自己開示とは、自分に関するプライベートな情報を相手に話すこと。自分の生い立ちや趣味を話題にする、過去の失敗を打ち明ける、自分の思いや意見を正直に話す……などが、自己開示の例です。
コミュニケーションにおける自己開示は、信頼関係を築くのに欠かせません。自分から自己開示すれば、「返報性」によって相手も自己開示してくれやすくなるため、お互いの距離が縮まりますよ。日常生活ではもちろん、適度な自己開示は仕事上の人間関係を築くうえでも役立つものです。
今回は、自己開示の重要性や、会話で自然に自己開示する方法を、わかりやすく解説していきます。自己開示が苦手だという人は、ぜひ参考にしてください。
コミュニケーションにおける自己開示の効果
自己開示は、良好な人間関係を築くうえで欠かせません。
初対面の人や、知り合って間もない人を前にすると、相手の性格や考えがわからないため、どうしても警戒心を抱いてしまいますよね。味も材料もわからない異国の料理を前に、食べるのを少しためらってしまうような心理です。
けれど、「この料理は、芋と薬草を香辛料でいためたものですよ」説明されれば、料理について理解でき、不信感が大きく軽減されますよね。自己開示には、自分がどんな人間かを相手に説明することで、警戒心を和らげる効果があるのです。
初対面の人と話すときなどは、できるだけ良い印象をもたれようと、自分の本来の姿を隠し、当たり障りのない表面的な会話に終始してしまう人は多いのではないのでしょうか。たしかに、「手の内」を見せなければ、無難に会話が進むかもしれません。けれど、親しくなるまでの時間はそのぶん長くなってしまいます。相手との関係性を前進させたいのであれば、「自分はこういう人間ですよ」と早めに積極的な自己開示を行なうのが有効なのです。
素直な自己開示によって支持を獲得したのが、アメリカ合衆国の大統領エイブラハム・リンカーン(1809~1865)。心理学者・渋谷昌三氏によると、リンカーンが多くの大衆から好感をもたれた要因は、大統領選で「私は多くのアメリカ人と同様、貧しい家に生まれた」と、生い立ちを包み隠さず話したことだそう。
自己開示は、コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしているのです。
自己開示と自己提示
「ありのままに、正直に」話すのが、自己開示のポイントです。少し恥ずかしいと感じるくらいのことを正直に打ち明けると、「そんなことまで話してくれるなんて、自分に心を開いてくれているんだ」と相手は認識し、心の距離が縮まりやすくなります。
一方で、自分を良く見せることを目的とした “自分語り” は、「自己提示」と呼ばれます。たとえば、ある人が「東大に入ったものの、周りが優秀すぎて孤立してしまったんだ」というエピソードを披露したとしましょう。「大学になじめなかった」という失敗談を打ち明けているようで、「東京大学出身である」とアピールしていますね。
このように、自分に関する “ポジティブな情報” を選択的に伝えることで、相手からの印象をコントロールしようとする行動が、自己提示です。自分への評価や好感度を上げられる可能性もありますが、失敗すると「自慢している」「虚勢を張っている」と解釈されてしまうことも。
精神科医・ゆうきゆう氏監修の『マンガでわかる! 心理学超入門』(西東社、2017年)によると、自己提示は「相手からの褒め言葉や承認欲求の充足を主な目的としている」ため、自己開示とは大きく異なるのだそう。自己開示と自己提示、両方セットで覚えておきましょう。
自己開示の返報性
自己開示には、「相手と打ち解けやすい」というメリットがあります。
初対面の相手と趣味の話題になったとき、「すみません、プライベートな話はちょっと……」と口を閉ざされてしまったら、どんな印象を受けるでしょうか。「私に心を開いてくれていないんだな」と思い、拒絶されたような、悲しい気持ちになるはずです。したがって、自己開示しない人は、相手となかなか打ち解けられず、いつまでもギクシャクした関係のままです。
反対に、初対面の相手が「私、野球を見るのが大好きなんです」「じつは、すごく方向音痴なんです」と自分の情報をさらけ出してくれると、“心の壁” が取り除かれ、安心感が生まれませんか? 積極的に自己開示をすると、自分がどんな人間かを相手に理解してもらえるので、好感や信頼感を与えられるのです。
リーダーシップ開発プログラムなどを提供するオーセンティックワークス株式会社代表取締役・中土井僚氏によると、自己開示には「返報性」があるのだそう。相手から自己開示されると「こんなにさらけ出してくれたんだから、私も自分の話をしなきゃ」と感じ、自己開示を「お返し(返報)」したくなる心理が働くのです。そのため、カウンセラーは、相手に考えを打ち明けてもらうため、まずは自分の話をすることもあります。
相手と仲よくなりたいときは、思い切って自分から内面をさらけ出してみましょう。「自己開示の返報性」が働いて、自然と相手も心を開いてくれるはずです。
自己開示の方法
自己開示をするのが苦手な人向けに、上手な自己開示のポイントを5つご紹介します。
仕事と無関係の話を仕掛ける
同僚や取引先など、仕事上の人間関係だと、どうしても話題が仕事に偏るため、なかなか自己開示が進みづらいもの。ときには意識して、趣味や出身地に関する雑談を挟んでみましょう。
返答にプライベートな要素を混ぜる
『超一流の雑談力』(文響社、2015年)などの著書がある、コンサルタントの安田正氏が推奨しているのは、会話で返答するときにプライベートな話題を足す方法。たとえば、「今日は暑いですね」と相手に振られた場合。あなたは何と返すでしょうか? 「ええ、本当に暑いですね」と言うだけでは、会話が止まってしまいます。
返答の際はなるべく、自分や相手のプライベートに関わる要素を添えてみましょう。「ええ、本当に暑いですね」のあとに、「私はすごく暑がりなので大変です。○○さんは、夏はお好きですか?」と言えば、「私は暑がり」という自己開示に加え、「夏にやりたいレジャー」や「夏休みの予定」といった、プライベートな雑談につなげやすくなります。
相手の自己開示を促す
臨床心理学者・平木典子氏によれば、「聞き上手」になって相手の自己開示を促すのも大切なのだそう。たとえば、「北海道出身なんです」と言う相手には、「旅行におすすめの場所はありますか?」「日本ハムファイターズ、調子いいですよね」のように、プライベートや趣味に関する話題につなげることで、自然と自己開示してもらえます。
ときには部下に弱みを見せる
上司・部下などの上下関係があると、どうしてもコミュニケーションが堅苦しくなりがち。渋谷氏によれば、ときには上司(先輩)のほうから自己開示し、適度に “弱み” を見せることで、部下との心の距離を縮められるのだそう。
たとえば、部下が失敗したとき、一方的に叱りつけるのではなく、「じつは、私も若いとき、同じような失敗をしたことがあるんだ」のように告白すると、部下は素直に耳を貸してくれやすくなります。
自己開示の度合いに気をつける
いくら自己開示が大事とはいえ、程度というものがあります。初対面の相手に、いきなり「人間関係がうまくいかず悩んでいて……」などとプライベートすぎる悩みを打ち明けるのは、さすがにやりすぎですよね。親しくなるどころか、むしろ「変な人」と認定され、警戒されてしまうかもしれません。
どの程度までプライベートな話が受け入れられるのかは、相手との関係性から判断しましょう。初対面の相手には、「趣味」「笑える失敗談」「ちょっとした欠点」といった自己開示でもじゅうぶんです。
自己開示の尺度
自己開示の「深さ」を計る目安として、「自己開示尺度」というものがあります。日本パーソナリティ心理学会が発行する機関誌『パーソナリティ研究』に掲載された論文「自己開示の深さを測定する尺度の開発」(2010年)内で提示された自己開示尺度は、「現代の日本の若者」を対象にした、24個の項目で構成されるものです。
自己開示の4段階
「自己開示の深さを測定する尺度の開発」では、自己開示の「深さ」のレベルとして、4つの段階が想定されています。
最も浅い「レベル1」は、「趣味・嗜好(しこう)」の開示です。社会的常識からよほどはみ出した趣味・嗜好でないかぎり、「私は○○が好きなんです」と話したところで、自身の評価が傷つくことはほぼありません。趣味・嗜好を打ち明けることは、手軽かつリスクの少ない自己開示なのです。
「レベル2」の自己開示は、「容易には克服できない困難な経験」です。過去に経験したつらい出来事や苦労話には、必ずしも人格と直結しない外的な要因(家が貧しかった、ケガをしたなど)も関係しているため、比較的「浅い」段階の自己開示だと考えられます。
「レベル3」の自己開示は、「決定的ではない欠点や弱点」。「方向音痴で道に迷いやすい」「絵がへたくそ」などです。人格的な評価にそれほど影響しないとはいえ、自分の内面的な弱みをさらすので、自己開示としては比較的「深い」段階にあたります。
最も深い「レベル4」の自己開示は、「自分の性格や能力の否定的側面」。「他人の悪口ばかり言いたくなる」「話を素直に聞けない」といった欠点は、人格的・社会的な評価を顕著に損いかねないため、さらけ出すには大きなリスクが伴います。よほど親しい相手でなければ、なかなか開示できないものです。
自己開示尺度の項目リスト
上に挙げた4つのレベルのうち、自分がどの段階に該当するかは、以下の項目をどのように評価するかで決まります。各項目について、「初対面の同性」と「同性の親しい友だち」が相手だったら、どの程度まで打ち明けられそうか、1~7点で評価してみましょう。点数の基準は、以下のようなイメージです。
- 1点:何も話さない
- 2点:あまり話さない
- 3点:やや話さない
- 4点:どちらともいえない
- 5点:やや話す
- 6点:かなり詳しく話す
- 7点:じゅうぶんに詳しく話す
【レベル1:趣味】
- 好きなもの
- 休日の過ごし方
- 最近の楽しかった出来事
- 最近夢中になっていること
- 趣味にしていること
- 楽しみにしているイベント
- これから趣味としてやってみたいこと
【レベル2:困難な経験】
- 困難な状況を誰かに助けてもらった経験
- 困難な状況を乗り越えるために頑張ってきたこと
- つらい経験をどのように乗り越えてきたか
- 過去のつらい経験が現在どのように役立っているか
【レベル3:決定的ではない欠点や弱点】
- 「少しダメだな」と前から思っているところ
- 直さなければと思っているが、なかなか直らないささいな欠点
- ささいな欠点かもしれないが、ときどき落ち込んでしまうこと
- ある経験をとおして「自分は少しダメだな」と思ったこと
- ささいな欠点について他者から心配された経験
- ささいな欠点について日頃思い悩んでいること
【レベル4:否定的な性格や能力】
- 自分の性格のすごく嫌いなところ
- 自分の性格のすごく嫌な部分が出てしまった出来事
- 自分の能力についてひどく気に病んでいること
- 能力不足が原因で、目標が達成できなかった経験
- 能力で劣等感を抱いているところ
- 能力に限界を感じて失望した経験
- 自分のせいで人をひどく傷つけてしまった経験
点数をつけ終えたら、レベルごとの平均点を計算してみましょう。参考までに、299人の大学生を対象とした2008年の調査において、平均点は以下のとおりでした。
レベル | 初対面の人 | 親しい友だち |
---|---|---|
1 | 5.16 | 5.84 |
2 | 3.13 | 3.90 |
3 | 2.89 | 4.10 |
4 | 2.40 | 3.49 |
あなたの自己開示レベルは、どのくらいでしたか?
自己開示と「ジョハリの窓」
自己開示に関連して、「ジョハリの窓」もご紹介します。ジョハリの窓とは、サンフランシスコ州立大学の心理学者であるジョー・ルフト氏とハリー・イングラム氏が、共同で開発したフレームワーク。「ジョハリ」という呼称は、2人の名前から取られています。
ジョハリの窓は、以下のように4つの「窓」で構成されています。左上から時計回りに、「解放の窓」「盲点の窓」「未知の窓」「秘密の窓」です。
4つの「窓」に自分の情報を書き込むことで、自己開示の度合いや、セルフイメージと他者が自分に抱くイメージとのギャップなどがわかりやすくなります。
解放の窓
【解放の窓】には、「自分も他者も知っている、自分の姿」を書き入れます。「私は几帳面(きちょうめん)な人間だ」と思っており、他者からも同様に思われているなら、【解放の窓】に「几帳面である」と書きましょう。
【解放の窓】に書ける内容が多ければ多いほど、自分が自分に抱くイメージと、他人が自分に抱くイメージが、より一致していることになります。つまり、広く自己開示できているのです。
盲点の窓
【盲点の窓】に書き入れるのは、「自分は知らないけれど他者は知っている、自分の姿」です。周りの人から「とても親切な人だ」と思われているのに、ほとんど自覚がない場合、「親切である」という情報が【盲点の窓】に入ります。
【盲点の窓】に属する情報が多いのは、あまり自分を客観視できていない証拠。自分にはどんな長所・短所があるのか、自省や他者へのヒアリングをとおして把握することが必要です。
秘密の窓
【秘密の窓】に入るのは、「自分では知っているが他者には見せていない、自分の姿」。「本当はくよくよ悩むタイプだけれど、他人にはその性格を悟らせない」という場合、「くよくよ悩む」という性質を【秘密の窓】に記入します。
自己開示にあたって最も重視すべきなのは、この【秘密の窓】です。【秘密の窓】に入っている情報をなるべく減らし、【解放の窓】に移すよう心がけることで、自己開示が進んでいきます。
未知の窓
【未知の窓】は、「自分も他人もまだ知らない、自分の姿」が入るスペースです。まだ発見されていない、自分の可能性や潜在能力のようなものですね。「自分を含めて誰も気づいていないけれど、絵画の才能がある」などが該当するでしょう。とはいえ、誰も気づいていないことは書けないので、【未知の窓】は空欄のままです。
ジョハリの窓をこのように利用することで、主観的イメージ(セルフイメージ)や客観的イメージ(パブリックイメージ)を把握でき、自己開示に役立つのです。
自己開示に「ジョハリの窓」を活用する方法
ジョハリの窓を自己開示に役立てる方法を、具体的に解説します。
1. 「自分が思う自分のイメージ」を書き出す
まずは、自分から見た自分のイメージ(セルフイメージ)を書き出してください。なかなか思いつかないなら、「仕事における自分はどうか」「上司との付き合いにおける自分はどうか」など、範囲を限定して考えてみましょう。
2. 「他者から見た自分のイメージ」を集める
次に、他者から見た自分のイメージ(パブリックイメージ)を書き出します。もちろん、自分一人ではできないので、親しい友人や同僚・家族など、身近な人に協力してもらいましょう。多くの人に意見を聞くほど、情報の客観性を高められます。
3. イメージを「窓」に振り分ける
集まった「セルフイメージ」と「パブリックイメージ」を、4つ(実質3つ)の「窓」に振り分けます。
- セルフイメージにもパブリックイメージにもある情報→【解放の窓】
- セルフイメージにはなく、パブリックイメージにはある情報→【盲点の窓】
- セルフイメージにはあり、パブリックイメージにはない情報→【秘密の窓】
4. ジョハリの窓を眺め、自分を見つめ直す
ジョハリの窓が完成したら、それぞれの「窓」に書かれている内容を眺めつつ、自己認識について再考しましょう。自己開示を考えるうえで最も重要なのは、【秘密の窓】です。【秘密の窓】に書かれていることが多い場合、うまく自己開示できていない可能性があります。【秘密の窓】に書かれていることは、少しずつでも意識的にさらけ出していきましょう。
以上のようにジョハリの窓を活用すれば、自己開示に役立ちます。ジョハリの窓を作成する過程で自分を見つめ直せるので、自己開示が苦手な人も、じゅうぶんできているという人も、ぜひやってみてください。
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人に心を開いてほしいときは、まず自己開示をし、手の内をさらけ出してしまうのが効果的です。人となかなか打ち解けられずお困りの方は、今回ご紹介した内容を、ぜひ活用してみてくださいね。
J-STAGE|自己開示の深さを測定する尺度の開発
大堂庄三(2003),『精神遅滞児の臨床 原因・脳・心理・療育』, 青弓社.
渋谷昌三(2001),『心理学が使える人が成功する 仕事と人間関係69のテクニック』, PHP研究所.
渋谷昌三(2014),『なぜ、この人に部下は従うのか 「人」を動かす8大法則』, 東洋経済新報社.
平木典子(2013),『図解 相手の気持ちをきちんと<聞く>技術』, PHP研究所.
中土井僚(2014),『人と組織の問題を劇的に解決する U理論入門』, PHP研究所.
西村克己(2017),『パターン別 困った部下こそ戦力にできる 任せ方のトリセツ』, パンダ・パブリッシング.
ヒューマンアカデミー(2017),『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第4版』, 翔泳社.
安田正(2016),『超一流の雑談力 「超・実践編」』, 文響社.
ゆうきゆう(2017),『マンガでわかる! 心理学超入門』, 西東社.
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。