かわいらしい絵とわかりやすい文章が綴られた絵本は、子どものための読み物……。そうイメージする人は多いことでしょう。しかし、絵本は大人にこそメリットが多い読み物なのです。
絵本が大人に与える効果は、絵による癒やし効果だけではありません。なかには、自律訓練法がベースになっている絵本が存在するほか、脳トレ効果が期待できるものもあるのですよ。本が苦手な人も、絵本なら手に取りやすいのではないでしょうか?
ストレスや疲れがたまっている人は、ぜひ絵本を開いて新しい世界を見に行きましょう!
見るだけでも効果あり。癒やしと安眠を与える絵本の力
絵本が大人に与えるメリットのなかでも特に目立つのが、癒やしによる安眠効果です。絵本コーディネーター・こがようこ氏によると、絵本は眺めているだけでも癒やしを与えてくれるのだそう。ストレスや不安で眠れぬ夜を過ごしている人は、表紙を見て心惹かれる絵本を手に取ってみると良いでしょう。
絵本の絵やフレーズは想像力を膨らませ、気分をゆったりさせる作用があります。イライラの解消や精神安定にも効果があり、自然とリラックスした状態にしてくれるので、睡眠の導入として最適なんです
(引用元:フミナーズ|絵本の音読・読み聞かせの癒やし効果は大人にも!おすすめ絵本4選 ※太字は筆者が施した)
なかには、意図的に眠気を誘うような絵本も。たとえば『おやすみ、ロジャー』という絵本は、自律訓練法がベースになっており、眠気を誘う “同じ言葉を繰り返す” 形の催眠療法的手法がうまく取り入れられています。司書・読書アドバイザーの安藤宣子氏によると、『おやすみ、ロジャー』はもともと子どもの入眠のために作られましたが、眠れない大人にもピッタリなのだそうです。
大人の場合、「寝なければ」と思えば思うほど、余計に眠れなくなる状態に陥っていくことがあります。就眠儀式は子どもに限ったものではなく、大人が寝る前に絵本を読むと安眠効果を得ることができます。だから、『おやすみ、ロジャー』は子どもよりも大人の入眠絵本として活用できると思うのです。
(引用元:大人が絵本を 第38回 絵本で(PDF) ※太字は筆者が施した)
全米ベストセラーとなったのは、“ヨガ絵本” である『おやすみヨガ』です。『おやすみヨガ』は、ぐっすり眠れる魔法の絵本として人気を集めており、かわいらしい絵でヨガポーズをわかりやすく紹介しています。
作者のマリアム・ゲイツ氏はハーバード大学出身の元小学校教師で、子どもにわかりやすくヨガを教えたいと思ったのが絵本誕生のきっかけなのだそう。思い描く世界観に合った絵を描くイラストレーターを見つけるまでに10年かけたという1冊も、癒やしが欲しい大人にピッタリです。
マリアムさんの表現したい世界観を表すイラストレーターを見つけるまでに、苦労されたそうです。そして、ついに、サラ・ジェーン・ヒンダーさんの描く絵に出会いました。女の子が木のポーズをとり、枝に見立てた髪の毛が広がり、その周りに森の動物や昆虫が集まっている表紙のイラストを見たとき、最高の絵本が出来上がると感じたそうです。
(引用元:絵本ナビ|ぐっすり眠れる魔法のヨガ絵本『おやすみヨガ』いとうさゆりさんインタビュー)
絵本は哲学書になる? 子どもへの教えが大人に響くことも。
ニジノ絵本屋コンテンツディレクター・海老原邦希氏によると、子ども向けにわかりやすい言葉でつづられている絵本だからこそ、大人が読むと新たな「教え」や「気づき」に出会えることもあるのだそう。
絵本はもともと子どもが読むことを想定しているので、絵、文章、話ともにわかりやすいのも特徴。もちろん、何を学ぶか、何を感じ取るかはそれぞれの読み手の自由ですが、一般の書籍に比べて読みやすい分、本のメッセージも伝わりやすいのではないでしょうか。
(引用元:東洋経済オンライン|大人が「絵本」を読んで得られる意外な気づき)
たとえば、犬のコロ和尚が仏の教えをもとに子どもの疑問に答える「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズでは、大人でも白黒つけにくい道徳に関する疑問がたくさん書かれています。“どうして、友だちをつくらなければいけないの?” と子どもに聞かれ、あなたはすんなり答えられますか?
「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズの監修者であり、相愛大学で宗教学を教えている釈徹宗氏は、道徳的な疑問に答えることこそ大人の役割とし、コロ和尚を通して子どもにメッセージを届けます。「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズのメッセージには仏教の知恵が込められているので、大人から子どもに向けたメッセージでありながら、大人が読んでも心に響くことでしょう。
友だちをつくらずにひとりで生きていけるというのは、自分ワールドで暮らしていて幸せな気がするけれども、たくさんの苦しみを生み出す。そういうところを、なんとか伝えたいと思って書きました。だから、「どうして、友だちをつくらなければいけないの?」の問いとこたえは、シリーズ全般に関わるところの社会性や他者性、利他性を、仏教の知恵を借りて語る形になりました。
(引用元:絵本ナビ|「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズ監修・釈徹宗さんインタビュー)
このほか、国語の教科書に掲載されていた『スイミー』は、個性を尊重することを教えてくれる絵本として有名ですね。このように、絵本にはさまざまなメッセージが込められています。子どもの頃に読んだ本も、いま読み返すと新たなメッセージに出会えるかもしれませんよ。
絵本はビジネスパーソンとしての成長も促す
絵本コーディネーターの東條知美氏によると、絵本には「考える力」と「想像力」を鍛える力があるとのこと。思考力&想像力を向上させられるのは、ビジネス書や実用書にはないメリットなのだそうです。
絵本は、ビジネスの現場で求められる“考える力”と“想像力”を鍛えるのに役立ちます。絵本はビジネス書や実用書のように、直接何かを教えてくれるわけではないので、新たな真実や問題解決のヒントを得るためには、自分で考え、想像することが不可欠だからです
(引用元:まいにちdoda|大切なことは絵本が教えてくれる! 社会人にオススメの絵本5選 ※太字は筆者が施した)
ほかにも、疑似体験を通して問題解決のシミュレーションをしたり、新しい視点を手に入れたりするのにも効果的だと、東條氏は述べます。たとえば、6人の男がチーム一丸となって難局を乗り越える『グリム童話 六にんぐみせかいあるき』は、チームの中の自分の役割を再確認するのに適した絵本なのだそう。
グリム童話に収められたこのドイツの昔話には、“知恵を持つ男”、“力持ち”、“目利きの狩人”、“鼻息の荒い男”、“足の速い男”、“氷らせる男”というそれぞれの特性を備えた6人の男たちが登場します。この絵本は彼らがチームを組み、それぞれの特性を最大に発揮して難局を乗り越え、宝を手に入れるお話です。職場やチームで、あなたに求められる役割は何なのか。上司や同僚の顔を思い浮かべながら、自分の役割を再確認できる一冊です
(引用元:同上)
仕事の悩みがあるときに絵本を読めば、成長のきっかけになるかもしれませんね。
視覚的な記憶力を育てる。絵本は大人の脳トレに効果的。
脳科学者の加藤俊徳氏によると、絵本のページをめくるという行為には、右脳の視覚的な記憶力を育てる働きがあるのだそう。
絵本のページをめくる際、脳は “スケッチパッドファンクション” という、直前に見た映像記憶を頭に残すという作業を行ないながらストーリーを追っています。スケッチパッドファンクションを機能させながら絵本を読むことは脳トレになるのだそうです。加藤氏は、子どもよりも大人のほうが絵本を読むべきだと述べます。
本当は子どもよりも、大人が絵本を読んだ方がいいんですよ。今、大人はスマホや携帯で漫画や本を読みますが、字を読んだついでに絵を見て、なんとなく理解している状態です。それは、左脳を使ってから右脳を少し使うだけなので、あまり脳の刺激にはなっていないんですね。 絵を見て記憶力と想像力を働かせた上で字を読んだ方が、脳の刺激になるんです。だから、絵本がぴったりなんですよ。
(引用元:絵本ナビ|『夢をかなえる 10歳からの脳番地トレーニング』発売記念医学博士/脳科学者・加藤俊徳さん インタビュー ※太字は筆者が施した)
なかには、脳トレに特化した絵本も存在します。脳トレをしたい、でも最初から本格的なトレーニングをするのは気が引けるという人は、絵本を通じて脳トレをしてみてはいかがでしょうか。
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絵本は子どもだけではなく、大人にもさまざまな良い影響を与えてくれる読み物です。癒やしなどの効果があるほか、部屋に飾るとインテリアにもなることから、大人に絵本をプレゼントするケースが増えています。
自分用に、あるいは大切な人への贈り物に、絵本を探しに行きましょう。
(参考)
フミナーズ|絵本の音読・読み聞かせの癒やし効果は大人にも!おすすめ絵本4選
大人が絵本を 第38回 絵本で(PDF)
絵本ナビ|ぐっすり眠れる魔法のヨガ絵本『おやすみヨガ』いとうさゆりさんインタビュー
東洋経済オンライン|大人が「絵本」を読んで得られる意外な気づき
絵本ナビ|「おしえて!コロ和尚 こどものどうとく」シリーズ監修・釈徹宗さんインタビュー
まいにちdoda|大切なことは絵本が教えてくれる! 社会人にオススメの絵本5選
絵本ナビ|『夢をかなえる 10歳からの脳番地トレーニング』発売記念医学博士/脳科学者・加藤俊徳さん インタビュー
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。