「やることが多すぎて、いろいろなことが中途半端になってしまう」
「仕事が忙しくて、人間関係や健康がおざなりになっている」
「完璧主義な性格で、ストレスがたまりやすい」
このように、あらゆることを完璧にこなしたいのにうまくいかない人や、やりたいのにできていないことが常にあり、罪悪感やストレスに苛まれている人は、ぜひ「ピックスリー」を試してみてください。
「ピックスリー」は、Facebookの創業メンバーで、現在は3人の子どもを育てながら起業家として活躍するランディ・ザッカーバーグ氏が編み出したメソッド。多忙な生活の中でも、充実した生活を送るためのコツが詰まっているので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
いきすぎた「完璧主義」がもたらす弊害
忙しいのに何でも完璧にこなそうとすると、どれも中途半端な成果しか出せなかったり、ストレスがたまりすぎてしまったり……と、生じるデメリットは計り知れません。
ここで、フロリダ大学やマイアミ大学などの准教授らが、「完璧主義者は仕事で成功しやすいのか?」という問いについて実施した共同研究についてご紹介しましょう。
同研究では、1980年代からこれまでに行なわれた95の研究を精査し、完璧主義であることが仕事場でどのような結果を導いているのかを調査しました。その結果、完璧主義は、仕事においてメリットよりもデメリットのほうが大きいことがわかったのです。
完璧主義者のほうが、モチベーションが高く、長時間働き、仕事へのコミット感が高いという結果が出たものの、それを加味しても、総合的にはマイナスな点のほうが大きいのだとか。具体的には、完璧主義者のほうが「燃え尽き症候群になりやすい」「ストレスがたまりやすい」「不安や鬱症状を持ちやすい」などのデメリットがあるそう。
どんなにやる気があり、長時間働く意欲があったとしても、燃え尽きてしまったり、メンタルに不調をきたしてしまったりしては、どうにもなりませんよね。
ピックスリーとは
忙しくてやることが多すぎる人に、ぜひ実践してもらいたいのが「ピックスリー」です。方法はいたってシンプル。自分にとって人生に欠かせないものを5つ選び(たとえば、仕事・睡眠・家族・運動・友人など)、その中から毎日3つだけタスクを選び、実践するというもの。
選んだ3つだけはきっちりとこなし、ほかのことは「やらない」と決めてしまうのです。そして、翌日は別の3つを選び、その翌日はまた違う3つを選ぶ……と、結果的にまんべんなくこなせるように選び、バランスをとります。
その日にどの3つを選ぶかは自由です。前日と同じ3つでもいいですし、違うものを選んでもいいでしょう。毎日変えてもいいですし、平日の3つと週末の3つが固定されていてもかまいません。その日に選ばなかった2つについては、やらないことに対して罪悪感を持たないことがポイントです。
毎日すべてを完璧にしようとする人は、燃え尽き症候群になりやすく、結果的に長続きしません。ピックスリーが目指すところは、精神の安定と、継続的にやるべきことがやれている状態です。その日にやることを決め、それだけに集中するからこそ、しっかりとタスクに向き合えますし、やらないと決めたことには何の罪悪感も抱かずにすむので、精神的な疲労もありません。
日によって違う3つに集中することで、長期的にはすべてのタスクをまんべんなく、継続的に、こなしていくことができるのです。さらに、毎日どの3つを選ぶのかを考えることによって、優先順位のつけ方がうまくなる効果もあります。やるべきタスクが絞られていることによって、その日のタスクをしっかりとこなせるため、達成感とともに1日を終えられるのも利点ですね。
実際にやってみた
というわけで、筆者が実際にピックスリーを1週間実践してみました。私にとって大切な5つは「仕事・友人・運動・食事・趣味」です。
3月9日(月)「仕事」「運動」「趣味」をピック
朝から夕方まで仕事をしたあと、ジムで汗を流した。そして寝る前に趣味の読書ができたので良い1日だった。
(結果)ピックスリーを達成できた!
3月10日(火)「仕事」「食事」「趣味」をピック
お気に入りのコワーキングスペースに行き、仕事が捗った。帰りにスーパーで買い物をして、夜ご飯は自炊した。ヘルシーでバランスの良い食事ができた。
(結果)仕事と食事は達成したが、趣味の活動はしなかった。
3月11日(水)「仕事」「食事」「友人」をピック
仕事終わりに、友人と評判の焼き鳥屋に行った。久々に近況を話し合えてよかったし、焼き鳥もおいしかったので、満足。
(結果)ピックスリーを達成できた!
3月12日(木)「仕事」「運動」「食事」をピック
今日もコーワーキングスペースで仕事をし、帰りにジムに寄って汗を流した。夜ご飯は家にあった野菜を使って自炊したのでヘルシーにできた。
(結果)ピックスリーを達成できた!
3月13日(金)「仕事」「運動」「食事」をピック
昼間は家で仕事をし、午後は打ち合わせのため外に出た。帰りにジムに寄りたかったが昨日の筋肉痛が残っていたので気分が乗らず、直帰した。スーパーに美味しそうなお肉があったので、夜ご飯は家でひとり焼肉をした。
(結果)運動をサボってしまったが、昨日がんばったぶん、自分を許そう。
3月14日(土)「運動」「趣味」「食事」をピック
朝、ランニングを30分した。それから美術館へ行き、気になっていた展示を見ることができた。夕方は、朝のランニングの影響か、眠くなってきたので自炊の気力がなく夕飯はコンビニのお弁当にしてしまった。
(結果)食事が残念だった……。
3月15日(日)「友人」「食事」「趣味」をピック
友人とおいしいランチを食べに行った。午後は家でのんびり読書をした。気分もリフレッシュして、月曜日に備えることができた。
(結果)ピックスリーを達成できた!
1週間でピックしたタスクの回数は、以下の通りでした。
- 仕事:5
- 友人:2
- 運動:4
- 食事:6
- 趣味:3
実際にやってみた感想
まず、毎朝一番に「今日の3つ」を選ぶ作業を楽しく感じました。今までは、やらなければならないことを端からこなしていたのですが、あまり達成感がありませんでした。しかし、決めた3つだけを確実にこなすことで、1日の終わりに充実した気持ちを抱けました。
また、やらなくていいことも明確になる点もよかったです。普段は「あれもこれもやらなければ」と気持ちが焦ってしまうのですが、やることが決まっているため、安心感がありました。たとえ決めた3つができなかったとしても、「また明日ピックすればいいか」と気楽に捉えることができます。
さらに、自分のライフスタイルが可視化されるため、「大切だと思っているにもかかわらず、あまり時間を費やせていないもの」に気づけました。続けていくことで、徐々にタスクのバランスがとれていくと思います。
加えて、選んだタスクの回数を見ると、自分が食事に重きを置いていることに気づきました。食事は週に1回作り置きをして自炊の手間を減らし、もっと趣味や友人との時間に費やしたいと思います。
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「なんでも完璧にこなしたいのに、結果的にうまくいかない」「思うように事が運ばず、罪悪感やストレスを抱えている」など、多忙でまじめな人ほど、ピックスリーを試してもらいたいです。
時間は無限にあるわけではありませんし、私たちは限界を超えて動き続けられるほど強靭でもありません。だからこそ、優先順位を決め、その日にできる3つだけをこなし、それを続けることで、結果的にやりたかったことができるようになるのではないでしょうか。仕事だけでなく、人生全体を充実させることを考えるきっかけにもなるでしょう。
(参考)
ランディ・ザッカーバーグ 著, 三輪美矢子 訳(2020),『ピックスリー: 完璧なアンバランスのすすめ』, 東洋経済新報社.
東洋経済Online|世界でバズった「毎日3つ選ぶだけ」幸福術
Harvard Business Review|The Pros and Cons of Perfectionism, According to Research
American Psychological Association|Is perfect good? A meta-analysis of perfectionism in the workplace
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。