仕事において、対人関係の悩みは尽きることがありませんよね。
上司から信頼を得ること、同僚から好かれること、部下のモチベーションを上げること――。これらを実現するには、どんな人ともうまく付き合える能力が必要だと思う方は多いでしょう。そして、そうした能力には自信がなく、周囲といい関係を築くことなどできないと感じる方もいるはずです。
ですが、対人スキルに自信がない人でも、対人関係を良好にするために “装う” ことならできるかもしれません。「○○なふり」をするだけで、人といい関係をより築きやすくなる可能性があるのです。ではどんなふりをすればよいのか、ご紹介しましょう。
1.「前向きな言葉」で「楽観的なふり」をするといい
落ち込んでいる同僚や部下を明るく元気づけてあげられるような朗らかさを、自分はもち合わせていない。暗くて冷たい人だと思われているかも……。
そんなあなたは、楽観的なふりをしてみてはどうでしょうか。“楽観的” というとそもそもの性格の問題だと考えられがちですが、じつは相手の言葉を “前向きな言葉” に言い換えるだけで、自然と楽観的な雰囲気を醸し出せるのです。
『「感じがいい人」の行動図鑑』著者で産業カウンセラーの大野萌子氏は、「相手に良い印象を与える」には「リフレーミング」を意識するとよいと推奨しています。リフレーミングとは「物事を違う角度から捉えるテクニック」で、簡単に言えば言葉の言い換えです。(カギカッコ内引用元:@DIME|感じがいい人はネガティブな言葉をポジティブに変換するのが上手)
わかりやすいのがこちらの例。性格に関する一見ネガティブな特徴も、言い方を変えるだけでポジティブなものに変わることがわかりますね。
- 感情的 ⇒ 感受性が豊か
- 注意散漫 ⇒ 好奇心が強い
- 大人しい ⇒ 聞き上手
- 仕事が遅い ⇒ 誠実で丁寧
このテクニックは、謙遜するあまり自分自身のことを否定的に表現する人と接する際に有効です。というのも、日本人にはクセで自己否定の言葉を使う人が多いから。「特に日本人は、謙遜して自分のことを悪く言う人が多い」と大野氏も述べています。(カギカッコ内引用元:同上)
たとえば、会話のなかでリフレーミングを用いれば、相手を励ますこともできるのではないでしょうか。人事評価で想定よりも低い結果になって落ち込んでいる同僚があなたにこう言ってきたとします。
同僚「評価が得られなかったのは自分のせいだってわかっている。大人しくて不器用だから、イレギュラー案件の処理がうまくいかなかったんだよね……」
そうしたらあなたは、リフレーミングを用いてこんな返し方をしてみましょう。
あなた「今回の人事評価は残念だったけど、あなたは誠実さや丁寧な仕事ぶりでチームに貢献していると思う。難しいクライアントの信頼も勝ち取ったよね? あなたの真摯さは評価に値するものだよ」
このようにリフレーミングを活用すれば、相手のよい部分にフォーカスすることができます。言葉を少し工夫して “楽観的な人” として相手に接すれば、「この人といると安心する」と思われますよ。
根っからのポジティブ人間でなくとも、言葉の工夫によって楽観的な雰囲気を装うことができます。周囲との関係もきっとよくなるはずです。
2.「事実と意見」を分けて「冷静なふり」をするといい
仕事でイラっとする出来事があったとき、つい怒りが態度に出てしまった。まわりはきっと、自分のことを感情的で嫌な人だと思っただろう。もう信頼してもらえなくなるかも……。
そんな経験をしたことがあるなら、冷静さを装ったコミュニケーションを心がけてみましょう。コツは、事実と感情を分けることです。
精神科医の樺沢紫苑氏は、多くの人が「感情に支配され」てしまう原因は、「『事実』と『感情』を分ける」ことができていないからだとしています。(カギカッコ内引用元:Smart FLASH|樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」ひろゆきに学ぶディベート力…事実と感情・意見を分離せよ)
たとえば、上司からこんな発言をされたとしましょう。
「基本的なビジネスメールの作法もわからないなんて、やる気がないのでは?」
そしてあなたは「そんな嫌味な言い方をしなくたっていいのに!」と怒りがこみ上げ、上司が席を外したすきに悪態をついたとします。近くにいた同僚は「まぁまぁ……」とあきれ顔。
このとき、事実としてあるのは「メールの作法が不適切だという指摘を受けたこと」です。「怒りが込み上げてきた」というのが感情の部分。これらを区別できていないと、どうしても感情的になってしまいます。
そこで冷静さを装うために、「事実」と「感情」を分けて考えてみるのです。すると、「メールの作法が不適切だという指摘を受けた」のだから「メールの適切な作法を覚えよう」という方向に、対策を落ち着いて考えられますね。
樺沢氏は、事実と感情を分ければ「相手に対して感情的なしこりが生じることもなくな」ると述べています。これは、「ディベート」と同じ考え方なのだとか。(カギカッコ内引用元:同上)
内心ではイラっとしたり頭にきたりしていても、事実を認めながら、今後どうすればいいかを考える。このように冷静に対処できれば、周囲の目には “穏やかな人” “冷静な人” として映るはず。人間関係の摩擦はなくなるでしょう。
3.「関心のある態度」で「ほめ上手のふり」をするといい
他人をおだてるのがうまい人と違い、自分はお世辞のひとつも上手に言えない。同僚との距離がなかなか縮まらないのはそのせいかな……。
そんなあなたは、“ほめ上手” になれるちょっとしたコツを押さえてみてください。それは相手に関心をもつこと。
コーチングサービスを提供する株式会社mento CEOの木村憲仁氏は、コーチングの観点から、ほめることの本質は「相手の存在を肯定し、自尊感情を生み出すこと」であると述べます。
「褒める」ことをもう少し広い定義でとらえると相手を ”認める” という行為に内包されます。
(カギカッコ内および上記引用元:DIAMOND SIGNAL|重要なのは「認める」こと、マネージャーが意外と知らない「褒める」行為の本質)
つまり、ほめ上手な人は、相手の存在そのものを認めるのがうまいのです。
とはいえ、自分より立場の低い部下、あるいはライバル視している同僚などの功績を素直に認められるほど、人間の感情はシンプルではありませんよね。自分を認めてもらいたい欲求があるからこそ、相手を認めることが困難にもなるものです。
では、どうしたら人を認められるようになるのでしょう? 木村氏は、「好奇心を持った観察」を心がけるとよいと述べます。
対話の中から相手のちょっとした特徴や変化を見つけ、見たままのことを伝えることで相手の中に自分自身の存在への承認を生み出していきます。
(カギカッコ内および枠内引用元:同上 ※太字は編集部が施した)
つまり、関心をもって相手を見るのが重要だということ。大げさにほめる必要はありません。相手の些細なことに気づき、それを伝えるだけで十分なのです。
実際にこれを活用すると、同僚にこんな接し方ができるでしょう。
- 「資料のグラフや図が見やすかったよ。あれなら、ひとめで市場シェアの変動がわかる」
- 「クライアントに進捗状況の遅れを迅速に送ってくれたね。助かるよ」
関心のある態度を示せば、相手の心を開けます。おのずといい関係を築けるでしょう。
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周囲から好かれたいと思っても、無理に明るく振る舞ったり、お世辞を言ったりしなくていいのです。ちょっとした “ふり” で装えば、きっと好印象をもたれるはずですよ。
@DIME|感じがいい人はネガティブな言葉をポジティブに変換するのが上手
Smart FLASH|樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」ひろゆきに学ぶディベート力…事実と感情・意見を分離せよ
DIAMOND SIGNAL|重要なのは「認める」こと、マネージャーが意外と知らない「褒める」行為の本質
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。