
ちょっとだけ変わった努力をずっと続けてみる。
というものでした。じつは同氏、テレビ番組づくりに行き詰まったとき、(それまで接することのなかった)女性誌を根こそぎ取り寄せ、毎日読むようにしたのだとか。
すると、たとえば「『anan』が3~4週間前から急に50ページぐらいかけて睡眠特集をやっている。現代の女性は寝られないのか」「こういう情報はみんながほしいのではないかな」といった具合に、それまでの自分の発想の外にあったような、新たな価値観を見いだすことができたそうです。
「変な努力に毎日の力を使うというのが、とってもとっても重要というか効果が高い」と林氏。ちなみに “変な努力を続けること” は、
自分のキャラにないことを1つやってみる、というのを積み重ねる
といった表現にも置き換えられています。そう聞くと、なんだか努力というより、課外活動といった感じですよね。視野の拡大や、アイデアの創出、頭の切り替え、息抜きとしても役立つのではないでしょうか。
(参考およびカギカッコ内含む引用元:ログミーBiz|「ちょっとだけ変な努力をずっと続ける」 ヒットメーカーが教える、アイデアを出せる人の習慣)
2. できるだけ「努力しないよう努力」する
前出の中野氏は著書『努力不要論』(フォレスト出版)のなかで、「努力をしない努力」が真の努力だと説き、「できるだけ努力をしないで生きよう」という考え方が、最も大事ではないかと述べています。具体的にどうするかと言うと――
たとえば、自分ができること、できないことを理解するのと同時に、自分の周りにいる人の適性を観察して、自分ができないことをお願いする。
のだそう。また、
他人の才能を見抜く眼を養うのと同時に、人に気持ちよくお願いをやってもらえるトレーニングもしたほうがよいでしょう。
とのことです。自分だけに頼らず、他者にもうまく頼れるよう努力するのですね。つまり、中野氏の「努力をしない努力」とは、
- 自己認知能力を高める努力
- 対人認知能力を高める努力
- コミュニケーション能力を高める努力
とも言えるのかもしれません。
(参考およびカギカッコ内含む引用元:前出の中野氏著書『努力不要論』)
3.「努力するプロセス」で副産物を得る
「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営するかたわら、ビジネスジャーナリストとして情報を発信している黒坂岳央氏は、努力について、
「成果が出る、出ない」という二元論で語られるべきではない
と感じているのだとか。それより「努力するプロセス自体に価値がある」と考えるそうです。
(カギカッコ内含む引用元:アゴラ|「結果がすべて。努力に価値はない」という二元論者が見落としている大事なこと)
その理由を、黒坂氏の言葉をもとに説明していきましょう。
◎「自分に適しているか」が明確になる
じつは黒坂氏、過去にとある分野について長い期間をかけて勉強したにもかかわらず、結果的には「『自分はこの領域について、才能も意欲もない』と自覚する」に至った経験があり、時間をムダにしたと感じているそうです。そうした経験から同氏は、自分に合わないと感じるなら「早期に撤退せよ」という教訓を示しています。
つまり黒坂氏は、努力の過程で “その分野が自分に適しているかどうか(それを続けたいと思うかどうか)ハッキリすること” に価値があると述べているわけです。
(参考およびカギカッコ内引用元:同上)
◎「想定外の新たな価値を連れてくる」
また、黒坂氏はリーマンショック後の就職活動で苦戦を強いられていたとき、プライドを打ち砕かれながらも、「変化するマーケットのニーズを鋭く嗅ぎ分け、市場が求める人材になることの重要性」に気づくことができたそうです。
つまり、努力する過程で、自分に欠いていた部分の知見を得られたわけです。同氏いわく、
必死に努力をすることで求めていた成果は「内定」だった。だが、それ以上の想定外のたくさんの気づきや経験をもたらしてくれたのは「努力するプロセスそのもの」である。
(参考およびカギカッコ内含む引用元:同上)
とのこと。
結果だけに目を向け “焦りや不安” を募らせるより、現時点での行動(努力するプロセス)に価値を見いだしていくほうが、ずっと快適なはず。それに、いい精神状態は、いい結果をもたらす確率をグンと高めてくれるはずです。
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努力を掘り下げつつ、「努力頼みにならないための新たな視点」を探ってみました。自分によく合う “気のいい努力” と出会えたらいいですね。
(参考)
ITmedia ビジネスオンライン|“人生で成功するために重要な要素”ランキング 共通1位は「努力」 日本2位で、世界9位だったのは……?
STUDY HACKER|「努力しないで勝てる人」は戦略的思考に長けている。“よい戦略” に必要なたった3つの要素
ログミーBiz|「ちょっとだけ変な努力をずっと続ける」 ヒットメーカーが教える、アイデアを出せる人の習慣
アゴラ|「結果がすべて。努力に価値はない」という二元論者が見落としている大事なこと
中野信子著(2014),『努力不要論』,フォレスト出版.
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STUDY HACKER 編集部
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